最終話「私達の愛は永遠です!」




 ――はい?

 私の脳内が真っ白に埋め尽くされた。

「今なんて言ったの?」
「だからそんな年上は好きじゃないって」

 キールはひんやりした口調で答えた。

「え?」

 私は茫然となってキールを見つめる。心臓の音が耳の奥へと直接聞こえてくるように脈打つ。そんな私をキールは突き放すように、冷めた表情で見つめ返していた。

「な、なんだよ、それ! ちょっと年が上なだけだろ! ルイジアナちゃんだって年上だったじゃん!」
「アイツとは五歳差だった。八は違い過ぎる」
「キールの愛は年が関係するのかよ! そんなちんけなものか!」

 焦りが徐々に怒りへと変わっていき、私は食い付くようにキールに楯突いた。

「なんとでも言え。好みじゃないもんは好みじゃない」

 キールは面倒くさそうに、私から視線を逸らして言い放った。

 ――ひ、酷い、そんな嫌そうな顔して。

 あまりのショックに涙が滲み出てきた。まさかキールが年ぐらいで、冷めてしまうような軽薄な人だったなんて! 見損なったよ!

「フ、フンだ! こっちだってね、八歳も年下の子供を本気にするわけないでしょ!」

 私は悔しさで胸がいっぱいになって、乱暴な言葉をキールに叩きつけていた。

「ちょ、ちょっと好きだって言ったぐらいで本気にしちゃってさ! 私はね、年上が好きなんだからぁ! 年下なんて頼まれたって願い下げだ! フ――――ンだ!!」

 私は息を荒々しくして言い放ってやった! そんな私の姿をジーッとキールは見つめ、

「冗談だよ」
「……え?」

 少し決まりが悪そうに苦笑して言った。私は唖然とする。

「悪かったよ。年上が好みじゃないと言ったのは嘘だ」
「え?……う、嘘だと! 今の嘘はイケナイ嘘だったぞ!」

 私はこの上ない憤りや嘘で良かったという安心感やら、色々な思いがい交ぜ、ボロボロと涙が流れ落ちていた。キールは私を優しく抱き寄せる。

「悪かったよ」
「は、離せ! 嘘つきに触られたくない!」

 私はキールの躯を押し退けようとする。今の嘘は酷い嘘だ! 暫く反省してもらわないと気が治まらない!

「少し落ち着けって」
「フンだ!」

 尚も抗いを見せる私にキールは無理やり抱き寄せて、優しく私の頭を撫で始めた。まるで親が子供を宥めるような仕草だ。

「正直驚いたよ。ずっと年下だと思っていたオマエが実は八も上なんてさ」
「フンだ」
「見た目もだけど、中身も違和感を覚えなかったし」
「どうせ私は子供っぽいですよ!」

 私はキールの胸元をバシッバシッと叩いて抵抗を見せた。

「でもオマエ、たまにハッとするような言葉を言う時があったもんな。それでなるほどって納得したよ」
「え?」
「大人じゃないと、助言出来ない言葉だったもんな」
「フ、フーンだ」

 急に褒めたって許してあげませんから! こんな乙女を傷つけた罪は重いんだからね!

「どうしたら許してくれる?」

 フッとキールの顔を近づけられて、私はたじろぐ。彼の表情が本当に切なさそうで、思わず気持ちが許そうとグラついた……けど、許さないんだから!

「フンだ!」

 私はプイッと横に顔を背けた。キールは本当に困ったという表情でいる。フンだ、暫くそのまま反省していればいいんだ。

「千景、実は渡したいモノがあって、ここに来てもらったんだ」

 私の気を引こうとしているのか! そう言って上手く許してもらおう作戦は私には効きませんから! キールはスッと私の胸元へ握り拳にした右手を差し出してきた。

「な、なぁに?」

 なにかを渡そうとしている雰囲気に、私は手の平を差し出した。すると? パッとキールの拳が開いて、私の手の中にある物が落とされた。

「これは?」

 ――指輪?

 翡翠石のラインが輝くシルバー色のリングだった。

 ――これって?

 私がリングを魅入っていると、キールはその指輪を取って私の左手を握る。そして、ゆっくりとリングを左の薬指に嵌めてくれた。

「キール?」

 ――これってまるで?

「エンゲージリング?」
「そう」
「でもこの国にはそういうしきたりがないって」
「ん、シャルトから聞いて作ったんだよ。世界でたった一つしかないリングだ。気に入ってもらえるといいんだけど」

 キールの表情に少しばかり不安が入り混じっている。私はあまりに驚いて言葉を失ってしまっていた。だってまさかエンゲージリングを用意してくれていたなんて思わないもの!

「とっても気に入ったよ! ずっとずっと欲しかった指輪だもん! 大切にするよ、有難う!」

 私は陽光に照らされた水面のように瞳をキラキラとさせて答えた。さっきまで怒っていた気分はどこかに吹き飛んでしまったよ。ずっとずーっと憧れていたエンゲージリング! キールの瞳と同じ色のラインが入った世界でたった私だけの指輪だ。嬉しくないわけがない!

「そっか、良かった」

 キールからキュン死にさせる笑みが零れて、胸がトキメキでいっぱいになる。それから指輪をじっと眺めていたら、その手を取られた。

「?」
「……千景」

 気が付けばキールは真顔でいた。私が年齢を打ち明ける前にも、こんな表情をしていたんだよね? 話って……?

「もうそのリングで気付いているとは思うけど……」
「うん?」

 さっぱわからんが?

「これからもずっとオレの傍にいて欲しいんだ」
「キール?」
「オレの傍で笑顔でいてもらいたいんだ。ずっと笑っていられるように幸せにするから」
「そ、それって?」

 私は興奮して開いた口が塞がらなかった。これは本当に本当のプロポーズじゃないですかぁああ!? 私は感極まって瞳をウルウル&キラキラと輝かせる!

「あぁ、一生涯を共にする契りの言葉を伝えて……」
「するするするするよ! 今すぐにでもキールのお嫁さんになるよ! いつでも結婚式をあげてもよろしくてよ!」

 私はキールが言い終わらない内に返事をしてしまう。躯中から溢れ出る愛を言葉にせずにはいられなかったのだ。結婚ウェディングカモーン! ウエルカムだよぉお! 晴れてキールのお嫁さんになってしまうんだな、ブハッ!

 鼻血が出てしまうがな! 私の頭の中は既にキールとの結婚式の映像が流れ出していた。民衆から「おめでとぉー!!」と、祝福されるウエディング・ベル。そんなマイ・ドリームが広がっている最中さなか、キールからサラリと告げられる。

「千景? もしかして、この国の結婚出来る年齢を知らなかったりする?」
「ふぇ?」

 急に現実に引き戻された私は声にならない声を零した。

「知らないよ!」

 変に自信満々で答える。

「やっぱり? この国は二十歳の成人を迎えないと、結婚は出来ないんだよ。だから、あと三年は待ってもらわんと」
「はい?」

 私は目が点になる。二十歳ですと? 確かキールの年齢は……十七歳?

 ――ひょぇええええ!!

 私はムンクの叫び声の表情になる! な、なんという事だ! せっかくキールから晴れてプロポーズを受け、今すぐにでも結婚出来るのかと思っていたのに、そんな落ちがあったのかぁああ!!

 一瞬にして結婚式の映像が消失し……た……。しかし、法律は法律。守る為にある法律。私はぜる感情を無理に抑え……そう、あと三年という長~い月日を心待ちする事にした。私とキールなら、なにがあっても大丈夫だよね! 絶対に離れたりしない。

 これからもずーっとずーっと永遠に愛し合っていくだろう(とっとと三年過ぎてくれ、切なる思い!)。私は陽射しの下でキラキラ光るエンゲージリングを見つめ、温かく幸せな未来を描いたのだった……。





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