番外編⑬「お揃いにムフムフです!」




 バーントシェンナの大国を抜けた時から、全く違う世界にいるような気分だった。それがまたエキサイティングになるんだけどね。大国から少し離れただけで、あのなーんにもない水面の風景しかなかったんだけど、暫くすると随所に村が見え始めた。

 実は各国は大国以外にもいくつかの街や村を所有している。今走っている辺りは私の世界でいえば田舎の地だ。緑豊かな山々に豊潤な畑、そしてユラユラと川が流れ、空気もとても澄んでいる。まさに山紫水明の景色が広がっていた。

 ちなみに川の色は透明ではなく、薄い桃色をしている。向かっているマルーン国は日本のように四季が存在していて、その季節によって水の色が異なっているそうだ。水の色で季節の移り変わりを感じるらしぞ。

 春⇒パープル、夏⇒ブルーまたはグリーン、秋⇒クリーム色、冬⇒透明といった感じ。バーントシェンナが常に透明な水の色をしているから、違和感がなかったけど、桃色なんて異色にしか見えない!

 飲食用の水は何色でも躯にはなんも影響がないんだってさ。不思議不思議! とにかく目に映るものすべてが私には新鮮でならなかった。なにせこんなにじっくりと外の世界を見たのは初めてだからね。

 ――ムフムフ❤

 バーントシェンナを出発してから翌日、私は始終気分が上々であった。スルンバ車の中では、ずっとキールと一緒に居られるわけではなかったけれど、気を遣ってもらって二人っきりになる時間もあった。

 休憩時間にはキールと街中を散策して雑貨屋を見て回ったり、軽くお茶したりと、おデートらしいデートが出来て、私はとってもウハウハだった♪ちゃっかりキールとお揃いの小物も買ったし。また私はそのお揃いを目にして、ニンマリとしていた❤ それは……?

 ――今日の昼下がり。

「わぁ! これ可愛い~♪」

 お洒落なお店が立ち並ぶアーケードで、私はあるお店の小物に目が留まっていた。色鮮やかで多種多様に並ぶパワーストーンだ。そこには数珠のような輪っかのアクセサリーが飾られていた。中でも特に私は翡翠石に釘づけとなっていた。吸い込まれそうなほど、透明感があって綺麗だ。キールの瞳の色と同じ! 興味が引かないわけない。

「欲しいのか、それ」

 隣にいるキールから声を掛けられた。あんまりにも私が魅入っているものだから、キールに気付かれたようだ。

「キールと同じ瞳の色してるじゃん。気になっちゃってさ」
「そうか。翡翠石は確か“聖なる石として崇められ、人生の成功と繁栄を守護するそうだ。 災いや不運、呪いから身を守り、持ち主の身の安全を守る”と聞いている」
「へー、凄く良い意味をもっているんだね。言われてみれば、キールの人生って成功の賜物だよね」
「そうだな」

 フーン、翡翠石ってそんな意味があったんだ。聞いたら余計に欲しくなっちゃったな。持っているだけでキールに守られている気分になるよね! きゃ❤

「これ買ってもいい?」
「いいけど」
「わーい。せっかくだから、これブレスレットにしてもらおうかな? そしたらこの石も追加しようっと。私の瞳の色と似ている石」
「その石はスモーキークォーツだな。それは精神的に不安定な状態を安定させる効果がある。マイナス思考に対して強力な防御を働き、負のエネルギーを陽に変える効果があるらしい。まさにオマエにピッタリの石だな。千景は究極のポジティブ思考だもんな」
「ムゥー、褒められている感がないぞ」
「そんな事はないって。スモーキークォーツはリラックス効果も強い。混乱した情緒を安定させ、希望を与え安らぎをもたらす。オレはオマエといて安心感があるからな」
「いやん❤」

 急にクサイセリフ飛ばしてきたらハズイじゃん!

「じゃぁ、翡翠石とスモーキークォーツにしようっと」

 キールの瞳と同じ翡翠石と私の栗色の瞳に近いスモーキークォーツの石を組み合わせたブレスレットだ。グへへ❤ 堪りませぬな!

「あ、せっかくだからキールも同じの付けようよ! お揃いペアーにしよう」
「え?」
「嫌?」
「そんな事はない」
「じゃぁ、一緒の作ってもらおう!」

 という事で数十分後、私とキールの左の腕にはお揃いのブレスレッドが付けられたわけさ! これでお互いに離れている時も近くにいるような気分になるだろうし、そう考えると興奮が止まらないな!

 世界でたった一つだけってところも乙女心をくすぐるんだよね♪陽射しに当てると、キラキラと光る石の姿がめっちゃ綺麗~! 超お気に入りになったな! 宝石にはさほど興味のない私だけど、これは特別に心も目も奪われる。

 それに街を回っている時に、キールと色々な話が出来るのも嬉しい。普段、ここまでのんびりと話しは出来ないもんね。そして、この後も時間の許す限り、私達は街の散策を続けたのだった……。

☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆

 さて今日はマルーン大国から少し離れた街でお泊り。明日の夜にはマルーン国へ入国となるけれど、何気に遠いんだよね。各国へ行くには丸3日間はかかる。それでもキールと一緒にいられるなら、全っ然いいんだけどね。

 今日も街一番の豪華絢爛なお宿にお泊りだ。そこで天にも昇るような超美味なヨーロピアン風ディナーを食べ終えた後(ムール貝やロブスターようなお料理は絶品だった)、私とキールは部屋へと入った。

 ――これからお風呂~♪

 昨日のバスルームも浴場ですか!? というぐらい広々としていたんだよね。今日はどんなかな~♪ お風呂好きの私には堪らない期待だった。用意されたお部屋も広くて豪華すぎ~。これって私の世界でいうスイートルームだよね!

 清楚な真っ白の色調に統一された内装はシックなのにラグジュアリー。調度品はきめ細やかな造りの貴金属が施され、エレガントで豪華だ。そしてキングベッドが一つ……いやん、今日も熱い夜になってしまうがな❤

「キール、私先に湯浴みに浸かって来ても「千景……」」

 ――ほぇ?

 みなまで言わない内に、キールから名を呼ばれて面食らってしまう。振り返ってキールを目にすると、彼の表情が少しばかりシリアスに見えた。なんだなんだ?

「なに?」
「湯浴みの前に一緒に来て欲しい場所があるんだ」
「え? 今から?」
「そう今から」

 ――もう夜なのに? 一体、何処に連れて行こうとしているんだ?





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