番外編⑨「まさかの恋のライバル出現!?」
「わぁ! 千景、可愛いじゃん」
アイリの感嘆する声に私は素直に喜ぶ。
「そう?」
「うんうん、とっても可愛いよ。普段はブルーやグリーンの洋服が多いけど、赤もとっても似合うね」
「へへっ」
アイリが瞳を煌々と輝かせているところを見ると、お世辞で言っているようには見えない。さらに私はニンマリとした。今、私がなにをしているかというと、一週間後に行われるバーントシェンナ建国記念パーティのドレスを選んでいた。
自分でも今試着しているドレスが一番可愛いかなって思っていたところに、アイリが入ってきて絶賛してくれたのだ。ドレスは赤をベースにシフォンベールが重なった女性らしく、胸元には大きなリボンがあって、結び目にキラキラの宝石が埋め込まれている。
「このドレスならキールも可愛いって思ってくれるかな?」
「きっと言うよ」
「そうだよね!」
アイリもベタ褒めのドレスだし、きっとキールも「思わずここで抱きたくなるぐらい可愛い!」とか「今日はいつもに増して魅力的で、ドキドキし過ぎて心臓が壊れそうだ!」とか言われちゃうかもしれないな!
で・も「我慢出来ないから、もうここで!」とか言って、強行突破だけはさせないようにしないとな。シャルトに怒られちゃうもん。王族たる者、マナーやモラルは民衆の手本とならなきゃならないとかなんとかって、うっさいからな。
「アイリはなんでここに?」
この部屋はあくまでも女性用のドレスを選ぶ試着室だ。
「まさか美女とイチャつきにでも来たの?」
「まさか、それならもっと人目を避けた密室を選ぶよ」
な、なんと! あっしはほんの冗談で訊いたというのに、アイリはサラリと答えたぞ。さすがだ、これだけの美形なら美女とのイチャつきも日常茶飯事なんだろう……かな? でもアイリの浮いた話って聞かないんだよな。
「シャルトを探していたんだよね。建国パーティの事で確認しておきたい事があってさ。千景と一緒にいるかなって思ったんだけど」
「そういえば、さっき使用人さんに呼ばれてたな。多分パーティホールに行ったんだと思うよ」
「そっか。じゃぁそっちの方に行ってみようかな」
「だったら私も一緒に行くよ。シャルトにも、このドレスでいいか訊いておきたいし」
「わかったよ」
という事で、私はアイリと一緒に部屋を出た。回廊に出ると、今日も窓から心地好い陽射しが照り渡っていた。アイリが隣にいると、余計に光が眩しいわ。なんか陽射しが彼に向かって輝いているように見えるのは気のせいかい?
まぁ、あっしのキールが一番輝いているけどね! それから十五分ほど歩いて(無駄に広い宮殿だ)パーティホールまでやって来た。内部に足を踏み入れると、使用人さんやら侍女さんやら複数の人が、えっちらおっちらと準備を進めていた。
――シャルト何処かな?
私が視線を巡らせて探していると、
「あ!」
と、アイリが突拍子もない声を上げた。
「どうしたの?」
「あ、うん」
私は首を傾げながら、アイリの視線の先へと目を向ける。すると、壇上の前に複数の男女が談話している姿が映った。全く知らない人達だ。その中に凄く綺麗な女性がいる。
赤みのかかったブラウンの髪色は艶ありの超ストレートで、天使の輪っかまで見える。オレンジ色のサリードレスの上に、シフォンベールをポンチョのように羽織って、かなりスタイルがいい。思わずポーッと彼女に見惚れていると……、
「相変わらず綺麗なコだな、イスラ」
「イスラ?」
アイリが呟いたコは私が魅入っていたコと同じだよね?
「あのオレンジ色のドレスのコ、イスラちゃんって言うの?」
「そう、あのコがイスラ。建築関係のデザイナーをしているコなんだけど、あのコがデザインを手がけた建築物や内装は他国の偉い人達からも評判でね、デザイナーの看板娘なんだよ」
「ほぇー、若いのに凄いね」
「うん、凄いね」
「それに、もし千景がこの世界に来なかったら、きっとあのコがキールの隣に立っていたかもしれない」
「へ?」
私は目ん玉飛び出しそうなぐらい驚いて、アイリを見つめ返す。
「い、今なんと申した!」
「なんか急に丁寧な言葉になっている?」
「も、もしかしてキールと相思相愛だったの!?」
私はアイリに言い募る! でも確かキール、私以外の女性を好きになったのはルイジアナちゃんだけって言っていた……のは嘘だったんかぁああ! 私の怒かりに触れないように嘘ぶっこいていたというのか!
「キールがどう思っていたのかはわからないけど、彼女がキールの事を慕っていたのは確かだよ。まぁ、キールも見た目も中身もタイプとは言っていたけどね」
「!?」
な、なんとぉおお!! ドンピシャかあぁああ!!
「ま、まさかと思うけど、彼女とは夜を共にした仲とちゃうか!?」
「正直に答えていいの?」
「そうなんだろう!?」
「うん、あったよ。夜を過ごした日が一番多いのは彼女だからね」
「そ、そ、そうなんだ! で、でももう昔の話だろうからね!」
私は大人の女性としての余裕を見せた。そうだ、もう過去の話なんだ。それをうだうだ気にするのは嫉妬深くてカッコ悪いからな。
「そうそう、今キールは君に首ったけだもんね」
「アイリ!」
いつの間にか私の隣にはシャルトが立っていた。アイリをきつく睨み上げて。
「あ、シャルト」
険のあるシャルトに対して、アイリはあっけらかんとしている。
「今、千景に余計な話をしてたでしょ! そんな話をしたら、このコが気にするでしょ!」
「でも千景、昔の話だって言って気にしてなさそうだよ?」
「このコは気にするでしょ!」
「そうなの、千景?」
いきなりアイリから振られて、私は思いっきし動揺してしまう。
「そ、そ、そんな事ないよ……イスラちゃんって年いくつなのかな?」
「確かキールとタメだったかな」
「ふ、ふーん。そんなに若いんだ。キールとはどうやって知り合ったのかな?」
「確か新しいホールを増築する時に、彼女を呼んだのがきっかけだったと思うよ」
「ふ、ふーん。で、どうしてキールとエッチする仲になったのかな?」
「千景、もしかして気にして……?」
「ほら! アンタのせいで気にしているでしょ!」
☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆
イスラちゃんの存在を知った日の夜、私はベッドの中で姿勢を起こして物思いに耽っていた。
――あのイスラちゃんって凄く綺麗なコだったな。しかもあの若さで超仕事が出来るみたいだし。そして極めつけはキールのドンピシャのドタイプ。
まぁ、アイリが言ってくれたように、今のキールは私にゾッコンだけどね! 毎日ちゃんと躯を重ねて「愛している」や「可愛い」って愛の言葉を囁いてくれているし。……なのに、なんでこんなに気になってしまうのだろう……。
あのコ、キールの事が好きだったみたいだし。まさか……今もだったりして? 私がこの世界に来てから、キールは私以外の女性を抱かなくなったからな。それでイスラちゃんの気持ちがなくなったとは言えないよね? 私は知らず知らずの内に深い溜め息を吐いていた。<br />
「なにか悩み事?」
いつの間にかキールが浴室から上がって来ていて、私に声をかけてきた。
「別になにもないよ」
「そっ」
素っ気ない私の返事に、キールは気にする素振りも見せなかった。基本的にキールは私が口にするまで、問い詰めてこない主義なのだ。
「どうせこの後はなにも考えられなくなるだろうし」
「ほぇ?」
このキールの言葉の意味を理解したのはこの後のトロトロに蕩かされた熱~~~~い情事の時であった……。