第七十二話「ずっと気になっていた」




 もう一つお気に入りの場所が出来たんだ!大聖堂の塔の上から見渡す首都ジョンブリアンの街並み!!ここは騎士になってから、訪れるようになって見つけた絶景の場所!宮殿の上から見渡せる風景は本当に圧巻ものだ!

 こんな高い所から街の上を眺めた事なんてなかったから、本当に感動する。華やかでノーブルなデザインから、長身で風変りな形、貫録ある古都風なものまでと、多種多様な建物が並んでいた。こうやって上から全体を眺めると、本当に美しい街なんだな。

 叙任式を終え、5日後には騎士としての第一の訓練が始まる。そしたら、こんな風に眺めていられる時間もないのではないかと思い、前日の今日、最後にと足を運んでみたのだ。

―――明日から、いよいよ騎士としての生活が始まるんだな。

 初め、私が騎士になる事は両親共に兄達から猛反対だったんだよね。昔から私が夢見ていた事は知っていたんだけど、女騎士は存在していなかったし、あまり本気として受け取っていなかったようだ。

 それに存在していたとしても、かなり危険度の高い仕事だ。大事な愛娘(妹)をわざわざそんな仕事に就かせるわけがない。そもそも今回の事件も、私の騎士への夢が原因で、あんな命に危険が及ぶような目に遭ってしまった。

 父さん達にとって、私の騎士への道はただの危険にしか思えなかったのだ。でも逆に言えば、その危険を犯してまでも、私は騎士への道を真剣に考えていたのだと、強く訴えた。ずーっと憧れていた騎士なのだ。

 危険なのは最初からわかっている。今回の事件で十分に身に染みている。体感しても気持ちは変わらなかったし、むしろより人の為に役立つ騎士になりたいと思うようになった。その気持ちを私は粘り強く父さん達に言い続け、最後には認めてもらえたのだ。

 そして騎士となれた今、調査中は恐れ多くも宮殿内に住み込みをさせてもらっていたけれど、これからは自分の村から首都まで馬を走らせての出勤となる。シャークスや兄さん達みたいに上位の騎士になれば、首都に住まいを用意してもらえるんだけどね。まだまだ先は長い。

 だけど、念願だった騎士への道が開けたのも、首都の不穏な出来事を無事に解決したからなんだよね。改めて振り返ってみると、本当に……無茶したよね?だって、事の次第では私は騎士になれたどころか生きてここにいられる事はなかったかもしれないのだから。

 正直、初めはただ言われた通りの事をするだけでいいのだと安易に考えていた。最初の調査はシャークスと二人で祈りの場所を回るだけだったし。

 それが気が付いたら、ザクロとクローバーさんが加わって、ブリブリのメイド服を着たウェトレスでの聞き込み調査が始まり(しかもセクハラ受けながらの)、続いて夜な夜なザクロと一緒にカジノでのゲームプレイ、そして病院での聞き込み調査の後には誘拐され!

 最後は大聖堂で監禁までされたんだよね!公開処刑だとか命が危うかった!!最後の最後は大奮闘を繰り広げて、黒幕のガルフ大司教とパナシェさんの悪事を公にした。その名誉ある行動があって、今の私がいるんだ。

 私は知らずだったけど、実はわざと捕まって黒幕が出てくるのを計らっていたんだよね。すべてはシャークスの計画通りに事が運んでいたのだ。黒幕を出すまで敵を躍らせていたなんてね。

―――でもなにより、シャークスと出会った事が最初のきっかけなんだよね。

 暫くシャークスとは会っていなかった。なんせ今回の事件に深く関わった彼だから、事件の後処理はもちろん、騎士の長としての仕事と毎日が追われる生活を送っている。寝る時間まで惜しんで仕事をしているようだから、私なんかに構っている時間はないんだよね。

 調査している時は当たり前のように私の所に来ていた彼だけど、本当はそんな関わりになれるような人ではなかったんだよね。私が騎士となっても、彼は上位の騎士だ。普段は全く別の場所で活動をしている。調査が終われば、シャークスはもう私とは関わりないのだ。

―――なんだか心にポッカリ穴が開いたような感覚。

 淋しいにも似た気持ちだった。ひっ付かれていた時はあんなにウザイと思っていたのにな。今考えてみれば、あの偏執狂ぶりはシャークスなりのコミュニケーションだったのかもしれない。

―――ズキンッ。

 そしたら、別に私の事を本当に好きだったわけじゃないって事だよね…?

―――ズキンズキンッ。

 胸が締め付けられるようで、ズキズキとして痛い。以前からシャークスの事を考えると、起こるこの痛み。ずっと原因がわからなくて、モヤモヤさせられていたけど、今ならなんとなく……だけど、わかってきたような……。

「…スターリー」

 名を呼ばれてハッとする。この穏やかな甘い美声は……。

「シャークス…」

 振り返って目にした彼の姿に、ドキンッと胸が高鳴った!まともに顔を合わせるのは何日ぶりなんだろう?シャークスは私の前まで来ると、

「スターリー、久しぶりだね。叙任式依頼かな?」

 にこやかな笑顔を向けて声をかけてきた。

「そうだね」
「この度は騎士への叙任おめでとう。その制服もよく似合っているね。女性の騎士第一号なんて名誉な事だ」
「有難う。これもシャークスが道を開いてくれたおかげだよ」
「きっかけはオレかもしれないけど、実際は君が条件を成し遂げたからこそ、なれたんだ。君の実力だよ」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。有難う」

 笑みを深めて褒めくれたシャークスに、思わず惚けて見つめてしまった。こうやってマジマジと見つめると、やっぱ彼は相当な美形だ。初めて見た時は何処の王子様かと思ったもんね。彼と肩が並ぶと、

「ねぇ、シャークスはなんで私を騎士にしてくれようとしたの?」

 私はずっと思っていた疑問を口に出した。今なら、いや今だからこそ、聞いてみようと思ったのだ。

 実はあの首都の事件は首謀者である黒幕が誰であるのか、ある程度の予想は立っていた。人望のある人物いえば、絞られていたからだ。解決には私を巻き込まなくても、シャークス達なら成し遂げられていた筈だ。それなのに、なんでわざわざ私を?

「それと、私がウィリアムやチャールズ達から、シャークスを助けたあの日が初めて私と出会ったわけじゃないんでしょ?名前は兄さん達から聞いていたとしても、私とは直接面識がなかった筈だし…」

 シャークスから笑みが消えると、彼の表情は真顔へと変わり、ジッと真剣な眼差しが向けられる。

「…うん。そうだね。オレは君を5年前から見て知っていたよ」
「え?5年も前から?」

 予想もつかなかったシャークスの言葉を耳にして、私は目を大きく見張って、彼を見返した…。





web拍手 by FC2


inserted by FC2 system