Drastic5「未来へ吹き込む温花」




 全身の力を根こそぎ奪われた私はダランとなり、オールの逞しい腕に支えられておりましたが、あまりに私が脱力していたからでしょうか。オールは結合部を離して、私の躯を横たわらせました。

 私は全身で呼吸をおこない、息を吹き返すのを待ちます。熱塊は離れましたが、まだ膣内は熱く波打っておりました。私は絶頂を迎えましたが、射精を浴びていないので、まだオールの熱は解放されていません。

―――という事はもう一戦ありますよね…。

 既に私は三度も高みへと昇っていて、躯はもう十分に満たされておりますが……チラッと振り返ってオールの様子を窺いますと、互いの姿がそれぞれの双眸へと映り、その時ズクンと疼きを孕みました。

 案の定と言うべきでしょうか。オールの表情には欲心が表れていました。すぐにでも満たしたいのでしょうが、グッタリとしている私の様子を見て、抑えているのかもしれません。我慢は気の毒ですよね。

「…オール、まだ達せず辛くはありませんか?」

 私の言葉にオールの金色こんじきの瞳が恍惚色に光を帯びました。どうやら私の言葉通りのようです。

「大丈夫なのか?」

 彼は理性と戦いながら、私を気遣ってくれているのですね。私だけ満足していては意味がありません。互いが満足して愛を感じなければ。

「大丈夫ですよ。きちんと熱を解放させて下さい」
「あぁ」

 オールは素直に頷きますと、スッと私の躯を仰向けにし、片方の脚を自分の肩へと担います。

―――え?あの?

 オールがあまりにも自然な手つきでやるものですから、違和感がありませんでしたが、私の格好は凄い事になっていますが?足を突き出してオールに秘部を見せつけている体勢となっています!全身の肌がジワジワと炙られていくようで、恥ずかしくて堪りません。

 そんな私とは違って、オールは至極真剣な面差しで蜜口に己の分身を宛がい、そしてグッと腰を押し込んで熱杭を沈めてきました。潤った膣内に楔が擦れますと、蜜音が淫らな声を上げて、私の羞恥を煽ります。

「ひゃっあん」

―――す、凄い圧迫感です。

 今日一番の質量感ではないでしょうか。それだけ今のオールが切実になっている事を物語っています。そして欲望に滾る楔は一気に最奥まで埋め込まれ、律動的に抽挿が繰り返されます。

 蜜口までしっかりと引き、そしてまた深く打ち込む楔の姿をずっと目の前にして、私は躯中が燃えそうに恥ずかしいのですが、その羞恥さえも蕩かすような悦楽に追い立てられます。

「は…ぁっん……はぁ、あぁん…」

 色づいた嬌声は止まらず、躯の内側から込み上げる灼熱感によって血が沸騰しそうになります。そして頭の中は快楽一色に滲んでおりました。オールの熱塊も硬く怒張しており、間もなく快楽の極致へ到達すると思っていましたが、

「はぁあんっ」

 ここでオールは躯を屈め、私の硬く凝っている胸の頂を指の腹を使って淫らに翻弄してきました。彼は何処までも私の快楽を引き出そうとするのですね。花芽はどんなに嬲られようとも、喜んだように色づいて勃ち上がり、オールの手にしっかりと馴染んでおりました。

 そしてこの淫技中に熱い視線まで注がれ、言葉を交えなくとも「愛している」の想いを肌で体感し、胸の内が瞬く間に陽だまりのような暖かさに包まれて、私は幸せを噛み締めます。

「オ…ル……愛して…いま…す」

 私は自然と愛の言葉をオールに伝えておりました。彼はハッと息を呑みますが、すぐに赤い薔薇が咲き誇ったような美しい笑みを見せました。あまりにも綺麗に綻ぶ笑顔で、思わず私は昇天しかけましたが、そのよりも先に躯が激しく揺さぶられるようになります。

 きっとオールは私の言葉を素直に喜んでくれているのでしょう。その喜びを快感で表そうと、私の一番弱い奥を重点的に激しく穿ち始めます。受け止め切れない快感が尚も私の躯を支配し、視界も意識も霞んでいきました。

「あんっ、激しっ…そ、そんなに…蠢か…ない…で……くだ…さい」
「はぁ…違う。沙都がオレのを食い千切るように蠢いている」
「ち、違い…ますっ」

 なんて淫らな会話をしているのでしょうか。互いが互いの性器を快感に追い込んでいます。そして高揚感が募り、より深くより強く腰を揺さぶられ、そこにオールがとどめの一言を落としました。

「はぁっ、沙都…オマエを堪らなく愛している」
「はぁあんっ」

 愛の言葉によって恍惚感が余すほど溢れ出ます。私は絶頂の兆しが垣間見え、同時に熱塊が戦慄くのを感じ取りました。これはオールも達しが近いという事を察した私も自ら腰を揺らしておりました。刹那、

「はんっ…あんっ、やぁあっ、はぁあ!」
「…っ」

 裏眼に火花が鮮烈に弾け、躯が大きくたわみ、たちまち私達は絶頂の極みまで到達しました。オールは私の膣内に白濁した液を余すところなく撒き散らし、暫く私はその残滓ざんしを浴びさせられます。

 肌全体が汗でびっしょりと濡れ、躯の水分が不足しているのか潤いを渇望しておりました。息は切れ切れと意識は酷く朦朧とし、さすがに四度目の絶頂は私の限界を超えてしまったようです。

 オールは隣で寄り添うように躯を密着させて、呼吸を整えています。互いが息を吹き返すまで時間がかかりましたが、その間、私の心はとても満たされておりました。次第に落ち着きが戻ってきた頃、私は心地好い眠気に襲われ、フワフワとした気分に変わっていきます。

―――このまま寝落ちたら、良い夢が見られそうです。

「眠たそうだな。もう眠っていいぞ」

 瞼がくっ付きそうな私の様子に気付いたオールは温和な声色で伝えてくれました。

「オールは満足出来たのですか?」
「あぁ、沙都の中はこよない極上だった」

―――ブッ!

 私は心の中で露骨に噴き出しました。今のオールの言葉でスッカリ眠気が吹き飛んでしまったではありませんか。チラッと彼に目を向けますと、彼は優しく私の髪を梳いています。寝て良いという意味ですね。このままオールの腕の中で眠りについた方が良さそうです。

「今日きちんとお話が出来て、本当に良かったです」
「あぁ、そうだな。……そういえば、気に留めていた事があった」
「なんですか?」
「オレが仮眠室にいる事、よく分かったな」
「それはナンさんから伺いましたよ」
「は?なんで彼女が知っていたんだ?」
「ん~、なんででしょうか。私がオールが帰って来ないと泣きつきましたら、“オールさんでしたら、退魔師の仮眠室にいらっしゃいますわ!”って教えて下さいましたよ?」
「…………………………」
「あら?どうしました?」

 ん?何かオールがボソッと呟きました?「ストーカー」と聞こえたのは、きっと私の聞き間違いでしょうね。それからは再び私は眠気に包まれ、愛する旦那様の腕の中で心地好い夢の世界へと落ちて行くのでした…。

◆+。・゜*:。+◆+。・゜*:。+◆

「こちらはとても香りが芳しいですね。お味もまろやかな甘さで舌に馴染みやすいです。高級花シャモアとはまた異なる上品なハーブティですね」
「えぇ、そうなんです。こちらはラボンの花を使用したハーブティなんですよ」
「わぁ、ラボンだったのですね。どうりで香りが良い筈です。今日のナンさんがお作り下さった焼き菓子ローヌとの相性が抜群ですね。ハーブティと焼き菓子ローヌを合わせて頂くと、とても程良い甘さになります」
「まぁ、レネット王妃様ったらお上手ですわ」

 お客様からお褒めの言葉を頂いたナンさんはご謙遜しますが、喜色満面のお姿は心が弾んでいるのでしょうね。さて今日のお茶会ですが、お客様を招いておりました。お客様は西の大国シュヴァインフルトの王妃様レネット様です。

 レネット様はまだ34歳(私の世界でいえば17歳と女子高校生のご年齢です)と大変お若く、外見はフランス人形に命を吹き込んで、お生まれになったような大変愛らしい方です。女性に厳しいあのナンさんもレネット様をとても慕っています。

 レネット様はナンさんと初めてお会いした時から、彼女を女性扱いしていらっしゃいました。大体の方が何かしらの反応をナンさんに見せるのですが、レネット様はそのような素振りは一切ございませんでした。完全にナンさんを女性として見ていらっしゃいます。

 それでナンさんはレネット様を大変慕っているんですよね。時折、レネット様がこちらの国にいらっしゃる時は今回のように三人で女子会を開いて楽しい一時を過ごしております。

「いいえ、本当にナンさんのお作りするものは何でも美味しいです。毎日このような美味びみを頂ける沙都様が本当に羨ましいですね」
「えぇ、それは私も幸せ者だと思っております」
「まぁ、お二人とも!」

 尚もナンさんをお褒めになるレネット様のお言葉に、私が素直に賛同しますと、益々ナンさんの頬が紅葉色へと滲んでいかれました。そんな彼女を目にして笑みを零した私もラボンのハーブティを口にします。

―――ん~、本当に美味です。

 この上品な香りは私の世界でいえばまさに桜ですね。こちらの世界にも桜ととてもよく似たラボンという花があります。桜と同様、年に一度しか咲かず、一週間ほどで咲き散ってしまいます。まさかこちらの世界でも桜を堪能が出来るとは思わず、目にした時、感動を覚えました。

 その花を使用して作られたのがこのハーブティですね。こちらはシャモアの次に高級なもので、上流階級の女性にとても好まれています。そして年に限られた期間でしか楽しめませんのでレアものです。上品な香りが鼻腔をくすぐります。

 そのようなハーブティと合わせてナンさんが用意して下さった焼き菓子は本当によく口に合いますね。またナンさんの手作りというところが、レネット様からの好感度を上げていますね。

「私も美味な焼き菓子が作れるようになりたいのですが」
「レネット王妃様でしたら、ご自分でお作りにならなくても侍従が用意致しますでしょう?」
「そ、そうなんですが、出来ましたら…その…自分で手作りしたものをアクバール様に召し上がって頂きたいと思いまして」
「まぁ」

 思わず私は感嘆の声を洩らしました。たちまちレネット様のお顔が桜色に染まっていかれます。アクバール様とはレネット様の伴侶で、シュヴァインフルト国の陛下です。お熱いお話しですね。何処の世界でも手作りというものは乙女心と言えます。

「熱い!熱いですわ!」
「ナンさん、大丈夫ですか?ハーブティで火傷をしてしまいましたか?」

 違います、レネット様。ナンさんは貴女様のお話しに熱いと叫んでしまったのですよ。と、本当の事は言えませんが、レネット様の夫婦間はとても良好で微笑ましいですね。

「お気持ち分かりますよ。お作りしたものを美味しいと言われたいものですよね」
「はい、それもそうですが、美味しいものを一緒に楽しみたいと思いまして」

 レネット様のお気持ちがよく分かります。私も美味しいものを食べた時、オールと一緒に楽しみたいと思いますもの。

「それでしたら今回は私の焼き菓子をお持ち帰りになって下さいませ」
「宜しいのですか?」
「えぇ、レネット王妃様のお帰りに合わせて、新しくお作り致しますわ」
「わぁ、とても嬉しいです。アクバール様も喜びます!」

 手を合わせて笑みを零されるレネット様は少女のようで本当に愛らしいですね。シュヴァインフルト国の陛下が溺愛なさっているのも頷けます。

「あ、そうだ。代わりという訳ではないのですが、今日ナンさんにお貸しする本を持って参りました。前回お話した恋愛小説です」

 レネット様は膝の上に置かれていた赤ワイン色の上質なハードカバーを手に取られました。

「恋愛小説ですか?」
「はい。今のところ私の一番大好きな恋愛小説です」

 レネット様がさり気なく本を私に渡して下さります。私は本を手にして伺います。

「どのようなお話しなのですか?」
「一国の主と魔女の切ない恋物語なのですが……」
「え?」

 愛らしい笑顔で語るレネット様を前にして、私は一瞬にして硬直してしまいました。一国の主と魔女と聞いて、脳裏にある方達が思い浮かんだからです。本の中身をパラパラと捲っていきますと、一瞬にして目が離せなくなりました。この物語は…?

「このお話しはとても壮絶で、心が苦しくなって本を閉じてしまいそうになる時もありますが、ラストで思いがけない急展開を迎えるんです」

―――思いがけない急展開ですか?

 私は無意識の内にパラパラとラストのページを開いて目を落としました。

―――…………こ、これは!ど、ど、どういう事でしょう!ま、まさかこのような事が!

 とんでもないシーンとなっていて私は絶句します!

―――ま、まさかこのような事が!

 も、もしやこの物語というのは……ローヌ何故このような形・・・・・・・・になっているのでしょうか!ドクドクドクと心臓が何を訴えかけるように力強く打ち突きます。

「レネット様、ナンさん!こちらの本を私にお貸し頂けませんか!」
「沙都様?」
「えぇ、私は構いませんけれど」

 普段、露骨に感情を出さない私が急に必死な様子で問うものですから、レネット様もナン様もキョトンと不思議そうになさっていますが、私はこの物語で頭がいっぱいに埋め尽くされておりました……。

◆+。・゜*:。+◆+。・゜*:。+◆

 レネット様とのお茶会が終わった後、私は至急にオールとエヴリィさんをお呼びしました。お茶会の時からずっと胸がソワソワとして落ち着かず、終えた後も居ても立ってもいられない状態でした。

 私をそのような状態にしたのはレネット様から、お借りした赤ワイン色のハードカバーです。オールとエヴリィさんは勤務中でしたが、二人ともすぐに私の所へと駆けつけてくれました。

 出来るだけ人目を避けたいという私の要望に、特別な応接室を用意してもらい、私はソファに腰を掛けるよりも前に、レネット様からお借りした本の説明をオールとエヴリィさんに致しました。

 ざっくりな内容の説明でしたが、私の話を聞いた二人は驚きの色を浮かべていました。やはりそうなりますよね。私だってまさかこのような事・・・・・・が現実に起こるだなんて信じ難いですもの。

「分かりますか?この物語あまりにも似ていると思いませんか?」
「あぁ、似ているというか、そのもの・・・・だな」
「やはりそう思いますよね」

 ハードカバーをざっくりと目を通したオールも目を剥いておりました。

―――これはまさしくアティレル陛下と魔女マアラニのお二人の恋物語です。

 この物語は現代のアトラクト陛下とマアラニとの出来事まで綴られており、さらに驚く事にこの物語の結末は「未来」の出来事を表していると言えます。

「まさか……これはダーダネラ様?」

 私達の隣である頁に目を通したエヴリィさんが、今は亡きダーダネラ王妃様の名を零されました。彼の姿を目にした私は…………呆れ返り・・・・ます。

「……エヴリィさん、お顔が緩んでいます。シラリーさんに言いつけますよ?」
「オマエというヤツは」

 私達の叱責にエヴリィさんはお顔をブンブンと大きく左右へと振ります。

「ちっがいますよ!今のオレはシラリー一筋ですから!」

 エヴリィさんは即否定をされましたが、怪しいですね。

「そんな事より、一体これは誰が執筆したものなんだ?」

 オールの疑問に私はハッと息を呑みます。そうです、著者が大事ではありませんか。ところが、オールと一緒に目を通したところ、著者の名が何処にも記載ありません。これはまたどういう事でしょうか。

「この筆跡は!」
「エヴリィさん?」

 何かに気付いたのでしょうか。エヴリィさんは本を手に持ち、マジマジと目を通します。

「何故、サラテリ殿・・・・・の執筆した本がシュヴァインフルト国に置いてあるんだ!」
「え?サラテリ殿?」

 そちらの方はエヴリィさんのご先祖さんですよね。アティレル陛下の時代に、この宮廷に仕えていた有能な魔導師です。

―――本当にどういう事なのでしょうか?

 サラテリさんは600年前の人物です。この物語はアティレル陛下とマアラニの事を綴れても現代のアトラクト陛下や、その先の未来までは分からない筈です。それなのに何故、あの方達の出来事を目にしてきたように綴れるのでしょうか。

 それになにより、このラストの出来事が衝撃的・・・です。もしこれが本当に起こり得る出来事であるというならば……物語はまだ続いています。どう考えても信じ難い事なのですが、これは大きな希望です。我がオーベルジーヌ国の、いえ陛下の……。

「一つ気になっていた事があった」

 ここでオールは何かを告げようとしていました。

「実はあの時・・・……」

 もしオールの言う事が本当であれば、きっと……彼女・・は待っている事でしょう。深い深い海の底の世界で。真実・・に気付いて貰える事を願って待っている筈です……。





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