Birth87「愛しているの言葉」




「ふ…っあぁん」

 微かに息を切らす圧迫感はありますが、摩擦から生じる快味が再び私の胸を満たしていきます。楔が内奥まで届きますと、今度は腰が引かれて抽挿の始まりです。何度も蜜口から最奥へと行き来され、舞い戻る熱い快感が胸の奥にまで伝わってきておりました。

 オールさんの腰の浮かせ方や落とし方、私の足を上げる位置によって熱塊の突き刺さる位置が異なり、上向きに突かれている時に足を上げられますと、気持ちの良い場所へ強く鋭角に当たり、快楽が隙間なく押し寄せてきます。

 そしてただ打ち突くだけではなく、柔らかに掻き廻されれば、膣内に余す所なく熱塊が口づけを落とし、また熱塊を内奥に密着させて上下にピストンをされれば、熱塊の付け根が花芯へと当たって刺激されます。

「ひゃっああっ」

 両足首を掴まれ大きく左右に広げられますと、熱塊が最奥にまで深く行き届き、熱い飛沫じょうえきが迸ります。それだけでも達しそうですが、さらにすっかりと朱色に染まった花芯を指で震わせられ、絶頂を感じさせます。

 ですが、まだ達する事は許されません。まだオールさんは快楽の中に浸われたいのだと思います。達する前に私の意識がもつのでしょうか。渦巻いている快楽に堪えられるどうか。それから私は視線を結合部へと落としました。

 何よりオールさんの腰の動きが肉感的に見え、またどうしようもない快感に囚われてしまう自分は甲高い声を上げざるを得ません。それにまた堪え難い羞恥を受け、膣内に大きな反応を示せば、また意地悪な言葉責めをされて、愛欲を煽り立てられるのです。

 そのような私の様子にオールさんの熱塊も激しく蠢くようになり、互いが互いを求め合う内に、どちらとも見分けのつかぬ情液が撹拌かくはんされ、際限ない狂酔へと溺れていくのです。

―――どうしてこんなにも気持ち良いのでしょうか。

 一体感がこんなにも至福に思えるだなんて。きっとそれは「愛情」という名の快楽が入っているからではないでしょうか。今、この繋がりがうんと幸せを閉じ込めているように思えました。

 私はなんて幸せ者なのでしょうか。あれだけ運命の悪戯に翻弄されていた自分を恨めしく思えていた時が嘘のように今は幸福感に包まれ、その幸せも溢れているようでした。

 そして愛おしさから湧き出る快感は尽きる事なく、次から次へと上塗りされていき、それは互いを纏う熱気となり、また咽返るような淫靡な香りにも深く包まれておりました。

「あんっ、はぁあんっ、んあっ」
「はぁはぁっ」

 互いの肌が何度もぶつかり合って、零れる熱い息が宙で交わり、滾る情熱に躯が燃え上がるようでした。絶頂にのたうち回る快感を何度味わった事でしょうか。オールさんには自制される必要がないと、自ら申し上げましたが、男性の本能をもっと見極めるべきでした。

 きっとあの時、オールさんは私を壊してしまうのではないかと思い、理性を保とうされていたのですね。今となって言葉の意味が身に染みていますが、既に時は遅しです。ですので、もう何も考えず快美感に身を委ねておりました。

「沙都様…」

―――え?

 再び達しを感じ、意識が真っ白な世界にいざなわれそうになった時でした。恐ろしく婀娜あだめく姿のオールさんから名を呼ばれ、彼の腰の動きが緩慢になっていきますと、私の意識は現実の世界に引き戻されます。

 熱い吐息に揺るぎのない強い意志を感じさせるオールさんの金色こんじきの双眸は何かを物語っているように見えました。快感の波が引いて行く名残惜しさを感じつつも、今度は何を言われるものなのか、ドキドキと期待を膨らませます。

「沙都様、愛しております」

 抱いていた期待以上のお言葉に、私の魂は大きく揺さぶられました。頬を大きな手で包み込まれ、今も尚、緩やかな動きで送られて来る快感と、触れられるすべての場所から新たな幸福が広がっていきます。

 おのずと目頭が熱くなるのを感じます。どんなに陛下と情熱的な夜を過ごしても、決して彼は私に愛の言葉を囁く事はありませんでした。温もりの感じられない愛は途方のない虚ろな心そのものでした。

 枯れ果てた心に愛の花を咲かせて下さったのはオールさんですね。どんなに求めても返ってくる事のなかった愛、やっと求めていた温もりが貰えたのです。なんと言葉で表せば良いのか分からない至幸は止めどもなく溢れてくる涙が語っておりました。

「有難うございます。私は今とても幸せを感じております」
「沙都様…」
「オールさんの存在が、私がこの世界にいる意味を与えて下さいました。私はシャイン様を生んでからこの半年間、自分はこの世界に必要な人間であるのか、疑問をもったまま過ごしておりました。役目を終えた自分はもうこちらにいる意味がないのではないかと、そうずっと思っていました」
「それでお帰りになろうとしていたのですね」
「はい」

 アトラクト陛下の為に元の世界へと戻るというのは綺麗ごとに過ぎません。本当は自分を必要だと思って貰える場所に帰ろうとしていただけでした。愛されていない、必要とされていない、そのような寂寞感に見舞われたくはなかったのです。

「今後はもうそのような虚しさを感じられる事はありません。私がお傍でずっと貴女を愛して参ります」
「はい、改めて宜しくお願いします。あ、あの、私もオールさんを愛しております」

 言葉にするというのはとても面映ゆい事ですが、伝えられた感動を彼にも感じさせたいと、そう思えば、自然と愛の言葉を伝えておりました。その想いは今の彼の綺麗に綻ぶ笑みを目にすれば、きちんと伝わっているのが分かります。

「有難うございます。ではその情愛しあわせをもっと感じ合いましょう」

 そう満足げに笑みを零す彼は機敏に体勢を整え、その後しっかりと私の脚を支え、再び抽挿が始められます。改めて心を重ね合った私達が昇り詰めるのにはそう時間はかかりません。

 全身で滾る愛を感じ、気持ちは爆発しそうな程に高揚としており、奔流する熱を一早く放ちたいという思いに駆られます。それはオールさんも同じお気持ちのようで、熱塊がこれまで以上に激しく蠢いておりました。

「はんっ…あんっ、やぁあっ、はぁあ!」

 穿つ熱塊に灼かれ、躯の水分が蒸発していくように汗が迸り、激しい揺さぶりがぶつかり合う肌と情液の淫音を響かせます。きっとオールさんも、もう快感に浸る余裕はなく、絶頂へと向かっているのでしょう。

 彼は私の一際敏感な部分を目掛けて穿ち、それによって私は彼の熱塊を締め付けて、互いに極致へと昇り詰めて行きます。ゾクゾクとり上がる絶頂に、いよいよ真っ白な世界へと導かれます。

「…っ」

 オールさんが息を酷く詰めた次の瞬間です。

「んあぁぁああ――――っ!」

 射精の鼓動に合わせて波打つ滾りを一気に放散させられた私の躯は大きく仰け反ります。硬直した躯にドクドクと奔流した熱を注ぎ込まれ、膣内が精一色に染められていきました。そして収まり切れなかった精は蜜口から生々しく流れていきます。

「「はぁはぁはあぁ…」」

 躯に上手く酸素が回らず、眩暈に見舞われたような感覚です。私はオールさんと共に肩で息をしておりました。それに…。

―――とても熱いです。

 結合部から灼けるような熱が渦巻いていました。ですが、弛緩された躯はスッカリと脱力し切っておりました。

―――ドサッ。

「ひゃぁ」

 私は短く悲鳴を上げました。脱力感に見舞われたのはオールさんも一緒のようで、いきなり彼は逞しい躯を私へと委ねて来たのです。重なり合う躯から、彼が私以上に体温を上昇させているのが伝ってきました。

「大丈夫でしょうか?」

 驚きのあまり、私の方は疲れが吹き飛んでスッカリと目が覚めています。

「大丈夫です。少々熱くなり過ぎたようです」

 熱くなられた…。特別に淫らな言葉ではありませんが、何故か私の胸をドキドキとさせました。あまりオールさんから劣情を催すお言葉を耳にする事に慣れていないせいでしょうか。そんな乙女の心の時ですよ?

「沙都様はもう次をお考えですか?」

―――え!

 聞き間違いですよね?今、オールさんから「次」という言葉をお聞きしたような?私が目をパチクリとさせておりましたら、サッとオールさんは上体を起こされ、私を見下ろします。

「あ、あの、次とは?」

―――なんのお話しで?

「また沙都様の中が蠢いていらっしゃったので、次の準備が「き、気のせいです!」」

 オールさんがみなまで言わぬ内に、私は言葉を被せてしまいました。動揺を見せる私の姿を見て、またまたオールさんは面白そうにお顔を綻ばせるのですよね。

―――うぅ、私はそんな頻繁に色情を抱いておりませんから!

「少し休ませて頂きましたら、次に「ゆっくりとお休み下さい!」」

 彼には悪気がないのでしょうが、私を立派に辱めていますからね!私の言葉をどう捉えられたのか分かりませんが、彼はまたゆっくりと躯を落とし、私へと預けます。まだ私達は繋がったままでした。

―――オールさんは余韻に浸られているのですね。

 会話も交えず、静謐な空気が流れています。なんと言いますか、繋がって抱き合っている事が嬉しく、そして幸福しあわせを感じておりました。心がとても満たされているのです。

「あの、一つお聞きしても宜しいですか?」

 頃合いを見て私は口を開きました。すると、オールさんは顔だけ私の方へと上げられます。

「オールさんはいつから私を好いて下さっていたのですか?」

 愛されている事に感動して特にお聞きをしていませんでしたが、これけっこう気になりませんか?確かに彼は常に私の傍に居て下さいましたが、心を通わせる色事はありませんでしたし。

 生真面目な彼ですからね。元から思わせぶりな態度も取られませんでしたし、一体何処で想って下さっていたのか、不思議なぐらいです。問われたオールさんは私から目をそばめ、考えに暮れる様子を見せられました。

 そして…?

「明確には憶えておりませんが、初めてお会いした日から、沙都様は気になる存在でしたよ」
「え?」

 私は目をしばたかせます。出会って、しょ、初日からですか!まさかではありませんか!

「中々いらっしゃらないですよね。蔑んで見ているのかと楯突かれる方は」
「そ、それは…」

 出会った日の夕方、敬語を使わないで下さいと会話をした時の事ですね。楯突いたつもりはありませんでしたが、彼には印象深い出来事だったようです。

―――うぅ~、上手く言葉を返せません。

「言葉が過ぎましたね」

 困惑の表情を見せる私を見つめるオールさんは決まりが悪そうにされます。それから彼は真摯のお顔へと変わって言葉を続けます。

「深く印象に残っている事はあの天神の試練の時です。貴女は異形の姿の私を見極めました。慄然とする状況の中でも決して逃げ出さず、真実を見極めようとされましたよね。きっと他の者ではやり遂げる事が出来なかったでしょう」

 あの時の出来事は今思い出しても戦慄が走ります。鬱蒼と生い茂る森で現れた恐ろしい姿の魔物、まさかあの時の魔物が美しいオールさんだなんて思いも寄りませんよね。よくぞ見抜いたと自分でも感心をします。

「あの試練を終えた後、忘れていた温かさが蘇ってきた事を憶えております」
「え?」

 忘れていた温かさとは、それは「恋をする心」の事でしょうか。

「そうおっしゃって下さり、光栄です」

 照れくさそうにしてお礼を伝える私に、オールさんは優しく微笑まれました。

「明確に意識したのはそこからかもしれませんね。とはいえ、それ以前から役目から投げ出さず、そして慨嘆一つもお見せしない、沙都様のお姿に惹かれて行ったのだと思います」
「オールさん…」

 そのような目で見て下さっていたのですね。なんと言いますか、とてもこそばゆいです。ソワソワとして落ち着きません。そんな恥じらう私の様子を見下ろすオールさんはさらに笑みを深め、私の頬を大きな手でそっと包み込みます。

「愛しております、沙都様」

 そこに確かな愛が込められているのを目にした私も力強く答えます。

「はい、私も愛しております」





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