第四十九話「彼の秘めた願い」




「え?」

 シャルトからの突然の言葉に、私はキョトンとしてしまう。

「帰る方法を知ってるの?」
「知らないわよ」
「なーんだ。じゃぁ、やっぱこっちでやっていくしかないじゃん」

 シャルトが思い詰めたように訊いてくるから、てっきり知っているのかと思ったら違うのか。異世界をそんな簡単に行き来できるもんじゃないよね。私の答えにシャルトは面食らっている様子だった。

「……嘘、本当は知っているわ」
「え?」

 再び私はキョトンとした表情をして、シャルトを見返す。

「この先にある神殿の中に、千景の世界と繋がるみちが存在しているの。アンタが帰りたいと思っているのなら、案内をしてもいいわよ?」
「え?」

 いまだかつて見た事のないシャルトの真剣な面差しに、私は大きく動揺した。ドキドキドキと鼓動が速くなる。か、帰れると急に言われてもな。

「どうしたの、急にそんな事を言い出してさ」
「別に深い意味はないわよ。そもそもアンタの事を少なからず同情はしているのよ? 禍だと言われて知らない異世界に来させられて、しかもこっちの人間と契りを交わせなんて。嫌でしょ? 愛してもない人と交わすなんて?」
「……そ、そうだけど。でも契りは大切な行事なんでしょ?」
「アンタはその犠牲になってくれるの?」
「そ、そうじゃないけど」

 どうしたんだろう、シャルト……。今までそんな素振りを見せなかったのにさ。

「なら帰ればいいわ」
「そ、そうだけど……。でも今はキールがどうしてもって言うなら。交わしても……い……ゴニョゴニョ」

 段々と声が小さくなり、自信をもって答えられない。だけど答えは出ていた。

「今回はいいよ」
「なんで?」

 シャルトは貫くような鋭い瞳で問いてくる。

「だってキールや王とかお世話になった人達に、挨拶もなしで帰るのは悪い気がするもん」
「挨拶なら私が上手く伝えておくわよ。それに次はいつ帰られるかわからないわよ? 今回たまたま外出の許可が出ただけだから」
「そ、そうだけど……。でも勝手に帰ったりしたら、キールが淋しい思いをするかもしれないし……」

 なんだかんだ一ヵ月半以上、一緒に過ごして同じベッドで寝ている仲だしな。急に私が居なくなったら淋しいよね。

「お世話になったのに挨拶もないのかって怒ると思うよ。だから、また頃合いをみてでいいよ」
「なんかさっきから、キールの事ばっか気にしているのね?」
「そ、そんな事はないよ! 王やシャルトにもお世話になったからさ。いきなりは失礼だと思っているんだって」

 私はなんだか歯痒い気分になって歩き出した。そりゃぁさ、こっちの世界の生活は慣れない事だらけで、元の世界が恋しいと思った事もあったけど、今ようやく慣れてきて、キールも少しばかり心を開いてきてくれているしね。

 元の世界に帰りたいって言えば、キールは帰してくれるのかな? 契りが終われば、私は用無しになるの? そう思ったらズキンッと心が痛んだ。わ、わっかんないなー。最近、私にエッチして楽しんでいるみたいだから、もしかしたら……。

「オマエを帰さない、オレの傍にいろ!」

 とかなんとか言っちゃうかもしれないな。参ったなー。そこまで言うんなら、暫くいてあげてもいいけどね! 私はさっきのズキンの事柄はさっぱりと頭から抜けて、ウハウハな気分で歩いていた。

 暫くすると、とあるお店に目が留まる。比較的大きな建物のお店だけど、他のお土産さんとけっこう離れていてポツンと建っていた。

「シャルト、最後にあそこのお店を見てから帰ってもいい?」
「いいわよ」

 シャルトの許可を取って、私はそそくさお店へと向かう。店の入り口に近づいた時だった。

「う、うぅ……」
「ん?」

 なにか呻き声のような音が聞こえて、私は首を傾げる。

「シャルト、今、呻き声が聞こえなかった?」
「そう? なにも聞えなかったと思うけど?」
「そっかー、気のせいか」

 シャルトの答えに、私も気にせずお店へと入った。暫く商品を見ていて、入口付近を通った時だ。

「うぅ……」
「あんれ?」

 またもや呻き声が聞こえてきた。やっぱ気のせいじゃないよね? 私は無意識に声の出所を探しに店を出た。店の外から聞こえたような気がするんだよな。私はキョロキョロと辺りを見渡していると、

「う、うぅ……」

 さっきよりも声が大きく聞こえた。これは建物の裏からかな? 私は急ぎ足で裏へと回る。声からして、とても苦しんでいる様子だもの。誰か倒れているに違いない! 私は焦燥感に駆られて急いで向かった。

「あれ?」

 裏に回って最初に目にしたもの、横たわっているあれは馬の足? 今の私の角度からだと、お尻と足しか見えない。あれはスルンバ? スカーレットかな?

「う、うぅ……」

 またもや苦しそうな呻きを上げていた。私は急いで駆け寄ろうと近づくと、

「!?」

 度胆を抜かされた。だって瞳に映ったのはスルンバでもスカーレットでもなくて、

 ――こ、これは!

 下半身は馬の足っぽいけど、上半身から顔は、ひ、人だぁああ! ま、ま、まさしくこれは待ち焦がれていた、ケ、ケンタウルスではないかぁああ! 私は感極まって瞳を恍惚にさせながら、早速ケンタウルスに触れようと手を伸ばした。もち獣部分の下半身にだ。

「近寄るな、人間!!」
「うわっ!」

 突然ケンタウルスが上半身を起こして、威嚇し怒鳴り声を上げた。私はビクッと萎縮して躯を退ける。ケンタウルスは色素の薄い茶色のクルンクルンの髪の毛と大きな瞳が印象的で、人間でいえば十三歳~十四歳ぐらいの少年に見えた。

 そして、かなり敵対心を剥き出しにしていて、近づけさせまいときつく睨み上げているぞ。なんという事だ! せっかく念願のケンタウルスに会えたというのに、触る事が出来ないだなんてオーマイガ!





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