Drastic2「違う貴方に抱かれて」
甘やかな感触に唇が包まれます。甘美な熱に浮かされ、二人だから感じられる、こちらの熱はとても心地好いです。一体感を味わっているような、そんな夢心地を抱かせてくれます。
―――先程の私の言葉で、オールの心に何かをもたらせたのでしょうか。
決してオールは衝動で私に触れてきたりはしません。いつも理性と誠実を保っていますが、今回は珍しくほんの少し箍が外れたのでしょうか。重なる唇から微かにお酒の匂いを感じます。
オールに限って任務中に酔うという事はないと思いますが、少しだけお酒の勢いがあるのかもしれません。周りが暗く人の目に触れていないにしろ、私達がこのような場所で口づけするのは初めてですし。
―――オールの心を動かしたものがあれば、純粋に嬉しく思います。
熱が躯の奥にまで行き渡りますと、ごく自然に舌が交じり合いました。そこからはもう情熱的な時間の始まりとなります。世界が一変し、もう目の前のオールしか見えなくなりました。後頭部をしっかりと押さえられ、互いの舌が深く執拗に絡み合います。
舌が擦れ合う度に官能的な水音が弾け、私の耳朶が何度も震え上がります。暗闇で視覚が遮断されているので、舌の動きや水音といった感覚で味わいます。想いを重ねてから、幾度も口づけを交わしておりますが、今でもオールは丁寧です。
私の口腔を余すところなく廻り、時には顎上や歯茎など私の弱い部分をなぞります。滾る熱はオールの愛であり、それは舌が絡み合う度に惜しまなく注がれ、溢れ返って口元から糸を引いて零れ落ちます。
「ふっ…あ、あぅっ」
鼻から息つく事が困難になるほど、濃厚な口づけが繰り返され、気が付けば私はオールの首に腕を回し、彼を引き寄せて口づけに没頭しておりました。オールの息遣いも乱れており、彼の気持ちも高ぶっているのだと思えば、昂奮を覚えます。
私は酔いを醒ましにこちらまで来ましたが、これでは一向に酔いを醒ます事は難しそうです。寧ろこの酔いにずっと溺れていたいと思ってしまう自分がいて、この蕩け合うような口づけによって、心は幸福感へと満たされていきます。
気持ちが最高潮に至った時、胸に質量を感じ心臓を持って行かれるのではないかと思うぐらい驚いてしまいました。この雰囲気の流れからして、先へと進むのはごく自然ではあるのですが、ここはお外ですしね?
いくら周りが暗いとはいえ、私は何処となく気が引けてしまいます。そう思っていたのですが、絶妙な手つきで揉まれながら、胸の尖頭を踊らされますと、その理性が崩れていきます。
オールの手つきから尖頭がビンビンに硬くなっているのを感じており、口内もずっと熱を注がれているままです。絶え間なく生まれる熱は弾ける場所がなく、私の躯の中でずっと快感となって渦巻いていました。
「あぅ…はぁっ…あんっ」
くぐもった声を洩らしますと、完全にオールの劣情に火を点けてしまい、彼の手が私のドレスの隙間を縫って、直に肌へ滑り込みました。ドレスの形はこの暗さなので分からない筈ですが、なんて器用なのでしょうか。
―――なんて感心している場合ではありません!
さすがにこれ以上進んでしまいますと、声も抑えづらくなりますし、この辺で止めておかなければ。私は唇を離してオールに声を掛けようとしました。ところが…。
「オ……ル…ひゃっあ」
私が声を掛けるよりも先に、激しい口づけを落とされてしまい、私の声は言葉になりません。口づけは耳朶から首筋へ、徐々に下へと滑り落ちて行きます。いつもの甘やかな愛撫とは違い、少々強引のような気がします。
「あぅっ」
オールの唇が胸の上部へと落ちた時、声を発して躯を引きそうになりましたが、グッと腰を引き寄せられ、さらに胸元をはだけさせられます。まろび出た胸の頂をオールは透かさず口内へと捕らえました。
「ひゃっ」
熱の籠った舌が蕾を弄び、さらにドレスの裾を捲り上げられ、オールの長い指が内腿を伝ってきます。
―――ど、どうしたのでしょうか!
やはり違和感を拭えません。オールの愛撫はいつも丁寧です。すぐに胸の頂にも秘部にも触れてはこないのですが、今回は半ば強引に迫って来ている気がします。
「んあっ」
指が秘部の中へ挿入しますと、クチュッとした蜜音が漏れ、既に秘部は潤いを帯びていました。すぐにクチュクチュと律動的に蜜音が奏でます。
「はぁっん…んぁっ、あんっ」
オールの様子がおかしいと思いつつも、強引さが新鮮に見え、興奮してしまう自分がいます。いつからこんな自分は猥りがわしい人間になってしまったのでしょうか。
「もう随分と濡れている」
ボソッとオールが呟きます。えぇ、えぇ言わなくとも分かっていますよ。今のオールの言葉で、少しばかり私は冷静さを取り戻しました。そうです、ここは外です。躯で愛を語っている場合ではありませんでしたね。
「オール、場所を…「これならすぐに挿れられる」」
―――はい?
き、聞き間違いでしょうか。いえ、聞き間違いですよね。オールがまたとんでもない事を呟いたように思えましたが?さ、さすがにこちらの場所ではありませんよね。そう都合良く理解していたところに、オールに腕を掴まれます。
「え?あ、あの?」
暗いのでオールが何をしたいのか分かりませんが、クルッと躯を回転させられ、それからドレスの裾を背中までたくし上げられてしまいましたよ?
「あ、あの、オール!ここは外なので「そこに手ついて、ここを突き出してくれ」」
―――えぇ!壁に手をついてお尻を突き出せというのですか!
私は吃驚します。躊躇っている間に、オールから背を屈折させられ、平行感覚を失いそうになった私は前方にある壁に手をつけざるを得なくなり、おのずと臀部を突き出す格好になってしまいました。
―――ま、まさか後ろからですか?
いやまさかですよね?ですが、服が擦れる音を耳にして、明らかにオールが事を為そうとしているではありませんか!私は顔だけ振り返って、オールを止めようとしました。
「オ、オール、待って下さい!やっぱりここでは…ひゃっ」
皆まで言わぬ内にショーツを素早くずらされ、臀部を大きく割られます。
―――ドクンドクンドクンッ。
胸の内で心臓の音が強打し、呼吸困難になりそうです。私は羞恥に身を焦がされそうなります。や、やっぱり抵抗を感じます!
「このような場所ではいけません!せめて室内に…あんっ」
潤い溢れる蜜口に欲望で滾る熱塊が宛がわれます。位置を確認している楔が微動だにする度に快楽が押し寄せ、鼻にかかった声を洩らしてしまいます。と、感じている場合ではありません!
「オール、止めて下さい」
「抵抗するな、すぐに感じさせてやる」
S気のある低音ヴォイスで、ブルッと私の躯は痺れてしまいました。ってそうではありません!
―――キャラが変わっていますよ!や、やっぱりオールの様子がおかしいです!
いつもの彼であれば、私の声にきちんと耳を傾けてくれます。このように無理に事を進めようとしはしません。
「オール!」
私は体勢を崩してオールの行動を止めようとしましたが、無理に躯を押さえ込まれ、乱暴に楔を挿入されそうになりました。その時、私はカッと感情が弾けて理性が吹き飛びました。
―――バチン!
次の瞬間、肌が衝撃を受けた音が響きました。私からではありません。オールからです。先程、私は押さえられていた躯を振り払って、すぐにオールの頬をひっぱたきました。
…………………………。
辺り一面が暗くても、ギスギスとした空気が漂っているのが肌で感じております。オールは放心しているのでしょうか。何も言いません。私の方は沸々とした怒りが抑えられません。
「見損ないましたよ、オール」
高まった感情で私の声は震えておりました。オールに対する失望ですね。いくら夫婦とはいえ、乱暴があってはなりません。
「私は誠実で優しい貴方を愛しておりましたが、今の貴方はまるで別人に思えます。少しは頭を冷やして下さい」
私は冷めた感情でそう言い放ちますと、オールに背を向けて走り出しました。駆け出す靴音を耳にしたオールからすぐに名を呼ばれます。
「沙都っ」
ですが、とても耳を傾ける気になりませんでした。人の頬に平手打ちなど、生まれて初めてです。これが最初で最後にしたいものです。私は広間に戻りましたが、とても愉悦に浸る気分にはなれず、広間を後にしました。
この日、オールが私達の寝室に帰って来る事はありませんでした。私が投げつけた言葉の通り、今宵は頭を冷やしているのかもしれません。今夜ばかりは私も顔を合わせずに済んで、ホッと息をつきました…。
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午前中のすべてのレッスンを終え、ようやく息つく時間となります。これから食卓の間へと向かおうとした時でした。
「沙都様~」
軽快な口調で私の名を呼ぶ男性の声が聞こえました。振り返ってみますと、見知った顔の方が私の方へと駆け寄って来ます。
「エヴリィさん?」
―――ま、眩しいです!
今日のエヴリィさんはいつもに増し、キラキラとしているではありませんか。逆光を目の当たりにしているような眩しさです。そんな彼は零れんばかりの笑みを広げ、私の前までやって来ました。
「何か良い事でもありましたか?」
分かっておりましたが、敢えて私は素知らぬフリをして窺いました。最近のエヴリィさんのご機嫌の良さはシラリーさんとの仲睦ましさに限りますからね。血が滲むような思いで、やっと彼女の心を手に入れたエヴリィさんは毎日幸せオーラ全開のようです。
「えぇ、えぇ、私は毎日幸せですよ~」
「相変わらずシラリーさんと仲が宜しいみたいですね」
「えぇ、それはもう♪」
シラリーさんの名を聞いただけで、エヴリィさんの笑みがより深まり、私の目が眩みかけそうになりましたよ。それはもうダイヤモンドの光の輝きを帯びた大輪の花のようです。それだけエヴリィさんはシラリーさんの事を想っているようですね。
「沙都様こそ、お熱いのではありませんか!特に昨夜とか❤」
「はい?」
昨夜と耳にした瞬間、自分の顔が何も無機質な表情へと変わった事に気付きました。
「あ、あれ?」
私の異変に気付いたエヴリィさんがキョトンとなって、私を覗いています。
「沙都様、どうなさいました?昨夜はオールとお楽しみなさったのですよね?二人して広間からお姿がありませんでしたし」
エヴリィさんが面白おかしくからかってきているのは分かるのですが、昨夜のオールとの事を口にされるのは正直気分が悪いです。私は口を噤んだまま、じとっとエヴリィさんを見つめ返します。
「あ!沙都様、もしかして照れていらっしゃいます?大丈夫です、大丈夫です。今更ではありませんか!ふふっ、昨日はいつもと違ったお熱い夜だったのではありませんか?」
「エヴリィさん」
「何でしょう?」
「貴方、何かご存じですね?」
「え?」
今日のエヴリィさん、やたら空気が読めないと思いましたら、何か怪しいと私の第六感が訴えています。無表情で問う私の姿に、エヴリィさんが少しばかりたじろいでいる様子が分かります。
「沙都様、もしかしてオールと何かおありでしたか?」
「大・あ・り・で・す」
「!」
私の語気を強めた答え方に、エヴリィさんはポカンとしていました。内容が内容ですので、オブラードに包んで私は説明をしました。
「昨日のオールはいつもと違って強引でした。誠実で優しい彼に一体何があったのですか?エヴリィさん、白状して下さい」
「さ、沙都様?」
私はエヴリィさんとの距離をジリジリと縮め、彼に詰め寄ります。そして壁まで追い詰められた彼はとうとう観念しました。
「そのご様子ですと、とても熱い夜をお過ごしになったようには見えませんね」
「当たり前です。まさかとは思いますが、エヴリィさんがオールに何か吹き込んだのではありませんよね?」
「誤解なさらないで下さい!オレはあくまでもアドバイスをしたまでです」
「アドバイスですか?」
「そうです。オールが珍しく弱音を吐いたんですよ」
「え?」
私は露骨に驚きの声を洩らしました。オールがエヴリィさんの前で弱音を吐くだなんて……有り得ませんよね?
「あ、その目は信じていらっしゃいませんね?でも本当ですよ。昨日、舞踏会が開催される前に、オールが言っていたんです。沙都様は自分を選んで良かったのだろうか、本当は陛下の傍をお選びになった方が良かったのではないかと」
「え?」
ドクンと胸に深い突き刺さりを感じました。
「な、何故今更オールはそのような事を?」
既に私達は夫婦です。それは番いのピアスが証となっています。オールは今頃になって、私と夫婦になった事に迷いを生じているのでしょうか。私の瞳は悲しみを帯びて潤ってきました。
「時折、陛下とシャイン様とご一緒する沙都様の姿を見て、沙都様が本来いるべき場所はそちらではないかと思ってしまうようです。それに周りもお三方を本当の家族のように思っていますしね。それを耳にする度にオールは胸を痛めていたみたいですよ。考えてみれば、既に沙都様とオールは夫婦であるのに、周りは無遠慮に沙都様を陛下とシャイン様のご家族と描いてしまいますから」
―――オール……。
エヴリィさんの言葉を聞いて思い出した事があります。先日、オールが陛下とシャイン様といる私の元へと来た時です。あの時、彼の様子に違和感を覚えたのは彼が傷ついていたからです。あの時も確か私と陛下の事を話している侍女さん達がいました。
―――どうして私はあの時、もっと気に掛けてやれなかったのでしょうか。
悔やんでも悔やみ切れません。愛しい人が自分のせいで傷ついていたのです。あの時、もっと私が気に掛けていれば、昨夜のような事は起こらなかったのかもしれません。オールの気も知らずに、昨夜もまた私は彼を傷つけてしまいました。
「それで私はオールにアドバイスを致しました。オマエは押しが弱いんだ!と。確かにアトラクト陛下は女性にとてもお優しい。しかし、押す時には強引なほど押される!だからオールももっとアグレッシブに行けと!」
「は…い?」
なんですか、今のエヴリィさんのお話しは?今の内容がオールへ向けたアドバイスだと言うのですか?何か話の方向がおかしくありませんか?
「と、アドバイスをしただけで本当にオールが実践するかどうか心配でしたので、舞踏会の時にちょっと媚薬入りのお酒を飲ませてみました!」
おまけにサラッととんでもない事を口にしましたね。媚薬ってなんですか!
「最低です、エヴリィさん」
「えぇ!」
非常に冷めた目をして私が伝えますと、エヴリィさんは何故?何故?と、本気で驚いていますが、もう彼の事は放っておきましょう。それよりも何故、オールが昨夜のような事をしてしまったのか理解出来ました。
今夜はきちんと話をするべきですね。いくら知らなかったとはいえ、オールを傷つけてしまいました。謝らないといけません。それからようやく夜を迎えましたが、オールは今夜も寝室には戻って来なかったのです……。