番外編⑬「密夜のおデートにドッキドキです!」




 ――何処に行くんだろう?

 私はキールに手を取られて部屋を出た。そして、お宿の外へと出てきたぞ。

 ――うぉっ。

 夜は少しばかり肌寒いな。日中がポカポカ陽気だったから、余計寒さを感じさせる。そう思っていた時だ。躯の周りをフワッとなにかが身に纏う。

「ほぇ?」
「寒いだろ? それ羽織って」

 キールが私の躯に、肌触りの良いフンワリとしたストールをかけてくれた。なんと紳士な、惚れ直してしまうがな! 宿を出てすぐにキールはスルンバ車が待機している敷地に足を運んだ。

「千景、これに乗って移動だ」

 ほぇ? スルンバ車というよりは一頭のスルンバだ。乗るならじかにって事だよね?

「オレが前に乗って走るから、千景はオレの後ろに乗って」

 な、なんと! 二人乗りってやつですか!? これはいわば夜のおデートですか! いやん、私は色々な妄想を巡らせて胸を躍らせる。そして先に私をスルンバへ上げてくれたキールが私の前に上がる。

「しっかりオレに掴まって落ちないようにな」
「うん」

 離しませんって! 離すわけないじゃないですかぁ~ぐふふ❤ 私はギュッとキールの背中に躯を密着させる。私の状態を確認したキールはスルンバを走らせた。

 ――す、凄いぞ。風を切ってビュンビュンだ!

 自分の世界でも乗馬した事はなかったし、まさか異世界で違う動物に乗っちゃうとはね。とても貴重ですわ。まぁ、実際はガタゴトと躯が跳ねるのに驚きだけど、でもぐふっ❤ 後ろからキールに抱き付いている、このシチュ堪りませんわ!

 普段でも甘えたい時は後ろからいってみようかな? おおっと、あんまり興奮していると、キールに気を感じ取られて、私の考えている事が丸わかりになってしまうがな。それはハズ過ぎる! 気を付けなければ。

 ――数十分後。

 暫く走り続けて街から外れてしまったみたいだ。今は例のなぁーんにもない景色に変わってしまっていた。街から離れるなんぞ、けっこうな遠出なのかな?

 ちなみにこちらの世界の街や村以外の道には街灯がない。じゃぁ、今どうやって夜道を走っているかというとだ。実はスルンバは夜になると、目がピカッと光ってライトの代わりをしてくれるのだ! あっぱれ!

 賑わっている街から急に殺風景な場所に来たもんだから、なんだか肌寒さを強く感じ、私はキールに掴まっている腕に力を入れた。キールの温もりがあったかいぞ(ニヤリ)。

 それと余分な街灯がないからか、お星様がめっちゃ綺麗なんだよね。街から離れれば離れるほど、キラキラの星空になっていく。バーントシェンナも澄んだ夜空で星が綺麗だけど、またここからの空も美しい。

 さらに数十分走ると、なにやらユラユラと揺れる物体が目に入った。あれは木々なのかな? 大きな森が見えてきた。あのユラユラは木々の葉が微風によって揺れているようだ。

 ハッキリと森だと気付いた頃、スルンバがそのまま森の中へと入って行くではないか! こんな夜に森の中へ入って大丈夫かな? と思ったけれど、キールに限って私を危ない所へと連れて行くわけないし、私はドキドキしながら乗っていた。

 入ってから間もなくしてスルンバの走りが緩やかになり、ある場所で足が止まった。ようやく降りるようだ。先にキールが降りると、今度は私が降りるのを手伝ってくれた。今日は何処までも紳士ですな。

「有難う」

 地に足を着けた私はキールにお礼を伝えて、ふと頭上の方へと顔を上げる。

「わぁ、すっごい綺麗!」

 見上げる空は感嘆の声を洩らしてしまうほど、見事な煌めきだった。夜空いっぱいにキラキラとした星々が黒い空を覆い隠すように広がっていて、まるでダイヤモンドの光のように地上を照らしていた。

「キール、もしかして星空観賞をしに来たかったの?」

 私はキールが見せたかったものを言い当ててみようとした。

「それもあるけど、もう一つ見せたいものがあるんだ」
「ほぇ?」

 お洒落な形のランプを手にしているキールの表情は微笑んでいるようだった。

 ――なんだなんだ?

 私が首を傾げていると、キールもう一方の手を伸ばし、私の手を取って繋いできた。私は導かれるように彼と一緒に歩き出す。

 そうそう、またちょっとした余談になるけど、実は各国によって地面が異なっている。バーントシェンナの領域は水面だけど、ここマルーン国は炎面となっているんだよ。

 という事でマルーン国に行く時には少々底に厚みのある靴を履かなければならんのだ。まぁ、激熱できあつってわけじゃないんだけど、素足で長時間接していると、軽い火傷をしてしまうみたい!

 ――ぐふふ❤

 そして私はキールを隣にして、さっきからニマニマとしていた。だってさ、ウットリとする満天の夜空の下で、愛する彼と手を繋いで歩けるなんてニヤついてしまうって! 普段宮殿の中で、お手て繋ぎなんて出来ないからな~! こうやって外で繋げるなんて夢みたい!

 ほのかに灯るランプの光を頼り進んで行く。キールのアイボリー色の礼服も夜道でもハッキリと映えているけどね。いや、あっしのキールは存在そのものが輝かしいからな~。真っ暗闇の中でも、私には煌びやかに見えるぞ!

 暫く進んで行くと、森の奥へと入って行く。ん? 今、奥の方からキラキラとお星様のような光が見えたぞ! なんだなんだ? 私の胸が期待で踊るように弾んでいた。そして……?

「うわっ!」

 私は驚嘆の声を上げた。道が開けて目の前の広がる光景に私は息を呑む。辺り一面が虹のように七色に光っているのだ! 燦然たる光はダイヤモンドを散りばめたようにキラキラ。私は魔法にかかったようにトランス状態となっていた。

 ――な、なんて幻想的なんだ!

「なにこれ! すっご綺麗!!」
「だろ? これはレインボーストーンという花だ」
「お花なの!? なのにこんなに光るんだ!」

 自分の瞳までキラキラと光らせながら問う。イルミネーションをさらに幻想的にした眩い光だ。

「花弁が七色に光るストーンとなっているんだ。昼間でも光を放っているけど、夜にはまたこんな幻想的な姿を見せる。花自体は七色のグラデーションとなっていて、輝かしく神秘的であるという事から、別名“幻花”とも呼ばれているんだ」
「ほぇ~! なんだかレアなお花なんだね」
「そうなんだ。本来この花はケンタウルス達などが生息する北の地にしか咲いていなかったんだけど、ここ数年から風向きが変わった影響で、この場所にも芽吹くようになったんだ」
「へー」
「これは国の至宝だ。法で採取は禁じている」
「そんな凄いお花を見せたくて、私を連れて来てくれたんだね!」
「あぁ、普段は見られない希少価値があるものだ。せっかくの機会だから、オマエに見せておきたくてさ」

 いっや~ん、なんてロマンチックなんざましょ。これは今まで見た夜景より遥かに超える美しさだ。鮮麗した光に私の心はスッカリと奪われてしまった。それに隣には愛しのキールがいるではないか! これ以上のオイシイシチュありませんって。

「もう少し散策してみる?」
「うん!」





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