Birth34「波立つ胸の内は嫉妬から」




 …………………………。

 なんだか非常に気まずいです。エニーさんとその後ろに立つオールさんからの冷たい視線が、ですね。やはり、お二人には私とナンさんがこっそり(のつもりでしたが)覗いていたのを気付いていたようで、気分を害されたのかもしれません。

「私は今、沙都様に一番素敵な景色が見えるこの場所を案内していたんだから!」
「私はただ沙都様に挨拶をしただけだ。それに、この場所からでは景色は半分しか見渡せない。こことは反対側へ案内するべきだろう?」

 あぁ~ナンさん、墓穴を掘られましたよね。疑われないように先に予防線を張ろうとされたのでしょうが、返ってエニーさんに鋭く突っ込まれてしまいました。

「久々で場所を忘れちゃったの!まさかここにエニーとオールさんがいるだなんて思わなかったわよ!アンタこそ、こんなところでオールさんと二人っきりで何してたのよ!?」
「仕事の話をしていたに決まっているだろう?ナンには関係のない話だ」
「ッキー!自分だけにしか分からない言い方をして厭らしいわ!」

 ナンさん、何か趣旨が違っていませんか?こちらが咎めを受けるところをナンさんの感情が暴走してしまっていて、思わぬ方向へといきそうです。

「人の事を厭らしいと言えるのか?オール様と話をしている途中で、ナンの雄叫びが聞こえていた。そっちこそ何をしていたんだ?」

―――あちゃー、今のエニーさんの言葉、やっぱり気付かれていたんですね。

 ここまできてしまえば、逃げ場はありません。素直に謝りましょう。

「何をって、さっき言ったじゃない!沙都様を案内している時、たっまたま二人を見かけただけなんだから!何をそんな覗き見していたみたいな言い方して、超不愉快だわ!」

 ナ、ナンさん、苦し紛れだとは思いますが、そこまでして言い訳を通そうとされているのですね。ですが、言えば言う程、苦しい状況となりそうなので、ここらで折れておいた方が無難ですよ?

「お気を悪くしてしまい、申し訳ありません」

 私はこの場を鎮静させようと試みました。しかしです…。

「前々から怪しい怪しいと思ってたけど、アンタ、オールさん狙いなんでしょ!?」

―――はい?

 なんかナンさんからとんでもない言葉が飛びましたよね?ど、どうしたんですか?さすがに私もビックリ仰天となり、言葉を失います。その直後からはエニーさんとナンさんの言い争いが始まってしまいました。

 あぁ~、ナンさんはエヴリィさんとも喧嘩になりがちですが、エニーさんとも仲がよろしくないのでしょうか。喧嘩はよろしくないですよ、皆さん仲良くやりましょう。

「沙都様」
「は、はい」

 私が困りながら、お二人の様子を見ておりましたら、オールさんから名を呼ばれ、思わず上擦った声で返事をしてしまいました。そんなオドオドした私に対して、オールさんは真っ直ぐに双眸を向け、私の瞳を捉えます。その真剣な表情が私を妙な気持ちにさせます。

「私の事でお知りになりたい事があれば、直接私におっしゃって下さいませ」
「え?」

 てっきりお叱りを受けるのかと思っていたので、向けられた言葉に、私は瞠目としました。

「他人があれこれと詮索をしても、憶測に過ぎません。これは私だけには限らない事ですが」
「そ、そうですね」

 おっしゃる通りです。どうやらナンさんのお声が筒抜けだったみたいですね。陰で自分の事をあれこれと言われて、気持ちの良いものではありませんものね。私は反省の色を見せました。

「それで何をお知りになりたいのですか?」
「はい?」

 オールさんの唐突の問いに、再び私は目を剥きます。私が言葉の意味を把握出来ず、固まっておりますと、

「私の何をお知りになりたいのです?」
「え、えっと…」

 急にきましたね。とは言われましても、ナンさんの個人的な感情であって、ストレートには質問出来ない内容ですよねー。オールさんとエニーさんの仲は訊くまでもないですし、あとはそうですねー。

「オールさんには心にお決めになった方がいらっしゃるのですか?」

 エニーさんとの仲が深いものではなくても、実は既に他の方でいる可能性はありますものね。まぁ、ナンさん視点からではそういった方はいらっしゃらないとは言っていましたが、実際は分かりません。

 私の質問にオールさんは一瞬、瞳を大きく揺るがせました。意外とでも言うのでしょうか。その証拠に、彼は不意打ちに合ったような驚愕の色が浮かべ、私を見つめていました。

 ……………………………。

「そちらは沙都様が気にしていらっしゃる事ですか?」
「はい?」

 沈黙が破られたと思いきや、自分の耳を疑うような言葉が返されており、今度は私が芯から驚いてしまいました。

―――今のお言葉は…?

 何やら深い意味がおありな気がするのですが?えっと、それと私の思い違いですよね?オールさんの表情が何かの期待を含んでいるような気がするのは?いえいえ、私の厚かましい勘違いですよね。

 ……………………………。

 どうしましょう。黙っておりますと、変に意識してしまうではないですか!その間にも、オールさんから片時も目を離されていないのですよ。心なしか彼との距離も近くなりましたよね?何故に…?

「ひゃあっ!」

 意表を突かれた私は驚きの声を上げてしまいました!何故なら私の目の前が突然、ナンさんのお顔のドアップに変わったからです!反射的に私はナンさんと距離を取ります!

 どうしたのかと私が吃驚しておりますと、ナンさんはクルッと躯の向きを変え、私に背を向けられました。そして彼女はズイッと背伸びをして、目の前のオールさんへ顔を近づけます。

「今度は沙都様と見つめ合っていらっしゃいましたよね!?オールさんは女性だけにしか近づいて下さらないのですか!?私だって心は女なんですよ!」

 なんとナンさん、今度はオールさんへ思い切った言葉をぶつけられましたよ!するとすぐに…。

「ナン、オール様は大事な話をなさる時はお近くで耳を傾けて下さる」

 オールさんへ食い付くナンさんをエニーさんは力づくで引き離そうとされました。肩をグイッと引かれたナンさんは不愉快そうな様子を見せています。それでもエニーさんは言葉を続けられます。

「それは女性だけではない。この間、男の部下の相談事にオール様は耳を傾けられていた。その後、その部下は何を思ったのか、オール様に思い切った行動を取ったが…。言い換えれば、それほどオール様は親身になって下さっていたのだ。これで分かっただろう?変な言い方をするな」

―――エニーさん?何か話のもっていき方に問題がありませんでしたか?

 部下の思い切った行動って、何をされてしまったのでしょうか?なんとなく想像はつきますが、出来れば考えたくない内容ですよね。

「でしたら、尚更、私にも耳を傾けて下さいませ!」
「ナン!」

 エニーさんはナンさんをオールさんから離すどころか、余計に食い付かせてしまいました。それに怒号するエニーさんはまたもやナンさんの躯を引こうとされましたが、今度はナンさんの方も躯をブンブンと横に振り、エニーさんの手を払い退けようとされました。

 ところが、その時に運悪く私はナンさんの腕に当たってしまい、それが予想以上の痛みと重圧で、気が付いた時には目の前に澄んだ青空が見えていたのです。

「わわっ!」

―――倒れます!





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