番外編⑬「初めての遠出にウハウハです!」




「千景、忘れ物ない?」
「ないない!」
「途中で迷子にならないようにね」
「私はこれでも大人の女性ですから、ご安心を!」
「年齢ではそうかもしれないけど、仕事で他国なんて初めてだし、はぐれないようにするのよ?」
「はーい!」

 ――って、シャルトはあっしの母親かい?

 というぐらい私に忠告を落とした。さてお気付きでしょうか?……そうです! 私は今日他国へとお出掛けをするんです! とはいっても、旅行なんていう素晴らしい気分で行けるのではなく、あくまでもキールの仕事がてらなんだけどね!

 それでもこの世界に来てから、はや一年。キールと一緒に外出なんてした事なんてなかったから、本当に嬉しくて嬉しくて!そしてこの外出は急遽決まった事だったんだよね。一昨日の朝の時点までは、そんな事になるなんて思いも寄らなかった。

「え~またキール出張なのぉ~?最近多いよぉ~」

 シャルトとの勉強会の途中で、キールの仕事の話になったんだけど、そしたらなんと急遽キールに出張が入ったらしく。

「ブーくれないでよ。入っちゃったもんは入っちゃったんだから」
「フンだっ」

 プイッと私はシャルトから顔を逸らした。私がこうなるのも無理ないんだから。だって他国との戦が終わり、半年以上もかかってやっと落ち着いてきて、これでキールとラブラブな生活が送れると、ウハウハしていたところだったのにさ!

 それなのに最近になって、またキールは他国への出張が多くなっているではないか! 何処まで私とキールの愛の時間を邪魔すれば気が済むのだ、フンフンッ。

 キールの顔が見られない日は涙を流さない日は一日だってないってぐらい私は淋しがり屋なのだ。キールは宮殿から離れている時は、その日数分だけ私宛ての手紙を書いてシャルトへ託してくれている。それがせめての救いとなっているけれど、やっぱり生のキールがいいよ。

「私だって憂鬱なのよ。だってアンタのキール宛ての手紙をまた文章にするの面倒だし、なによりアンタの言葉を聞くのが嫌っ」
「フンッ! こっちだって言わなきゃならないの嫌なんだからね!」
「じゃぁ、書かなきゃいいじゃない?」
「そうはいかないもん。キールが淋しい思いするじゃん!」
「淋しかないわよ。アンタ手作りの人形もあるし」
「それと手紙は別ですぅー! 文句言わないで、次の出張の時もちゃんと文章にしてもらいますからね!」
「超苦痛~」

 そう言ったシャルトは深い溜め息を吐いた。超失礼しちゃう! 今の会話の内容だけど、手紙を用意してくれるのはキールだけじゃなくて、私も書いているのだ。でもまだ私はこっちの文字を覚えていないから、代わりにシャルトに文章してもらっている。

 それをシャルトは大層嫌がっているのだ。私自身は気付いていないけど、毎度「淋しい」と「愛している」を連呼した言葉のようで、シャルトはウンザリとしているらしい。こっちだって言うの恥ずかしいけど、我慢しているんだからね!

 それとキールが十八歳の誕生日の時、私はプレゼントに手作りの人形を渡したのだ。私の姿をした人形なんだけど、それはキールが出張とかで、私と離れている間、淋しくないようにって作ったんだよね! 我ながら力作なのだ! へへっ!

「たまには私もキールと一緒に出張に行きたいな」
「それは駄目よ。婚約者聳フィアンセを連れて行くなんて、公私混合だってキールに悪評がつくわよ」
「フンだっ」

 ――その日の夜。

「千景……」

 仕事から部屋に戻って来たキールは早々私に話しかけて来た。

「お帰り! なに?」
「うん、実は明後日から急遽出張が入ったんだ」

 知っていますとも! 今日の朝にはもうシャルトから聞いた話ですからね! しかも十日間って長過ぎるっての! フーンだ!

「シャルトから聞いたよ」
「そうか。それで今回なんだけど」
「なに?」

 なんだなんだ?妙にキールが畏まっているように見えるぞ?なにかヤバイ事でも言おうとしてないよね?妙な気持ちになって、私の心臓はバクバクしてきた。

「オマエも一緒に連れて行こうかと思っているんだ」
「ほぇ?い、今なんと!?」

 キールから予想もしない言葉が飛んできたぞ。

「え?いいの?いつもは仕事だから一緒には連れて行けないって言ってたじゃん?」

 どういう風の吹き回しだ?

「そうなんだけど、今回は特別に。千景がこっちの世界に来て、もう少しで丸一年になるだろ?その間に遠出なんてした事がなかったし、そろそろ外の世界も知っていかなきゃならないと思ってさ」
「そうなんだ! わーい、キールと一緒にお出掛けだ!」

 私は飛んで跳ねて喜んだ。そうなのだ、私がこちらの世界に来て、もう一年も経つんだけど、今まで一度だってキールと外出した事がなかったのだ。やっとやっとおデートが出来るのか!

「んな大げさな」
「大げさだよ! だって一緒に外出なんてなかったんだからね!」
「まぁ、確かにそうだな」

 その日の夜はあまりにも興奮し過ぎて眠れないぐらいだった。で、外出する当日。シャルトに正門まで見送られていたところだったわけさ。他国の大臣や役人にも会うわけだし、よそ行き用のドレスを着て、お泊りセットも用意万端、いつでも出発してもよろしくてよ!

「千景、こっちだよ」

 ヒョッコリと現れたアイリに招かれる。彼も今日は少しばかり正装をしているな。彼はどんな服を着てもキラキラしているのは変わらんが。そして他国へはスルンバ車を利用して行く。という事で私の後ろにはスルンバ車が何台も立っていた。

「じゃぁ、気を付けて行くのよ?」
「わかった。じゃぁね~」

 シャルトに応えた私は手を振って別れを告げ、スルンバ車へと入って行った。





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