番外編⑩「いつになったら反省を見せるのですか?」




「フン!」
「ちょっと私にいかりをぶつけて来ないでよね!」
「別にシャルトにぶつけていません!」

 只今の時間、私はシャルトと勉強中であったが、キールとの一件があってから、思い出しては頭に血が上って、無意識に鼻息を荒くしていた。あれから五日も経ったんだけど、未だにキールとは仲違いしたままだった。

 喧嘩した(とはいっても私が一方的にプンスカしているだけだけど)翌日の夜から、キールは自室で眠るようになってしまい、彼とは丸五日間、顔を合わせていなかった。

「ねぇ、最近キールどうなの?」
「どうなのっていつもと変わらないわよ」
「フ、フーン」

 そうなんだ。てっきり私との事を気にして落ち込んでいるのかと思ったのにさ。そんな私の思いにどうやらシャルトは気付いたようで……。

「キールが落ち込んでいるとでも思った? それはないわよ。王として一個人の感情で左右されないよう、常に冷静さを保ってもらっているからね。ちっとやそっとの事じゃ、気は沈まないわよ」 「フンッ!」

 シャルトは私との件をちっとやそっとと大した事がないって言いたいのね!

「千景、アンタももっと器の大きい人間になりなさい。今後、妃としてやっていくのなら、今回の事ぐらいで、ずっと腹を立てているのは……」
「そうやってシャルトが悪い事を流して甘やかすから、キールが反省しなくなったんだ!」
「今度は私に当たる気! いいかげんにしなさいよね!」
「フンだっ!」

☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆

 結局シャルトとも仲悪くなったじゃん! これも全部キールが私を騙していたのが原因なんだからね! 今日の晩御飯と入浴を済ませた私はいち早く床へとついた。もうイライラが治まんない!

 だってもう五日間も経っているのに、キールが謝ってこないところをみると、自分は全然悪くないと思っているんでしょ! 信じらんない! このまま私の気持ちが離れていっても知らないんだから!

 ――コンコンコン。

「ふぇ?」

 フンフンッと鼻息を荒くしていると、部屋の扉からノックする音が聞こえた。

 ――も、もしかして!

 キールかもしれない! とうとう許しを請いに参ったか! 私はすぐに向かって扉を開けた。すると……?

「あ!」

 扉の先で待っていた人物を目にして、思わず短く声を上げた。

「なんだ、アイリか」

 珍しい来客だ。アイリはアイボリー色の煌々とした礼服を身に纏って、夜にも関わらず陽射しを浴びたようにキラキラと輝いていた。何度見てもこの秀麗さに目潰しさせられそうになる。

「なんだって期待外れな言い方だったね」

 アイリの美顔に少しばかり切なさが滲んでいた。

「そんな事ないよ。で、こんな時間にどうしたの?」
「うん、たまには千景と話がしたいなって思ってさ。中に入ってもいい?」
「ほぇ?」

 君が一番に仕えている王の婚約者フィアンセの部屋ですけど? キール以外の男性を容易に通すのは良くなくてよ? と、伝える前にアイリはとっとと部屋へと入って来てしまい、そのままクラウンの席へと腰かけた。

「千景、最近元気ないんじゃない?」
「え?」
「だってキールと一緒にいないんでしょ?」
「そ、そんな事ないけど。キールが悪い事して私から距離を置いたんだから。むしろキールの方が切ながっているんじゃない?」
「そんな感じには見えないよ」
「!」

 なんですと! 私は目瞠目してアイリをガン見した。サラリと否定したけど、今の言い方だとキールは全く切ながっていないように聞こえたぞ。なんてヤツだ! 無理強いしているのか! 意地を張っているのか!

 アイリなら、ずっとキールの傍で仕事をしているから、様子が丸わかりだと思って訊いてみたのに。意想外の答えに私は怒気が湧いてきた。

「あれ? 千景怒ってる?」
「怒ってません!」
「ん~、千景が敬語を使う時は怒っている時だね。無意識なんだろうけど」
「ムゥー」

 洞察力に長けているアイリにはお見通しか。

「キールの反省のなさにガッカリとしているんですぅー! ほっんとキールには残念だよ。私の気持ちが離れて行っても知らないんだから!」
「だったらさ……」
「ん?」

 私がプンスカとしていると、アイリは目を細め、意味ありげな表情を浮かべて、私の前までやって来た。
「なに?」
「キールをやめてボクにしておきなよ」
「はい?」

 今、アイリはなんと申した? 美顔に見つめられてポカンとする。

「意味がわからんよ?」
「そのままの意味だよ」
「ん?」

 ボクって……なんでそうなるんだ。あ、そっか!

「アイリなりに慰めてくれているんでしょ? 私が淋しい思いをしているんじゃないかって。でも大丈夫だからさ」
「別に慰めているわけじゃないよ」
「ふぇ?」

 アイリの表情がとんだ真顔となり、それに変に艶っぽさが含まれているのは何故だい? 男性だけど、色っぽいというの? なんでこんな熱っぽい表情をしているんだ!

「もうキールの事はいいんでしょ? だったらボクと一緒になろうよ」
「一緒にってそもそもアイリは私の事好きじゃないじゃん!」
「ボクはずっと前から千景の事が好きだったよ」
「!?」
「初めて会った時から君の事は可愛いと思っていたし、マルーン国との戦の時も千景は自分の命を顧みずにボクを助けてくれたでしょ? あれからボクはずっと君の事を想っていたんだ」

 ――なんですとぉぉおおお!?

 真摯な表情で打ち明けてくれるアイリに、私は度肝を抜かされる。あの恐ろしい戦から、半年以上は経っているでないか。そんな前から想ってくれていたのか! まさかこんなド完璧な美形から、愛の告白を受けるとは!

 しかしだな、このオールマイティーなアイリだよ? 彼のモテ度はこれまた度肝を抜かされるハイレベルなんだよ。そんな彼がなにも私を偉ぶって変じゃないすか? なにか裏があるのか?v
「本気?」
「その本気を見せれば信じてくれる?」
「ふぇ?」

 急に甘々の声で訊いてきたアイリは、いきなり私を自分の胸の内に引き寄せて来て!? 後頭部と腰に手を回され、ギュゥーと強く抱き締められていた!

「ちょっ、アイリ!?」

 こりゃイケナイ行為だっての! こんなところをキールに見られたら! 私がジタバタしようとすると、アイリから余計にギュゥされて身動きが取れない!

「ボクは本気だよ。こうやってずっと千景に触れたかったんだ」
「!?」
「キスもしたいし、抱きたいとも思っている」

 うぉぉ! なんか大胆な発言をされているではないか! 髪を優しく撫でられながら、色声で囁かれて。アイリに恋愛感情はないけれど、変に心臓がバクバクとしてきてしまっているではないか! これだけ密着していれば、この心臓の音は丸わかりだろう!

「千景、愛している。ボクと一緒になってくれ」

 ――うわぁ~! もう愛の告白を通り過ぎてプロポーズになっているよ~!

 どうしよう、どうしよう! 困惑している間に躯を離される。

「?」

 アイリと視線が重なる。見つめられる美顔が熱っぽくて、こ、これは……大人の時間が始まる感じではないですか!?

 ――ドキドキドキドキドキドキ。

 ヤバシシッヤバシシッ! そう思って離れなきゃと思うのに、魅入られて躯が動かない!

「千景、ボクを受け入れて……」

 彼は再び私の腰を引き、そしてもう一方の手が私の胸元へと入る。

「え?」

 驚いている間にアイリの唇が近づいてきて、私は目を大きく見張った。





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