Birth2「麗しい男性に孕ませられたようです」




―――これは一体、どういう事なのでしょうか?

私は男性の腕の中にいるようです。思わず息を呑む優美な男性の中です。そちらの男性はどれだけお手入れがご丁寧な?というアッシュブロンド色の麗しく流線的な長い髪をもち、瞳は宝石のような光を佇んだ黄緑ぺリドット色をされて珍しいですね。

 そちらの瞳を縁どる睫は長く艶めかしさがあり、お顔の中心にはスッと筋の通った高い鼻、飾らずとも自然に上がっていらっしゃる薄く形の良い唇は幸を思わせる好印象です。

 刻み込まれた端麗な顔立ちに、彫刻に息を吹きかけて生まれたような白皙はきせきの美貌です。まさに圧巻です。いらっしゃるのですねー、こういう方を神から選ばれた人と言うのでしょうか。

 そして品性の高さを窺える礼服を纏っていらっしゃいます。金がアクセントのスェード風のガウンに、同じく金色に輝くベルトとジャガードのサッシュを身に着け、ファー付きのツートーンのロングドレープを羽織られています。クラウンやリストカフスといった小物まで飾っていらっしゃいますね。

 まさにキングの名に相応しい風貌です。コスプレにしては随分とリアル感を出されていますね。年はそうですね…、私よりいくつか上のように見えます。アラサーは間違いないでしょうねー。

 彼は柔らかで上品な手触りが心地好い、金と銀の糸で装飾された深い光沢感の溢れるベルベッド素材の玉座に腰を掛け、そこで私を抱いて下さっています。その状態に心なしか私の躯が熱を帯びているようで、ドキドキと鼓動が高鳴っています。

 んー、こんな人間離れをした男性と華麗な天蓋付きの玉座…もしかして彼は神様なのでしょうか?夢にしてはいやに現実味リアリティがありますよね。それか私は彼方者あっちものになって、天国に来たのではありませんよね?

 それかこの体勢からして、私は異世界へと転生し赤ん坊となっている事はありませんよね?この方が私のお父様?随分と麗しい相手が選ばれたものです…いえ、それはなさそうですね。自分の腕が大人サイズでした。

 さて先程からなのですが、男性は艶やかな笑みを浮かべ、私を見つめていらっしゃいました。そろそろ、その身を焦がしそうな熱い視線から逸らして頂けませんかね?顔の距離も近いです。いや、近すぎです!挙動不審な様子の私に気付いた男性は穏やかな雰囲気のまま口を開かれました。

「やっと気付いたか?気分はどうだ?」
「えぇ、悪くはないです」

 柔和で朗らかなお声ですね。声、好みですねー。それになんといっても、眉目秀麗な男性の中にいて、気持ち悪いなんぞ思いませんよ。むしろオイシイ思いをさせて頂き、有難うございます。(ペコリ)

「それは良かった。よく参ってくれた。心よりお待ち申していたぞ」

 なんという事でしょう、男性は私を待っていたようです。

「其方の名はなんと申す?」
「白神沙都と申します」
「沙都か。良い名前だ」

 名前まで褒められました。どこまでも紳士ですねー。

「有難うございます。あ、あの?貴方は?」
「私はアトラクト・ノティスと申す」
「アトラクト・ノティスさんですね」

 うーん、男性の名前からして、やはりここは日本ではなさそうです。そもそも何故このような状況となっているのかが重要ですよね。

「それでですが…」

「なんだ?」
「私は何故、貴方様の腕の中におるのでしょうか?」
「それはゆっくりと説明しよう。まず私は其方に危害は与えぬ。其方には私の後継者を生んでもらうからね」
「は…い?」

―――えっと、どういう事でしょうか?

 基本的に物の動じが鈍い私でも、おのずと目をパチクリとさせます。いきなり結婚ルートですか?既に出産フラグが立っているのですか?どうして私が今日初めてお会いする方の赤ちゃんを生む事になったのでしょう。国が違うと文化も違うという事でしょうか。

「えっと…あのですね、私の国では愛し合った男女の元、新しい生命が誕生しておりまして…」

 気は動転しているものの、こんな性格上の為、正論(?)を語り出してしまいます。

「既に其方の腹の中には私の赤子がおる」
「は……い?」

 どういう事ですか?今の言葉の意味が呑み込めず、私は硬直としておりました。私はアトラクトさんとの子を身籠るような行為をした憶えがありません。あ~、ここに来る間の失われた記憶で、そういった事を致してしまったという事ですかね。なんという事でしょう!

「きちんと説明しよう」

 混沌としておりましたら、アトラクトさんは私の躯を優しく起こして下さり、私は玉座の前へ立ち上がりました。彼のとても気遣う様子がまるで妊パーに対する扱いのようで気になりましたが…。それとほぼ同時でしょうか。突然背後の方から、

―――ギギギィ―――。

 と、何か扉のようなものが開く音が耳に入りました。それに反射的に振り返ります。

「わっ」

 思わず声を上げてしまいました。なんとなく予測はついておりましたが、ここは王城の「謁見の間」に当たるのでしょうか。

 天井と壁は神々や王族の歴史が綴られているようで、静止画にも関わらず命を吹きかけられたような躍動感に溢れた絵画アートとなっています。また柱は彫刻であり、燦然と輝くシャンデリアは宝石のように存在感があります。調度品まで最高級の物が揃えられているようで、煌びやかな光に彩られています。

 床は大理石であり、金の刺繍で施された赤い絨毯は出入口の扉から玉座まで流れるように敷かれておりました。大広間の何処に目を向けても芸術そのものです。そのあまりの荘厳とした華麗な装飾品に自分の存在までもが特別に感じられました。見事な宝庫のとなっております。

 そしてその絢爛な絨毯に沿って、一人の男性がこちらへと向かって来られます。気のせいでしょうか。その人物は無い筈のキッラキラのスポットライトを浴びながら、存在感を際立たせています。

―――どなた様ですか、あちらの歩く宝石は?

 扉からこの玉座まで距離がありますが、遠目から見ても煌びやかな方だと分かります。

―――甲冑姿ですね。騎士といったところでしょうか。

 注目の彼が近づくにつれ、私は目を大きく見張ります。スポットライトは陽射しサンシャインへと変わり、絢爛厳かな方だとオーラで伝わっておりました。なにより風姿に魅入られます。

 黒曜石のように深みのある艶やかな髪は靡き、瞳は金色こんじきのダイヤモンドです。深みのある髪色なので、瞳の色が際立って見えます。彼は光の集合体ですかね?

 背も高く、軍師のように逞しい躯つきをされています。重厚な鎧も彼は軽やかに着こなしていますね。この世の者とは思えない程の見目良みめよい姿をした男性に、私は心が奪われ、釘付けとなっておりました。

―――ドキドキドキドキ。

 胸の鼓動も止みません。これはもしやアレでしょうか?久々の感情に躯が震え上がります。立ち振る舞いまで美しい男性は私達の前まで来られると、華麗に腰を落とされ、敬意の姿勢を見せます。

「時間に遅れまして、誠に申し訳ございません」

―――痺れを起こしそうな、なんとも素敵なお声です!

 男性の声に私は感嘆としました。

「大事ない」

 アトラクトさんがお声を落とすと、目の前の男性は腰を上げられ、私と視線が合わさりました。

―――ドックン。

 また鼓動が波打ち、それと同時でした。

「なんですか、これは!」

―――は…い?





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