第九十九話「愛に年の差は関係ありません」




 無事にキールと契りを交わし、バーントシェンナ国、マルーン国、ヒヤシンス国すべての国に幸福をもたらせる事が出来た。具体的には争い事や貧富の差などを無くし、誰もが万人平等な生活を送れるよう成した。

 契りの翌日、アイリとシャルトには無事に契りを交わせた事を報告し、温かな祝福を受けた。あれから三ヵ月が経ち、未だに落ち着かない部分があり、キールと過ごせる時間も限られてはいるけれど、それでも晴れて身も心も一つになれた私達の絆と愛は深くラブラブであった。

 もう少しすれば、新たなマルーン国とヒヤシンス国の王が決定して、キールもアイリもバーントシェンナ国に身を固められるからな。そしたら毎日キールと一緒にいられるんだ! ぐへへとニンマリしていたところに、シャルトから茶々を入れられる。

「千景、顔がキモイわよ」
「ちょっと、レディに対してキモイとかやめてよね」

 全くデリカシーのないやっちゃ! 私とシャルトはちょうど午後の勉強会を終え、一休憩しているところだった。こちらの世界に来てから、もう半年以上は経つけれど、勉強の方はずっと続いていた。まぁ、現実世界でも義務教育が九年間あるし、あと数年の我慢だな。

 それに妃になる為の王宮のしきたりやらマナーといった堅苦しいものまで学ばなければならないしな。愛の力で乗り越えていこうとは思うけど、実際は色々と厳しいんだよな、これが。そういえば私、キールの婚約者フィアンセになったんだけど、まだ正式にプロポーズされていないんだよな~。私はいつでも結婚していいんだけどね。

「あ~あ、キールいつになったらプロポーズをしてくれるのかな」

 私は呟くようにボヤいた。

「はぁ? 結婚ってまだ早いでしょ?」

 シャルトは顰め面を見せて言う。そりゃぁ、キールはまだティーンだから、早いとは言えば早いだろうけど、私はね~結婚願望あるしさ。早くしたいんだって。

「そうだけどさ~、でも婚約してんだから、せめて指輪ぐらい欲しいよ~」
「指輪? なんの?」

 シャルトは実に不思議そうな表情を見せる。

「なにって? 決まってるんじゃん、エンゲージリングだよ」
「なにそれ?」
「んっもう、どうしてわからないの? 婚約したら証に指輪を渡されるでしょ?」
「そうなの? でもこの国にはそんなしきたりないわよ?」
「ひょぇ! そうなの!」

 な、なんという事だ! エンゲージリングをするのが夢だった私の乙女心を打ち砕いてくれたぞ!

「有り得ない! ムゥー、左の薬指に嵌めるのが夢だったのになぁ~。超ガッカリだよ」
「ないもんはないからね」

 と、シャルトはアッサリと流しやがった。全くさ、ないならしきたりを作ってくれっての!

「じゃぁ、せめてプロポーズされたいなぁ……」

 キールは顔を合わせれば、きちんと愛の言葉をくれるけど、きっちりとした証が欲しいんだよな。私は切なる思いを胸に抱き、溜め息を零したのだった……。

☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆

 ――ルンルンルン♪

 私は上機嫌だった。だってだって一週間ぶりにキールがバーントシェンナ国に戻って来るんだもん! 早く逢いたいな! ハグしたいな! チューもしたい! 私は午前中の勉強会を終え、部屋に戻ろうとした時だった。

「あ、千景」

 回廊をウハウハした気持ちでスキップしていたら、懐かしい声に呼ばれて振り返る。華美な礼服の背にキラキラの金髪を流したアイリの姿があった。

「アイリ、戻って来てたんだ」

 陽射しの光で照らされている時の彼の神々しさは毎度眩しし!

「うん。さっき戻って来たばっかだよ」

 そしたらキールも一緒だよねん♪

「千景、一緒に来て欲しいんだ。キールが話あるって」
「キールが?」

 キールの名を耳にして、私の鼓動は小躍りする! やっぱ戻って来ているんだ! 私はパァ~と顔に花を咲き散らせ、素直にアイリの後に付いて行った。

 ――数分後。

「この先のバルコニーで待っていて。すぐにキールも来ると思うから」
「わかった」

 用件を伝えたアイリは私の元から去って行った……。

 ――わざわざ呼びつけてなんの話だろう?

 私はバルコニーの前まで来ると……。

「うわぁ~、すっごい絶景」

 宮殿の一番高いバルコニーだったみたいで、ここからの眺めは街全体が広がって見える。華やかなアラビアン風の建物が立ち並んでいて超絶景だ! そういやここって確か前に、キールから愛の告白をされるかもしれないと、ドキドキさせられた場所じゃない?

 告白されるかもは勘違いで痛い思い出だけど、あの時のここは夜で息を呑むほどの絶景だったよね。昼間もとんだ美しい風景だ。私は時間をも忘れて目の前の絶景を眺めていた。それから暫くして……。

「千景……」

 ――こ、この声は!

 私はピンときてすぐに振り返った。すると、金糸の刺繍で織られた煌びやかな礼服を着た愛しのキールが、微笑んで立っているではないか!

「キール!」

 私はご主人様を見つけたわんこのように心を弾ませて、キールの傍へと駆け寄る。

「さっき戻ったの?」
「あぁ」
「アイリに案内されて来たんだけど、話ってなに?」
「ん、ちょっと大事な話があって」
「?」

 微笑みから急に真剣な表情へと変わったキールに、私は首を傾げて彼を見上げた。

 ――大事な話って……? なんか表情からして深刻そう?

 思い切るような張り詰めた表情のキールはまるで隠し事を打ち明けるような、そんな真剣な眼差しをしていた。私は妙な不安がよぎり、心臓をドッキンドッキンとさせながら、キールからの言葉を待つ。隠し事はイカンからね。

 ――ん? 隠し事……?

 私の中でなにかが弾けた。そう……それは……?

 ――ハッ!

 頭の中で閃光がバチバチと放つ! そ、そうだ、すっかり、すっかり忘れていたぞ! 私、キールに本当の年齢を打ち明けていなかったではないかぁああ! 確かここに来た初日うっかり十六歳と言って以来、訂正していなかったんだよな。

 まぁ、今更本当の年を言ったところで、キールの私への愛が変わるとは思えないから、今ここできちんと打ち明けておくか。キールには悪いけど、私は先に話を持ち出そうとした。

「キール。私もね、伝え忘れていた事があって」
「なんだ?」

 今度はキールが首を傾げて、私を見下ろしていた。

「うん、実は私十六歳って言っていたんだけどね」
「あぁ」
「本当は二十五歳なの!」

 シ――――――――――ン。

 ――なんだ? この間は?

 キールは私を見つめたまま全くと揺るがなかった。

「キール?」

 私がキョトンとしながらキールの名を呼ぶと?

「なんで年を誤魔化していたんだ?」
「うん、若く見られる特権を利用してみたの!」

 私はテヘヘと苦笑しながら答えた。そこにだ、キールからとんでもない言葉が返される。

「悪いが、そんな年上は好みじゃない」





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