番外編⑨「キールの愛に危機感!?」




 バーントシェンナ国創立記念パーティ当日。毎夜キールとの熱い夜で、すっかりと心配事が吹き飛んでいた私に、再び不安が押し寄せてきたのはパーティの最中さなかであった。

 パーティ会場に入ると、一発目に思ったのが豪華絢爛。何処に目を向けても豪奢な内装に目が眩みそうになった。それに加えて人もキラキラに着飾っていて煌びやか。華やかな社交パーティは日本で一般庶民をしていたあっしには刺激が強しし。

 ――慣れるまでまだまだ時間を要するぜ。

 私はアイリとシャルトに褒めてもらったワインレッドのドレスを着て、さらにゴージャスな花柄の髪飾りで髪の毛をアップにして、完璧に着飾っていた。この私の姿をキールも見たら、頬を紅潮とさせて絶賛するだろうな。

 ――早く見てもらいたいんだけど、彼はいずこに?

 私はキョロキョロと辺りを見渡す。すると、壇上の近くに一際輝きを放つ人物を発見!

 ――あ、あれは間違いない、あっしのキールだぁああ!!

 彼は金色の長居の上に、銀糸で織り込まれた華美なミトラフコートを羽織っている。そして頭から胸元まで金キラに宝飾されて、如何にも王らしいオーラを放っていた。

 ――今日はいつも以上にカッコイイな!

 私は一瞬でキールに釘づけとなって、周りの煌びやかさが全く目に入らなくなった。気が付いたら、私は大臣や役人達と和気あいあいとしているキールへ一直線に向かっていた。

 キールまであと数メートルと近づいた時、彼も私の存在に気付いてくれて、笑顔で迎えてくれた……矢先に事件は起きた! キールの姿を遮断してきた何者かがいた!

 しかもその相手が……あ、あのコ! イ、イスラちゃんじゃない! クジャクの羽のような鮮麗な色とデザインのスレンダードレスを着た彼女は、キールの隣りにいるのは私だと言わんばかりのオーラを放って立っていた。

 ――そ、その立ち位置はあっしの場所なんですけどぉおお!

 私はポカンと口を開けながら、彼女とキールの様子を窺う。私を気にするキールだけど、イスラちゃんが現れた事で、他の人達が彼女にマシンガントークを始めてしまい、キールも抜けるに抜けられないといった様子だった。

 ――な、なんという事だ! 早くキールにドレス姿を褒めてもらいたいのにさ!

 酷いな、あっしはキールの婚約者フィアンセなのにさ。落ち込んでいると、なにやら眩しいものが近づいて来る事に気が付いた。

「千景!」

 手を上げて満面の笑顔で私の名を呼ぶアイリがいる。今日の彼はやたら眩しいんすけどぉ! アイリは金糸の繊細な刺繍が美しいワインレッドのコートを羽織っていて、髪はいつも下ろしているのに、今日は結いでいて新鮮だ。

 ――どっから見ても貴公子というか王子様にしか見えないな!

「千景、髪の毛アップにしていて可愛いね」
「有難う。アイリもいつもに増して格好が決まっているね」
「そう? 千景のドレスの色を見て赤もいいなって思ってマネしちゃった。似合ってる?」
「うん、とっても」

 なにを着ても煌びやかだよね、彼は! さすが空前絶後の美形!

「有難う。同じ色のドレスを着てペアみたいだね~」
「へ?」

 悪気はなくサラリと言ったアイリだけど、周りの女性陣からの視線が痛いんすけどぉ! 私がゾッと引き気味になっていると……。

「あんれ? 浮かない顔をしているね。もしかして、お腹空いているの? なにか取って来てあげるね」
「いいよ、自分で取るよ」

 これ以上、アイリの世話になると女性陣から刺されそうでキョワシシ。彼がビュッフェを取っている隣で、私も同じく選んでいたら、

「千景、あーん」

 って、アイリがフォークに刺したチョコレートケーキを私の口元へと差し出してきた。な、なんて事をしようとしているんだ、コヤツは! からかおうとしているのか、純粋に食べさせてあげようとしているのかわからんが、君の行動一つで私は死に至るかもしれないのだぞ!

「アイリッシュ様、私にもそのケーキを下さいませんか?」
「な、なに貴女厚かましい事を言っているの! アイリッシュ様、こちらのタルトを召し上がりませんか?」
「は? 貴女こそなに勝手にアイリッシュ様のお口にタルトを!」
「貴方達、どちらも図々しいのよ! アイリッシュ様、一曲ご一緒に踊って下さいませんか?」

 ひぃぃ! 既に複数の女性群がアイリの前を囲って争い出したぞ。巻き込まれたくない! アイリには悪いが、私は本能的にその場から逃げてしまった! そしてバルコニーに通じる窓扉の前へと来た。

 ――ありゃ、アイリの彼女になる人は超大変だな。

 私は深い溜め息を吐いた。そういえばキールは! 私はさっき彼がいた壇上前に視線を映すけど、キールの姿はなかった。しかもしかもイスラちゃんの姿もないぞ!

 ――も、もしやぁああ!!

 私は瞬時に青ざめた。今、ニ人っきりでいるかもしれない! 私は怪しいぐらいキョロキョロしながら、ホールの中を歩いてキールを探した。でも何処にもいなくて……。

 ――嘘、まさか部屋に行ってないよね?

 大きな不安がよぎった。ちょうど一周して、さっきいた窓扉の前まで来ると、バルコニーの前に立つ人の姿が目に入った。若い男女だろう。

「?」

 普通なら気を遣ってそのままにするけど、私は男女の後ろ姿をガン見してしまう! 何故なら、そのニ人はキールとイスラちゃんだったからだ! なにを話しているのかめっさ気になるけど、話し声を耳にするまで近づく事は出来ないしな。

 しかもなんか寄り添っちゃいますか的に近づき過ぎでしょ、あのニ人! 私はメラメラと怒りが込み上げてきた。しかし、一見後ろ姿だけでも恋人同士のような絵になるニ人に私は気持ちが落ち込んできてしまった。

 キール、まさか彼女に気持ちが傾き始めていないよね? なんでニ人っきりになったの? 私がいるのにさ。私は気持ちを紛らわせる為に、お料理をてんこ盛りにして頬張っていた。すると……。

「キール様、やはりもう心に決められた方と、ご一緒になるのですか?」

 ――あんれ?

 突然に可愛らしい女性の声が聞こえてきたぞ。もしやこの声は……? イスラちゃんか? そういえば何気に私って術力が使えるんだよね。キールに知られたら怒られそうだけど、聞き耳を立ててしまった。

「あぁ、そのつもりだ」

 キール! 私は歓喜に満ち溢れそうになる!

「そうですか。命をお懸けしてまで取り戻したお女性かたですものね」

 「命を懸けて」はあのマルーン国とヒヤシンス国との戦争の事だよね。イスラちゃん、声からしてとても淋しそうだ。同情はするけどキールはやらんぞ。

「あの、キール様」
「どうした?」
「もう私には希望を与えては下さらないのでしょうか?」
「え?」

 ――ひょぇ! それってまだイスラちゃんはキールの事を諦め切れてないって事じゃん!

「……………………………」

 どうやら沈黙が流れているようだった。おい、キールはなんで即答しないんだ! 「オレには千景しかいないんだ! もう千景しか抱けないんだ!」って言えよな!

「困りますよね、こんな事を申し上げては」
「……それは」
「でも私はどうしてもキール様を諦め切れないんです!」

 うわぁぁぁ!! キールがはっきりきっちり言わないから、イスラちゃんが感情的になってきたぞ!

「もし、もしほんの一パーセントでも私に望みがあるのなら、今夜私達が一緒に過ごした七の間に来ては頂けませんか!」

 な、なんと積極的に夜のお誘いをしているではないかぁああ!!

「え?」
「私、キール様がいらっしゃるまで、ずっと起きて待っていますから!」
「イスラ……」





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