Drastic3「私達は夫婦ですから」




「やはりこちらの部屋に居たのですね」
「沙都、どうしてここに?」

 私の姿を目にしたオールが驚きの色を見せました。滅多に表情を崩さない彼ですが、本気で驚いているようですね。ここは退魔師の仮眠室の前です。今宵も夫婦の寝室に姿を現さなかったオールが心配になった私はここを訪れました。

 オールがあからさまに私を避けている事に気付いたからです。やはり昨夜の舞踏会の件が原因でしょう。昨夜はオールに頭を冷やして貰いたいと思い、別室で眠った事に後悔はありませんでしたが、今日も別というのは居た堪れません。

 今夜、私はきちんとオールに謝りたいと思っておりました。ですが、今日も彼は別室で寝ようとしていたという事はまだ彼は怒っているのか、それとも反省しているのか、その心情は聞いてみない事には分かりません。

「きちんとお話をしたいと思いまして」

 私が顔色を窺うような様子で伝えますと、オールは考え込むように伏し目がちになりましたが、僅かな間を置いた後、答えます。

「中へ入ってくれ。今は誰もいない」

 私は部屋の中へと招き入れられました。室内は仮眠室なだけあり、寝台と必要最低限の調度品しか置かれておりません。寝台の数を見る限りでは6人まで使用が出来るようです。

 今は私達の他にどなたもいらっしゃいません。妙に部屋が閑散としているように見えますが、既に人が寝静まる時間を迎えていました。今は私もオールも夜着姿です。

「適当に掛けてくれ」

 オールに座るよう勧められた私は近くにあった寝台へと腰を下ろしました。すると、オールも私の隣に腰を掛け、真っ直ぐに私の瞳を見据えます。

―――ち、近いですけどね。

 オールは人の話を真剣に聞く時はこのような姿勢を取ります。どちらが先に話を切り出すか、互いに窺っておりましたが、私の方が先に痺れを切らしました。

「オール、どうして今日も別室で眠ろうとしていたのですか」

 自分でも驚きましたが、少し拗ねたような口調で問いました。

「オレは昨夜、沙都に無体を働いた。いくら夫婦とはいえ、オマエの意思を無視した行動だった」
「オール…」

 オールは私から視線を外します。

「昨夜は少しばかり気が立っていた。少し酒を飲んだだけで妙に感情が昂ぶり、らしくない行動をとった」

―――それはエヴリィさんが、お酒に媚薬を混ぜたからです!

 と、思わず私は喉元から零しそうになりましたが、口を挟まずにオールの話に耳を傾けます。

「だからといって酒のせいにするつもりはない。無体を働いた事実は変わらないのだから。そんなオレにオマエと寝る資格がないと思い、部屋を別にした」
「オール…」

 思っていた以上に彼は反省しているようです。いえ、彼はこういう人ですよね。いつでも自分の事より、相手の痛みを分かろうとする人です。私は表情を曇らせているオールの手をそっと両手で包み込み、瞳をしっかりと見つめます。

「それでは私が淋しいではありませんか。昨日に続いて貴方がいない部屋で眠るのは」
「沙都…」

 オールは退魔師です。退魔師は職務の為、数週間と家を空ける事があります。危険を伴うお仕事ですので、オールが居ない間は気が気ではありませんし、数週間も逢えないのは日に日に淋しさが募っていきます。

 そして夜には必ず胸が締め付けられます。ですので彼が宮廷にいる時は片時も離れていたくはありません。離れていますと、どうしてもまたあの不安な夜の気持ちにならざるを得なくなるのです。

「あの、エヴリィさんからお聞きしました。陛下とシャイン様と一緒にいる私を見て、貴方が気にしている事があると」

 私は胸に閊えていた想いを伝えようと思いました。ですが、せっかく合わさった視線をオールは逸らしてしまいます。

「私が愛しているのはオールです。ずっと傍らでいたいと思う男性ひとはオールただ一人です。この私の気持ちはこの先も揺らぐ事はありません」

 私はオールの双眸を捉え、自分の想いをぶつけます。私が望む場所は陛下の傍ではありません。そこをきちんと分かってもらわなければなりません。オールは身動みじろぎせずに、じぃと私を見つめております。

 …………………………。

 ややあってオールは静かに口を開きました。

「沙都の想いを疑っている訳ではない。オレに向けてくれる想いは実感している。ただ沙都の本当の幸せは陛下の元にあったのではないかと思う時がある。そこにはシャイン様もいらっしゃるしな」 「オール…」

 私の想いを疑っている訳でもなく、オールの愛が冷めてしまった訳でもありません。本当に何処まで相手の事ばかりを考えるのでしょうか。もうここまで来るとどうしようもありませんね。

「私の幸せは私が決めます。私がオールの傍にいる事が幸せであると言うのなら、それが私の幸せです。オール、周りの声に耳を傾けないで下さい。私の事は直接私に聞いて下さい」

 やたら私わたしと強調する形になってしまいましたね。オールは一瞬、面食らった顔を見せましたが、すぐに口元を綻ばせました。

―――何故、ここで破顔したのでしょうか?

 私がキョトンとなって首を傾げておりましたら、

「まさか沙都に言われるようになるとはな」
「え?」

 オールから思いがけない言葉を言われました。

「“私の事は私に聞いて下さい”という言葉、オレがよく沙都に言っていた」
「あ…」

 言われて気付きました。憶測で物事を言う事をオールは好ましく思っていません。たまに私も注意される時がありますが、まさか自分がそのセリフを言うとは思いませんでしたね。普段のオールは決して憶測で物事を言う人ではありません。

 そんな彼が内に潜めて思い悩んでいたとは、それだけ不安を抱いていたという事になります。そんな思いをさせてしまったのも、私自身に原因があったからですよね。それを今とても反省しております。

「沙都」
「はい」
「この間は手荒な真似をして悪かった」
「え?」

 オールの透き通る金色こんじきの双眸に私の姿が映っています。その力強い瞳に後悔の念が含まれているように窺えました。彼は深く反省をしているようです。

「もうあのような事は二度としないと約束する」

 あ、あれは媚薬が入っていましたからね。もう口にしなれば大丈夫でしょう。

「もう迷いが何もなくなったしな」

 オールから仄かな笑みが零れます。

「え?それは…」

 オールの中で閊えていた想いが無事に拭えたのでしょうか。私はもう自分のせいで愛する彼を苦しめたくはありません。

「やっと分かってくれたようですね」

 私はオールの手を握っていた手にグッと力を込めます。

「オール、改めてこれからも宜しくお願いしますね」
「あぁ」

 私が笑顔で伝えますと、オールも笑みを零して答えました。それからオールは私の番いのピアスに手を添えます。愛おしむように見つめるその瞳から確かな愛を感じ、私の胸の内に暖かな風が吹きました。

 私も同じくオールのピアスに触れようと身を乗り出しました。私の手がオールの顔元へと伸びた時、私の手の平にチュッとリップ音と共に、キスが落とされます。

「え?」

 オールの仕草はごく自然ではありましたが、私には妙に色っぽく見えてしまい、触れられた部分がジュゥ~と熱を孕みます。それからすぐにオールの顔が近寄り、唇にも口づけを落とされました。

「沙都、オレも愛している」

 唇が離れてすぐにオールは愛の言葉を囁いてくれました。彼の美声で囁かれるのは何度耳にしましても躯の芯が疼きます。

「オレも沙都と同じ想いを抱いている。愛しているのも、生涯かけて傍らにいたいと思う相手は沙都一人だけだ」
「オール…」

 胸の内がキュゥ~と甘く痺れます。こうやって自分と同じ気持ちを表してくれる事がどんなに嬉しいか、もう言葉にならないほど心を満たしてくれます。それから私達は自然な流れで口づけを交わします。

 手の平の時よりもずっと火照る熱が湧き、躯全体が愛に包まれているような感覚です。絡み合う舌によって熱は口溶け、私は快感に打ち震えます。躯の芯がズクズクと疼き出し、次第に愛欲が芽生えてくるのを感じ取りました。

 このままの流れでより深く愛を感じていたいところなのですが、気が引ける気持ちもあります。ここは私達の寝室ではありませんからね。一通り口づけを味わった後、私はタイミングをみてオールに声を掛けました。

「オール、これ以上は…。どなたか来られるかもしれませんし」

 ここは共同の仮眠室ですからね。いつ人が来てもおかしくありません。火照っている躯の時に言うのも、オールの機嫌を損ねるかと思いましたが、全くそんな心配はありませんでした。

「そうだな。これ以上先へ進んだら歯止めが効かなくなる」
「そ、そうですね」

 未だオールから性を匂わす言葉を耳にしますと、妙にドキドキと心臓が早鐘を打つんですよね。それはともかくオールも分かってくれたようですし、早くこの部屋から離れましょうか。

「では私達の寝室へと戻りましょう」

◆+。・゜*:。+◆+。・゜*:。+◆

 夫婦の寝室に戻った私達は躯に残っている熱が惹かれ合うように、互いを求め合いました。寝台に腰を掛け、私はオールの首に腕を回して、口づけに没頭します。たった一日夜を過ごさなかっただけでも、その淋しさを埋めるように、私はオールの唇を求めました。

 蠢く舌、熱い吐息、滾る水気、それらから伝う互いの愛情が混ざり合い、いつしか極上の快感が生まれ、幸福感いっぱいとなります。こうやって私はまた極上の世界へといざなわれるのです。

 何度躯を重ねても触れられる時の甘く痺れる感覚は思春期の頃に感じる甘酸っぱさがありますし、その初々しさの裏側には狂わしい程の愛おしさも渦巻いています。淡白な自分がこれ程まで情熱的な愛を抱く事が出来るのは相手がオールだからです。

 本当に愛おしく、本当に愛しています。どうしてこんなにも愛しているのか、自分でも分からないぐらい彼を愛しています。そして私が求める分だけ同じ…いえ、それ以上の愛をオールは返してくれますね。

 一頻ひとしきりの口づけを交わした後、唇が離れて視線が縫い付けられます。オールのき付けるような黄金色の瞳は情熱によって燃えており、私の躯に火が点けられ羞恥に覆われますが、甘美な心地を抱いているのも確かです。

「瞳が恍惚を帯びているな」
「え?」

 より情熱的な眼差しで、そのような事を言われたものですが、躯の火がさらに燃え盛るではありませんか。私の瞳に色欲が現れているという事ですよね。

「熱を解放させないと辛いな」

 オールは呟くなり、私の唇にキスを落とし、舌は絡ませずに私の首筋へと舌を這わせます。私はブルッと震え、躯が強張りました。それから舌は私の耳朶へと回り、優しく外側から内側へと徐々に移行していきます。

 愛しているなんてサービスの言葉はありませんが、オールの熱い吐息や淫靡な水音によって、何度も躯を震え上がらせました。ここで愛しているの言葉があったものなら、即死してしまいますね。

「ひゃっ」

 弱い場所に舌を這われ、声が弾けます。そんな声を上げたものですから、そこを執拗にねぶられてしまい、私は身を捩ってオールの舌を離そうと声を掛けました。

「こ、これでは逆に熱が籠ってしまいます」
「すぐにイキたいか?」
「ひゃっあ」

 い、今、耳元で一言囁かれるだけで、感じてしまいました。オールの甘い美声は私の性感帯を簡単に刺激してしまう、ある意味凶器です。そして当の本人は不思議そうに私を見つめています。

 もう、そこはそっと気付いて下さい。貴方の声で身震いしたんです。オールは変なところで天然ですからね。私はじとっとした目で彼を見つめ返したのですが、それを彼は何を思ったのでしょうか、

「ちゃんとイカせる。だからそんな物欲しそうな目をするな」

―――へ?

 見当違いな言葉を返されて、私は呼び覚まされたような表情になります。どうやらオールは私のじと目を物欲しいと読み違えたようですね。勘違いされている内容が内容なので、恥ずかしくてなりません。

 恥じらいの心が拭えませんので、せめて物欲しそうな目をしていたのは違いますと、否定しようかと思いましたが、オールの手が私の夜着に手をかけているではありませんか!

「あ、あの…」

 そして裾を掴まれ、そのまま剥ぎ取られそうになります。二つの膨らみがまろび出たところで、私は顔から火が出そうとなり、躯が変に捩ってオールに背を向けてしまいました。なんだか今日はとても羞恥を抱いてしまいます。

 気を悪くしてしまったのではないかと懸念して、チラッとオールへ視線を移しますと、背後からフワッと抱き竦められ、耳元、首筋、目元、頬へ順番に啄まれていきます。躯を熱く抱き締められ、私の鼓動の音は正常を失います。

 それからオールの手は私の夜着の裾を握って脱がせようと、私の頭の方へと上げていきます。露出されていく背中を上に向かって何度か口づけを落とされ、躯が自然に寝台の上へと倒れました。

 うつ伏せになっても、なお背中への口づけは続き、口づけられた場所はヂュゥ~と熱を帯びて、躯の芯が疼きます。吐息のような声が洩れるのを私は必死でこらえている内に、夜着は私の腕を通して、すっかりと脱がされてしまいました。

 寝台に顔を伏せているので見えませんが、音でオールが脱衣しているのを察し、自分の肌が羞恥に染まっていくのを感じます。そこにまた甘美な口づけが、今度は跡を付けるように強めに吸われました。

 ビクンッと私の躯が跳ね上がりますと、脇からオールの手が回り込み、双丘の一つを包み込まれます。すぐに弧を描くように揉まれ、目の前で胸が形を変えて躍らされている姿はとても淫猥な気分にさせられました。

「あんっはぁんっ」

 ずっと堪えていた声はもう抑えが効かず、溢れ返るように零れ落ちます。その内に自然と躯が浮いて横たえる姿勢に変わりますと、再び脇からオールの手が回り込み、双丘を揉み立てられてしまいます。

「はぁんっ、あん…んあっ」

 私の嬌声は大気に溶け込み、無意識に躯を捩った時です。背に体温を感じ、いつの間にか私と同じく横たえているオールから、抱き竦められている事に気付きました。しっかりと引き寄せられており、オールの甘く色めく吐息が私の鼓膜を震わせます。

 気が付けば秘部はすっかりと濡れそぼっており、ショーツが滲んでいました。このままではショーツが使い物にならなくなってしまいそうな勢いです。そんな懸念を抱いた時、胸を翻弄していたオールの手が秘部へと下りてきました。

「ふっぁあっ」

 甘ったるい声が発作のように洩れてしまい、軽く這われただけでも籠っていた熱が発散していきます。そこで足に違和感を覚えます。目を向けてみますと、片足を高く上げられていました。

「え?あの何を?」

 私をギョッと目を剥き、顔を振り返ってオールへと問います。

「一度完全に熱を解放させる。沙都、膝裏ここを自分で持っていろ」

――え?え?





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