Birth25「天神とは…」




「天神のもつ神の力とは我々の世界の魔力とは異なる」
「え?」

 神官様のお話は繋がっていらっしゃるのでしょうが、私には紡げておりません。

「魔力とは言えぬ特別な力、すなわち“神力”の事を示している。この世界では神官が神とされておるが、天神の力は神官のもつ力の事ではない。天神は名の通り、天の神じゃ。この世界の力とは異なるものをもっている」
「?恐れ入りますが、もう少し砕いて下さると…」

 話の意図が見えません。さほど自分に関係性のない話ではあれば、うんうんと頷いて流せるのでしょうが、私には魔女退治の使命を課せられています。きちんと理解をしなければ、大変な事になります。

「天神とは“異界の神の力”を宿した者を現す」
「え?」

 異界の者…私がこの世界の者でない事は確かです。しかし、神の力を宿しているという事には当て嵌りません。そもそも…。

「あの、私がいた世界では魔法は物語の中だけの存在であり、実際、私は魔力を持ち合わせておりません。そして、こちらの世界に参りましたとはいえ、魔法が使えるようになっているとも思えないのです。今もこの杖を手にしても、何も反応がありません」

 私は杖を顔の前へと立て強調します。ですが、神官様のご様子は少しも変わられていません。何か自分が間違った事を言ってしまったような虚しさに見舞われます。

「其方が天神で間違はない。アトラクト陛下の御子を其方の胎内に宿すと共に、我々は“天神”の召喚をおこなったのだ。其方が天神でないのであれば、この世界に参る事は出来ぬ」

 応えはいとも簡単に覆されました。その内容は昨日エヴリィさんから聞いたものと同様です。一体、どうしたら良いのでしょうか。

「現時点では力の立証が出来兼ねます。天神の形だけを頂きましても、中身が伴わないのであれば、意味を成しません」
「神力は天神のみが知る力であり、我々には未知じゃ。いずれ時が来れば、力は発揮されるであろう」

 参りました。どれだけ説明をしても、無力を立証出来ないような気がしてきました。こうも確証のないものに、希望をもたれているのは何故でしょうか。何か得ている確証があるのでしょうか。不躾に私は神官様へ疑いの目を向けておりました。
v 「その確言を得ていらっしゃるのは何かおありなのでしょうか?例えばですが、過去に私のような天神として、こちらの世界に来た者がいたのでしょうか?」
v  辺りを纏う空気が揺れ動いたように思えました。私の言葉に神官様から反応がおありだったようです。周りの方々の視線も神官様へと集中されます。私の言葉は的を得ていたという事でしょうか。

 微かな期待に私の胸が熱くなります。実際に天神がいたとなれば、力を見い出せる手掛かりがあるかもしれません。私は身を乗り出すようにして、神官様からの答えをお待ちしました。

「さようだ」

 一言だけの短いお返事でしたが、私は眼に期待を潤ませます。そうとくれば以前の方の例を参考にさせてもらいましょう。

「その方は天神としての力を引き出せたのでしょうか?」
「己の担う使命を果たしたのには間違いない」
「という事は力を駆使されたのですね?」
「さようだ」
「でしたら、その方にお会い出来ませんか?是非、天神の力について伺いたいのですが」
「それは無理じゃ」
「な、何故ですか?」

 なんだかとても嫌な予感が隙間風のように吹き込んできました。

「以前来た天神は500年も前の事だ」

―――どっひゃー。

 思わず声にして叫びそうになりましたよ。それはお会いする事が叶いませんよね。希望の光が見事に打ち砕かれました。これでは天神の力を知る事が出来ないではありませんか。本当に困りました。

「私は出たとこ勝負をしなければならなくなります。不明瞭のまま魔女と対決など、あまりにも無謀だと言えます。なんとか力を見い出せる方法はないものでしょうか」
「答えは同じじゃ。神力は天神のみが知る力であり、我々には知り得ない事じゃ」
「…………………………」

 場がひっそりと静まり返ってしまいました。結局、行き着く先は同じなのですね。希望の無さに打ちのめされる思いです。このような状況で魔女の討伐を成さねばならないなど、自分がこの役目に選ばれた事を恨めし気に思います。

 私は手にしている杖に目を落とします。相変わらず何も反応を示しません。少なからず私は己に課せられた使命を成し遂げようという意志を持っています。自分とは直接関わりがないにしろ、一生命の重さを理解し、きちんと世に誕生させたいと思っているのです。

 ですが、このような漠然とした状況では命を落とすのは目に見えています。そう考えれば、こちらのお話を受ける訳にはいかない思いが生じてきました。自分の命は勿論、お腹の御子にとってもそれが正しい道のように思えるのです。その事を口にしようとした時です。

「天神に魔女の討伐を託すのには意味がある」

 神官様から意味深なお言葉を聞き、私は自分の口を閉ざします。

「魔女は人間に異様な警戒心を抱いており、我々がむやみに接触すれば、血を騒がせるだけじゃ。しかし、相手が天神と分かれば、耳を傾ける可能性もある。以前の天神が現れた時、魔女共が天神を大変に敬っていたと聞いておる」

 私の胸の中で何かが弾けるのを感じました。ある事柄が生まれたのです。

「それは和解を望んでいると?」
v  勝手なイメージですが、魔女相手に戦ともなれば、容易に済む事ではないように思えます。参事とならない為にも、話し合いを考えていらっしゃるのではないかと推測しました。

「いや、王妃を死に追いやった魔女に和解の余地などない。事が大きくならずに済むのであれば、それはなによりではあるが、仮に戦わずに済んだとしても、魔女の処刑は免れん。王族の、王妃の殺害は命をもって償う他ないのじゃ」
「…………………………」

 神官様のお答えに再び沈黙が訪れます。魔女は処刑されると分かっていて、話し合いに耳を傾けるのでしょうか。いえ、そもそも魔女の狙いが王家の滅亡であれば、私のお腹にいる後継者を狙ってくる筈です。私には魔女はなんとしてでも戦いを挑んでくるような気がしてなりませんでした。





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