Truth0「幻想的な地にて」




「随分と思い切った行動に出たものだな。このまま相手の生が尽きるまでに、気付かれずに終えたらどうするつもりだ?」

 皮肉を帯びた笑みで問う彼の目の前には艶やかに流れるプラチナの髪をもつ女性がいて、彼女はあやふやな面持ちをしており、それはうべなっているのか否なのか、いまいち読む事が出来ない。

 やがて彼女は口元を綻ばせた。それに彼は訝し気に目を細める。心が甘美に蕩けてしまうような彼女の美しい笑顔も、彼の前では何も変化がない。彼が彼女に遜色ないほど、美しい容色をしているというのもあるが、元から彼には美しさを愛でる感情が存在していない・・・・・・・

「そうですね、望まない物語にならない事を祈る外ありません」

 結果、こう彼女は答えたのだが…。

「オマエは…」

 愚か者なのか……そう彼の喉元から零れ落ちそうになったが、彼は寸前で抑え込んだ。

―――それだけ相手を信じている・・・・・・・・と言う事か。

 彼には理解し難い。元々、彼には感情というものが生まれもって欠如している。人間という生き物の感情とやらにはつくづく頭を悩ませられていた。彼は彼女から視線をそばめて遠くを見渡す。

 辺り一面に幻想的な花が咲き乱れており、花の形は星型で中心部には煌々とした光を宿している。全体的に通して見れば、星空のように美しいのだが、目を凝らして見れば力強かったり儚かったりと、光の強さは花によって異なっていた。

 際限なく続く花畑に彼と彼女は二人だけ・・・・で佇んでいた。美しき花に包まれる乳白色の彼と銀白色の彼女、もしこの場に他者がいれば、彼等を美しき風景の一部として感嘆するであろう。

「いつ見ても幻想的で美しい花々ね。暫くは見られないでしょうから、瞼に焼き付けておきましょう」

 独り言のように呟いた彼女だが、彼女の言葉を耳にした彼は嘆息した。そこである事にも気付く。

「もう時間だ。オマエは戻れ・・
「わかりました。あの…」
「なんだ?」
「最後にお会いする事が出来て良かったです。またいずれお会いするのでしょうが」
「その時はオマエが誰か分からんだろうな」
「え?」

 彼の言葉に彼女は可愛らしい表情で首を傾げていた。今のはどういう意味であったのか、彼女は思考を巡らせる。そしてある考えに行き着く。

「え?……それは少々失礼ではありませんか?」
「本当の事だ」

 皮肉ばかりを言う人だと、今度は彼女が呆れて溜め息を零した。そんな彼女の様子を目にした彼がボソリと言う。

「…オマエのような厄介者が以前にもいたな」
「そうなのですか? 」

 彼女は少しばかり目を瞠った。この彼がらしくもない・・・・・・話題を持ち掛けてきたからだ。

「オマエと同じく王族の人間だった」
「その方の名を憶えていますか?なんという方でしたか?」

 王族と聞き、親しみが湧いた彼女は興味深く問う。だが、

「…………………………」

 彼は記憶を辿ってみるのだが、なにせ何百年もの前の事ですぐに呼び起こせない。

「確か名は…………と言っていたな。オマエのように願望を聞き入れろと煩わしい人間だった」
「え?」

 彼女は彼から口から出た人名に腹の底から驚駭きょうがいした。

―――まさか本当に知っている名であったとは。

 彼女とは違う年代で時を過ごしていた人物である為、直接の繋がりはない。だが、彼女にとってサラリと流せる人物ではなかった。

「それではなんて貴方に要望を出してきたのですか?」

 彼女は立ち入って聞ける話ではないと分かり切っていたが、訊かずにはいられなかった。

―――どうせ彼は答えてくれないであろう。

 そう彼女は予測していたのだが……。

「後世に残したいものがあると言っていた。それは……」

 意外にも彼は話し出した。そして彼女は内容を耳にした時、彼女の心が揺れ動いた。

「……そうだったのですか。それも大きな望みの一つとなりますね」
「オマエの賭けと一緒だ。気付かれなければ意味をもたない」
「そうですね」

 彼女は相槌を打ったが、その心境を彼には汲み取れなかった。それよりも時間が迫っていた。彼は再度彼女に戻るように催促をかける。

「さぁ、もう行け。これ以上オマエはここにはおれん」
「……最後に貴方のお名前を教えて下さい」
「今更か?」
「良いではありませんか。最後の手土産です」
「意味がわからん。……ヒュアランだ」
「ヒュアランですか。ではまたいずれお会いしましょう」





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