Please21「湯気と共に蕩け合い」




 ――どうやって洗って行くかって言われても……。

 普通に自分のお躯を洗って下さいとしか言いようがないじゃない。心臓が胸の内側からドクドクと打ち、みるみると不安が広がっていく。私の頭の中はとても口には出来ない官能的なシーンがひっきりなしに流れ込んできていた。

「レネット、オレがオマエの躯を洗ってやろう」

 ……なんて言われそうじゃない?

 ――いっやぁああ――――!!

 私は心の中で糾弾するような叫び声を上げてジタバタと悶える。先手、そう何か先手を打たないと!

「私はアクバール様のお手が届きにくいお背中をお流しします!」

 私は無駄に明るい声で提案した。躯を洗うという行為をアクバール様に向けておかないと。そもそも考えてみれば、私は入浴済みで躯を洗う必要がないものね。

「そうか、わかった。まずは服を脱がないとな」

 ――ホッ、なんとか納得してくれたようだ。

 アクバール様は立ち上がり、湯槽から出て脱衣を始めた。彼の裸体を初めて見るわけではないのに、私は妙に気持ちが高ぶってしまい、彼から視線を逸らす。

 アクバール様がすべて脱ぎ終えると、私は躯を洗うのを手伝おうと湯槽から上がろうとしたのだが、逆にアクバール様が湯槽へと入って来て、え? と目を瞠って固まってしまった。

「アクバール様、何故またこちらに入って来られるのですか?」
「レネット、オマエも服を脱げ」
「ひゃっ、何をするのですか!」

 アクバール様から無理やり夜着を脱がされそうになり、私はスカートを両手で押さえつけて抵抗をする。

「服を着て湯は落ち着かんだろう?」
「そもそもアクバール様と一緒にここにいる事が落ち着きません!」
「ああ言えばこう言う奴だな」
「それはお互い様です!」
「ふぅー、仕方ない」

 アクバール様は実にわざとらしく溜め息を吐いた後、眼光を鋭くして私の瞳を捉えた。ドクンッと私の心臓は波打ち、剣呑を感じ取った時には顎をクイッと上げられ、呼吸を奪われる。

「んぅ……ふっ」

 行き場を失った呼気が切な気に吐息を零す。初めから深い口づけだった。私は驚きと戸惑いの挟み撃ちとなって、躯が痺れたように動かない。

 ――な、なんでここでキスなの?

 素直に服を脱がずに抵抗したら、キスという流れの意味が分からない。そんな疑問や混乱もアクバール様の舌が侵入して、お互いの舌が搦め合うと、ガラリと考えが変わる。緊張の痺れがいつの間にか蜜のような甘い痺れとなって躯を震わす。

 おまけにアクバール様は裸体姿だ。湯気で視界が多少霞んで見えるが、それでも男性特有の躯つきに免疫のない私にはとても刺激的だった。それに加え、ラボンの上品で甘やかな香りがなんとも煽情的な気分にさせた。

 さっきまで湧いていた怒りや困惑といった負の感情は快感によってドロドロに溶かされ、快感のみが残り、私は自らアクバール様の舌を求めるようになる。淫靡な音を立てて混ざり合う唾液が、口元から溢れてしずくとなって伝っていった。

 どんどん熱が増していく。それに躯の周りに湯気が立ち籠っているせいか、逆上せてしまいそうになる。あー駄目だ、意識が霞んでいく……。そう思った時、唇を解放され、両手首をアクバールに掴まれ、頭上まで持っていかれる。

 ――!?

 目を丸くして彼の動向を見つめていれば、私の夜着は頭から抜けて脱ぎ取られてしまった。一瞬の出来事で、私は瞬き一つもせずにポカンとなった。

 ――なに今の神業!?

 夜着のワンピが無くなれば、私は下肢の下着を残して一糸まとわぬ姿となる。女性として大事な双丘ぶぶんが露骨に晒されていた。時間差でその事に気付いた私は小さく悲鳴を上げる。

「きゃっ、な、何勝手な事をされるんですか!」

 咄嗟に私はアクバール様の手に握られている夜着を取り返そうと腕を伸ばしたが、彼はヒョイッと交わして、挙句の果てには夜着を湯槽の外にポイッと放り投げてしまった。

「もう信じられません!」
「そう怒るな」

 アクバール様は全く悪そびれた様子もなければ、反省する余地もないのだろう。私の夜着を脱がせる為に、あんな蕩けるような口づけをしてきたのだろうし。なんていう確信犯なんだ!

「ほら浸かるぞ」
「きゃっ」

 腕を掴まれて強制的に腰を落とされる。私はアクバール様と一緒に湯の中へと入った。

 ――な、なんでこんな事に。

 本来、私は夢の中へと入っている筈なのに。子供じみているとは思ったけれど、私は躯を丸くしてアクバール様に背を向けた。

「レネット、背を向けて先に洗って欲しいのか?」
「え?」

 ――き、聞き間違いをしたかな?

 私は一言も洗って欲しいだなんて言ってはいないんですけど? 顔を捻って彼の方に視線を向けると、フワッと背中から抱き寄せられた。ぎゅむっと素肌で密着される感覚とアクバール様の大事な部分が、お尻の辺りに当たっていて、私はソワソワとしてしまう。

「な、なんで抱き竦める必要があるんですか!」
「オマエの躯を先に洗おうとしたんだ」
「わ、私は洗って欲しいわけではありません! 既に今日は入浴済みなんですから!」

 ――この流れ……やっぱりオレがオマエの躯を洗ってやるよっていう展開じゃ!

 じわりと嫌な汗が流れてきそうになった。

「そう言うな。もう一度入ればいいだろう」
「きゃっ」

 私の脇を間からアクバール様の腕が入り込んできて、私のたわわな双丘を大きな手で包み込む。より密着度が上がって彼の手はフニフニと逸楽に耽るように、私の双丘を弄んでいる。

「あんっ、や……やめて……下さいっ」

 なんていう私の言葉は華麗にスルーされた。そして擦り寄せるようにして揉み始め、卑猥に歪んでいく双丘の姿を目にすれば、下肢をズクズクと軋むように疼かせる。血が騒ぐような熱が急激に押し寄せてきて、あっという間に私の躯は甘美な痺れに支配された。

「はぁん、あんっ」

 待ち望んでいたような色声が甘い吐息と共に零れてしまう。私はこんな事を望んではなかったのに、なんでこんな甘ったるい声が出てしまうのだろう。既に理性は灼き切れていて、別の場所に自意識が芽生えており、それが快楽を渇望していた。

「レネット、熱に浮かされた虚ろな瞳となっているぞ」
「はぅっ、いやぁっ」

 アクバール様は優美に私の顔を覗みながら、言葉で責め込む。瞳が蕩け切っているだなんて、どんな言い訳したとしても、彼には都合の良い解釈をされてしまうだろう。何も抵抗せずに快楽を享受している私の姿をアクバール様は満足げに眺めていた。

「本当に嫌なのか?」

 そう問う彼の笑みが妙に深まって、私の背筋にゾクリとした痺れが走った。

「んあっ!」

 世界がグルリと一変したような感覚に襲われる。おいたをしているアクバール様の指が薄紅に色づいている蕾を摘み上げ、指の腹をでネットリと捏ねくり始めた。散々焦らすように触れていなかったその敏感な場所を重点的に責め苛む。

「はぁん、あんっ、いやぁ」

 指の動きが厭らしすぎて見ていられない。視界を閉じたのに、動きの感覚が頭の中に鮮明に浮かび上がって、私の心を酷く搔き乱す。

 ――なにこの現象、もうやだ!

 自分までもが淫らな存在に思えてきて羞恥に苛まれる。そこにまたアクバール様の容赦ない言葉責めが始まる。

「レネット、見てみろ。いい感じに硬く屹立してきたぞ」
「やぁっあんっ」

 より一層、私は固く瞼を閉じた。色づいた蕾の姿なんて見たくない! そんな時、突然クルリと躯を回され、アクバール様と向き合わせの体勢となった。

「な、なんですか!」

 恐る恐る私はアクバール様を上目遣いで見つめる。

美味うまそうだな」

 彼の視線は私の双丘を捉えていた。美味しそうってもしや……ここで私は気付いた。彼はこの私の蕾を狙っている?

「こ、これは美味しいものでは……ひゃあっ」

 腕で双丘を隠そうとしたのだが、それよりも素早くアクバール様に蕾を摘まれ、そして顔を近づけてくる。何をされるか察した私は躯を退けようとしたが遅かった。

「ふっああんっ」

 アクバール様の口が蕾を吸い付き、私はビリビリと電流が走って躯がピンッと仰け反った。

「はぁあんっ、あんあん」

 物足りなさも強すぎでもない絶妙な加減で、蕾をチュゥチュゥと吸い上げられる。アクバール様は私が最も感じる力の強さを知っている。初めて繋がってから、まだ一週間ほどしか経っていないのに、彼は随分と私の性感帯を知り尽くしている。

 どう責めれば感度が上がるのか、計算されたように完璧に知っていた。今だってそうだ。蕾を吸い上げると同時に舌でねぶり潰し、私の躯は水をかけられた魚のようにビクンビクンッと飛び跳ねていた。

 過激な痺れが何度も躯中へ駆け巡り、無尽蔵に快楽が湧き出て、私の躯は性に塗り潰されていた。下肢が熱い。茹だるように熱くて辛い。苦しい、熱を解放させたい。そう思っても素直にアクバール様に強請るなんて出来ない。

「そろそろここ・・が疼いて仕方ないだろう?」

 アクバール様は蕾から問いかける。問われて心躍る自分が厭らしく思えた。そんな自分を悟られまいと私は敢えて心と反対の言葉を口にする。

「そ……そんな……事は……」
「そうなのか? これがか? 淫蜜がしとどに溢れ出て、凄い事になっているぞ?」
「いっやぁあ」

 私はアクバール様の肩に手を置いて、縋るように身を寄せる。

「力を抜け」
「ふえ? ひゃっあ」

 ショーツを通り越して膣内にグッと重圧が掛かった。中でバラバラに動きながら、グチャグチャと淫らな水音を立てて、三本の指で責め立てられ、水音が踊るように弾く。耳に蓋を被せたい淫音なのに、今の私にはより快楽を高める助長となっていた。

 あれだけ苦しめられていた熱が嘘のように消えていき、幾重もの快楽の波が押し寄せてくる。悦楽が嵐のように渦巻き、私の意識は何処か遠くの秘境へと連れ攫われてしまった。もうここから抜け出したくない、極上の場所だ。

 そして指は弾き回す、バラバラに蠢く、花芽を震わせる、そんな変化に富んだ責め方を繰り返し、確実に私を快美の極点へと押し上げていく。これだけでももう達してしまいそうなのに、アクバール様は私の双丘からも離れず、ずっと執拗に責めていた。

「あぁんっ、んぁあっ、あ……あぁっ!」

 声が掠れても喘ぎは止まらない。躯が炙られるように熱い、呼吸も意識も言葉も何かもが切れ切れとなって、そのすべてを高みへもっていかれそうになる。そして大波の快楽が雪崩なだれを打って向かって来る!

 ――あ、もうっ!

「ふっぁああ―――――!!」

 躯がピンッと強張った瞬間! 私は愉悦の極点へと昇華し、全身から白熱を放った。意識だけではなく躯ごと強烈なスパイラルに呑まれ、すべてが彼方へと飛んで行ってしまった。そこで秘所から質量感が離れて行く感覚だけは感じ取れた。

「はぁはぁはぁはぁ……」

 湯気の煙で口内が熱いせいか、呼吸が上手く息が出来ない。躯が生気を奪われたように言う事を聞かない。そんな私の背をアクバール様は宥めるように優しく撫でてくれていて心地好かった。暫くして徐々に自我が戻ってくると、ようやく躯の強張りが解けてきた。





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