第七十一話「騎士への道」




 この数ヵ月間、首都を大混乱へと陥らせた黒幕が公となった。大聖堂正門前に集結していた民衆の前へ、首謀者ガルフ大司教と彼を後ろ盾していたパナシェ大司祭が姿を現した。

 その横でエクストラ王が、これまでの首都の不穏な動きから、今回の事件に至るまでの全貌をすべて明るみにされた。貿易船の乗組員による虚言、一部の商人や漁師達の突然のストライキ、不当な税率上げなど、様々な出来事を隠さず、民衆へと伝えられた。

 それらの出来事すべてが大司教とパナシェ大司祭の陰謀であり、それらすべてを王の政治の不届きが原因であると広め、デモを起こさせた。さらに彼等の目論見に気付いた私達を監禁し、解放を望むのであれば、王の退位を交換条件と出した。

 条件を呑まないのであれば、私達を公開処刑とし、その原因をも王の犯した罪によるものだと公にするつもりであった。そして彼等の成す事すべてはローゼンカバリア女神からのお告げなのだと、女神の名を悪用し、聖なる教えに反する罪深き事であると重々しくはなされた。

 民衆は唖然とし言葉を失っていた。そうなって当たり前なのだ。ローゼンカバリア女神を信仰する信者にとっては信じられない話だ。女神の一番の使い者である大司教と大司祭、その彼等が女神の名を利用し、己の欲望を満たそうとしていたのだ。

 彼等を信じ、今まで教えを守ってきた信者はこれから先なにを信じれば良いのか路頭に迷っているようだった。女神に対する信仰自体が危ういのではないかと疑い出した者も多く、女神から離れていく姿も見られた。

 そんな様子を女神は悲観して見ているだろう。すべてを公にしたあの日に現れた彼女はその後、姿を見せる事はなかったけれど、きっとシルビア大聖堂の尖頭の上で、今もなお見届けている事だろう。

 今回の大事件に首謀者ガルフ大司教とパナシェ大司祭、またそれらに関与したすべての聖職者及びパナシェさんとやりとりを交わした貿易乗組員、デモンストレーター達はシャークス達、黒の騎士によって取り押さえられ、牢獄の中へと入って行った。これから裁判が行われるが、大司教とパナシェさんについては一番重い刑が下されるのは間違いないという事だ。

 まだまだ元の平穏な首都に戻るには時間がかかりそうではあるけれど、黒幕を捕え、陰謀を明るみにする事が出来て、この数ヵ月間の首都で巻き起きた不穏な出来事は無事に幕を閉じたのであった…。

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 黒幕を公にしたあの日から、ちょうど一ヵ月が経った今日、任命の儀式が行われた。なにかというと………。そう!!実は私の「騎士」の叙任式なんだ!!晴れて黒幕を暴いた暁に「騎士」への道を開いてもらう約束が決行されたのだ!

 小さい頃から、ずっと夢見ていた女騎士の実現が出来て、もう言葉には表せられない、涙がちょちょ切れそうな思いだった!!それに女性の騎士はなんと私が第一号なのだ!その異例の実現に、エクストラ王と騎士全員が集結した大叙任式となった!!これには生きた心地がしないほど、超緊張したよ!!

 式は宮殿の塔の上で行われた。雲一つない見事な青天だ。心地良い陽射しからも祝福されているようだった。騎士は緑の位から始まる。私はグリーン色の制服で身を引き締め、騎士全員が見届ける中、主へと跪き、誓いの言葉を交わす。

「如何なる場合も忠誠を立て、誓い、そして誠意を忘れることなかれ。信義、道理、正義にもとることなく、人を欺くことなかれ。常に弱き者を守り、強き者へは勇ましく、己の品位を高め、堂々たる振る舞いをいたせ。騎士の身である限り、民を守る盾となり、主の敵を討つ矛となれ。騎士としての誇りを魂に刻み込み、己の成すべき事に精進せよ」

 私は肩に置かれた己の剣に口づけを落とし、誓いを成立させる。

「我、汝を騎士に任命す」

 正式な任命が下され、安堵と共に私は目の前の主を見上げる。陽射しの光で眩いぐらいに輝いて見える笑みには「よく頑張った、おめでとう」と、祝福が込められているように思えた。

 任命はその騎士団の長から受ける。…が!私は緑の騎士の長ではなく、なんと!黒の騎士の長、シャークスから任命を受ける事になった!いくら慣れ親しんだシャークスでも、儀式ともなれば、緊張の高まりが半端なかった。

 でも今のこのシャークスの笑顔を目にして、緊張が嘘のようにほぐれ、代わりに自身の誇りが生まれた。共に黒幕と戦ったシャークスと誓いを交わせて、とても嬉しかった。

 そして誓い後、王から騎士の証となる「ブローチ」を受け取った。金色のブローチの中央には緑色で「スターリー・クランベリー」と、名が刻まれていた。私は歓喜に満ち溢れる思いでいっぱいとなる!!

 輝くブローチを手にして、今となってすべてが報われたのだ。偉大な者だけが通れる赤いカーペットの上で、私はこよない尊いものを手にしたのだった…。

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「おめでとう、スターリー」

 お気に入りの中庭へと繋がるバルコニーで休んでいると、突然背後から祝福の言葉をかけられた。後ろへ振り返ると、目にした人物の美しさに目を奪われる!

「アンティール様?」

 美しいの代名詞とも言えるアンティール様が微笑えんで立っていらっしゃった。エメラルドグリーンのふんわりとしたドレスがよく似合っている!

「とても騎士の制服が似合っているわ」

 アンティール様は私の隣へと来られると、すぐに褒めて下さった。

「凄いわね。女騎士第一号なんて。そうそうなれるものではないわ」
「有難うございます!」

 私は満面の笑顔でお礼を返した。格式ある方から褒められると、改めて誇らしい事だと実感する。一番下位の制服でも金色のボタンと肩章が飾られた立派なものだ。私の誇らしげな笑顔を目にしたアンティール様も笑みを深められ、しっかりと私を瞳に映し出され…。

「シャークスを愛するが故に同じ道へ行くなんて、貴女の想いは本物ね」
「違います!!」

 またとんでもない事を口走られた!!もう!前も私をシャークスの婚約者だと言われて、目を丸くしたけど、まさか第二弾が来るとは!?もう何気にアンティール様は爆弾発言を落とされるからな~!

「いいのよ、否定しなくても。私が昔シャークスの婚約者だったのを気遣って言っているのよね。今も初めて会った時も…」

―――違います!素で言っているんです!!

 と、あまり主張するのも却って行き過ぎた態度になるのではないかと思い、口を噤むでいると、アンティール様は悟ったような目で、私を優しく見つめ返していた。

「貴女なら安心ね。しっかりとシャークスを支えてあげられるわ。なんと言っても、シャークスと同じ命を懸けてまで、エクストラ王をお守りしようとしてくれたのですから。強い志が一緒なら、今後も彼と一緒にやっていけるわ」

 えっと、王をお守りしていたという、そこは実は私の野心なんです…。

「それと彼には少し変わった趣向があるけれど、元気な貴女なら理解してあげられると思うわ」

 それはアレですよね?彼のド変態ドMの部分ですよね?そこは私の中で相容れられる部分が一ミクロもないので、お断りですよぉぉおお!!アンティール様のように、人を罵って痛めつける、そんな欲望はないんです!!

「お幸せにね、スターリー」

 ここまで言われてしまうと、似非えせでもリアルに思えてきてしまった。じんわりと温かいものが流れて、思わず私も同じ気持ちになって伝えていた…。

「アンティール様もフォールン王子と、どうかお幸せに…」





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