番外編⑫「濃蜜の先にある温かな想い」
「なぁ、千景……」
「あん、はぁん、あんっ?」
秘所の翻弄が続いている最中、キールから話しかけられる。
「あっちのソファに移動しよう」
「あん、な……んで?」
「いいから」
半ば強引にとキールは指を離し、私を指定していたソファへと連れて行く。急に快楽が沈んでしまい、私はもどかしさと躯の疼きに不満を覚える。ソファの前まで来ると、キールはすぐに腰をかけた。
う、後ろからなんて出来ない……よ? 私が立ち尽くしていると、キールから腕を引っ張られ、後ろから抱きすくめられる体制になった。私は恥ずかしさのあまり顔を伏せていると、
「なぁ、千景。そこの壁がなにになっているかわかる?」
「え?」
キールから問いかけられた。
「鏡?」
指紋の一つもない完璧に手入れが行き届いた鏡だ。それは数メートルにも及ぶ壁一面に嵌め込まれている。私の世界で言うならば、ヴェルサイユ宮殿の鏡の間のような造りだ。
「そう、一式鏡になっている」
なにが言いたいんだろ? 私にもはキールの言いたい事がわからず、彼がとても艶っぽく微笑んでいるのが気になった。
「寝室にはあんな鏡の壁はないし、せっかくだからさ、普段見られない姿を見せながら挿れてやるよ」
「え? え? やぁあん!」
後ろから腕を伸ばされてスカートをたくし上げられる。キールの両足を跨ぐように大きく脚を広げられるから、秘所が丸見えとなって、さらに無理やり腰を落とされそうになる。
「やぁあん、こんなん恥ずかしいからやめてー!」
「後ろからがいいって言ったのはオマエだろ? ほらっ、ぶち込んでやるから腰を落とせよ」
「やぁああん」
当然力ではキールに敵わず、下へと引っ張られる。
「ふぁああん」
猛々しい雄が私の秘所の中を押し上げてきた。
「今日も貪欲に呑み込んだな」
「あんっ、あんっ、あぁぁん」
躯が律動的に跳ね上がり、ゾクゾクッと込み上げる快感に躯全体が震え上がる。私は俯きながら必死で止めにかかる。
「やぁあん! らめー!」
そこにキールからクイッて顎を上げられる。
「ほら、ちゃんと目の前の鏡を見てろよ。自分の快感に溺れている姿が見えるだろ?」
「やぁあん、そん……なん……無理だよぉー」
「見ろって。オマエ、興奮すると感度も上がるだろ?」
「やぁあん! や……だって……ばぁ」
「ちゃんと見ろって。もっと感じさせてやるから」
「あんっ」
そう耳元で甘く囁く声は脳の中まで蕩かされそうな熱を持っていた。私は抗う気持ちとは裏腹に視線を前へと移す。映し出された自分の姿はなんとも言えない厭らしいものだった。
大事な部分を丸見えにして、そこにキールの熱塊が何度も何度も突き上げられて、乱れ狂う自分の姿があった。そんな姿を数秒見ただけで、頭がどうにかなってしまいそうなほど恥ずかしい!
「あんっ、あぁあんっ、はぁあん、ぁああん!」
「すげー厭らしい顔してんの、丸わかりじゃん?」
「やぁあん!」
「いつもああいう顔して人の事、誘ってんだよな?」
「や……めてって……ばっ」
後ろからキールは低く甘い声で、私の羞恥を煽り出した。恥ずかしさで目を離したいのに、突き上げられる度に興奮を覚え、気が付いた時には行為の様子に釘づけとなっていた。
「やっぱ締まり良くなってるな。すげー気持ちいい」
「やぁんっ!」
息を乱したキールの吐息が肌にかかるだけで、快感が広がって躯が震い出す。それから押さえられていたキールの腕が私の腕から離れると、
「ふぁああん」
第二の襲撃が始まった。キールの手の一方が秘所の花芯に、もう一方は胸の突起へと回り、嬲り始めた。そして後ろから包み込まれるように密着されると、耳の甘噛みまでされる。性感帯すべてを網羅され、私は快感の極限へと陥っていた。
「はぁあん、やん、ふぁあん、あぁあん!」
「こっちはコリコリに硬くなってんな? こっちは? 元の形がわからなくなるぐらい、開ききってグショグショだ。ほらっしっかり見ろって。こんな全体的に厭らしい姿なんて見られないだろ?」
「やぁああんっ」
言葉責めがエスカレートして、回廊中に私の喘ぎ声が響く。それだけじゃない。二人の情液が混ざり合う卑猥な水音までもが響き、それは結合部から取り止めなく滴れていた。すべての行為が鏡によって丸見えなのだ。私は今までとは異なる高揚感と快楽に溺れていた。
「はぁはぁはぁっ」
「あぁぁん、いやぁぁ、あん、あん、あん、あぁぁん!」
足の爪先から脳の髄まで快楽に支配された私はビリビリッと痙攣が起こった。それと同時にキールの熱塊が大きく膨張して激しく蠢いたその直後、
「うっ」
「ふあぁああん」
私の中の奥で熱い飛沫が盛大に弾けた。今まで以上の量の多さを感じ取る。私だけじゃなくてキールも相当興奮していたのかもしれない。
「「はぁぁはぁはぁはぁはぁ」」
閑散とした回廊に私達の荒々しい息が響く。まだキールの熱塊とは繋がったままであった。
「はぁはぁ……千景、オマエのそこ、まだヒクついてんじゃん? 足りないのか?」
「やぁん! なに言って……ふぁあん!」
キールは繋がったままの体勢で立ち上がろうとした。おのずと私の躯も上げられ、不恰好な体勢になってしまう。
「千景、その鏡の前まで行って手ついてよ?」
「え? な、なんで?」
「もう一度イカせてやるって」
「やぁあん! もうらめだってー」
キールはお構いなしのようで、私を無理に鏡の前まで押し出し、手をつかせてお尻を突き出させた。
「あぁあん! らめらのぉ……誰かに見られるよぉー」
「一層見せてやればいいさ。愛し合っていると言えばいい」
「やぁあん」
キールは覆い被るような体勢をとり、再び私の耳元で羞恥を扇いだ。そして後ろから熱塊を打ち突ける。
「やぁん、はぁん、んぁぁん、あんあんあぁぁんっ」
グヂュグヂュッパンパンッと卑猥な音が鳴り始める。耳を塞ぎたいのに、打ち突ける速さに躯が押され、鏡に手を押さえていないと体勢を保つ事が出来い。
「あんっ、はぁん! やぁぁん! あんあんあんっ」
ガクガクッと躯をすさぶられ続け、とことん容赦ない。
「はぁはぁっ。オマエ、何処までも誘う気だ?」
「あぁあん?」
「最奥まで誘うかのように腰をくねらせるな。はぁっ、締め付けが半端ない」
無意識なんだって。こんなに激しく打ち突けられているのに、さらに誘う余裕なんてないよ! キールだってわかっているのに、彼はいつでも余裕で私を煽らせようとするんだ。
「千景、こっちに顔を向かせて?」
「あぁあん、はん、やぁあん?」
要求を出された後、打ち突く速度が落とされた。私は要望に応えようと必死にキールの方へと顔を向ける。
「その顔ヤバイな。瞳を潤ませて煽ってんのか? ったく下の口といい、わざとやっているとしか思えないな」
「やぁあん……んんぅ」
キールは視線を私と合わせようと体勢を低めた。近づく彼の顔に自然と私達は口づけに入る。体勢は苦しかったけれど、後ろから責められながらのキスは最高に気持ち良い。
「んっ、んんぅっ、んぁっ」
お互い貪るように舌を絡め合う。舌の交ざり、吸い付いた時のなんとも言えない水音に気持ちを高ぶられる。もう誰かが来たらなんて心配する余裕もなくなり、蕩けるような口づけに没頭し続けた。
そして再びキールの熱塊が膨張するのを感じると、彼は私から唇を離した。達する寸前なのだろう。そこにキールは腕を伸ばしてきて、私の両突起に刺激を与える。それによって私はもう一度痙攣が起き始めた。
「あぁぁん、あんあん! もう……らめっ、イクよぉお!」
「はぁはぁはぁはぁ……くっ」
眼裏に閃光が放ち、熱い飛沫が中いっぱいに放散された瞬間、私の頭の中が真っ白に弾けた。キールとお互いに頂点へと達したのだった……。
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今日のディナーはキール、アイリ、シャルトと私の四人の食事会。豪華な長テーブルの上には今日もフルコースが並んでいる。お料理を見て匂いをかいだだけで、お腹がグゥ~となっちゃって。そしたらシャルトからはしたないって注意されたよ。
フンッ、生理現象はどうする事も出来ませんから! 今日のメインは温野菜がたっぷりの煮込みハンバーグだ。極上のお肉とチナールさんの愛情たっぷりのお野菜を使用した絶品のこのお料理は私の大好物なのだ。
しかしだな、この煮込みの中にはキールの苦手なトルーニャが入っちょるんだなー。シェフに申し訳ないと思って、一緒の食事する時には極力私が代わりに食べてあげているんだけど。隣で食べているキールのお料理をチラッと覗いて見ると……。
「あ!」
思わず声を上げてしまった。私の短い叫び声にキールは何事かと目を向けてきた。
「なんだ?」
「あ、うん。キールってトルーニャ食べられなかったよね? 今、口にした?」
「え?」
キールは瞠目する。でも私の方が驚いていた。だってキールは口にするどころか、目に入れるのも嫌だと言っていたほど、苦手だったトルーニャを躊躇いもなく食べたんだもん! なんの心の変化だろう?
「確かにトルーニャは苦手だったが、数年前から食べられるようになっていたぞ」
「はい?」
なんだなんだ、どういうこっちゃ? 数年前って言うけど、私はこれまでキールが口にしたところ一度も目にしてませんけど?
「キールはトルーニャ食べてるよ? 二年前ぐらいからだよね? 苦手だったのを克服して食べられるようになったんだよね」
――はい?
私達の話を聞いていたのか、アイリが補足説明をしてきたぞ。
「そういえば食べるきっかけになったのって、二年前にこの宮殿に現れた“チムリン”ってコだったっけね?」
――え?
アイリの言葉に度肝を抜かされる。“チムリン”って、もしかしてですね、変装した私“チムタン”の事じゃないよね! 一文字違うし、ち、違う人だよね!
「違うわよ。確か”チムタム”っていう名前だったわ」
――それも違うって!
シャルトもなに自信満々に間違えてんねん! なんで二人して器用に一文字だけ間違えるんだ!
「“チムタン”だろ?」
――ひょえ!
正解がキールの口から飛び出したぞ! 私は心臓が飛び出しそうなぐらいビックラしてしまう。やっぱ私が変装した“チムタン”の事を言ってるいるんだ! なんでなんで!? だってあれは夢だった筈じゃ?
そうなのだ。あの激音痴な「犬のおまわりさん」が頭の中で聴こえて、過去にタイムスリップしたと思われたあの日、無事に戻って来れた後、特にキール達からなにも変化が見られなくって、結局夢だったんじゃないかと思っていたんだよね。
が、まさかキール達から「チムタン」の名が出てしまったという事はあれは夢ではなかったという事になる! オーマイガッ! キール達、あれが私だと気付いてないよね? 現実が変わったりしないよね!
ヒヤヒヤ、バクバク、グルグルと私は無駄に冷や汗を出して、とんでもなく動揺していたところにだ。さらなる追い打ちをシャルトから落とされ、心臓がまたしても飛び出しそうになる。
「そういえば、なんで千景はキールがトルーニャ食べられなかった事を知っていたの?」
――ひぃい!
「そ、そんな気がしてたの! 勘違いしてたみたい」
「他の男と勘違いしてたわけじゃないよね?」
からかうつもりでアイリが突っ込んできたぞ! そんな事あるかい!
「そうよね。キールのトルーニャの事はアイリと私とルイジアナ、あとは……王妃様の四人だけしか知らない事だもんね」
――ほぇ?
疑われずに済んでホッとしたのも束の間、シャルトから意外な言葉を聞かされた。“王妃様”って、キールのお母さんだよね?
「やっぱさー、あのチムタンってコは王妃様だったのかねー?」
――はい!?
アイリからとんでもない言葉が飛んできたぞ。
「王のキールがトルーニャを食べられないなんて、悲しかったかもしれないわね。でもねー、なんか王妃様にしては品がなかったのよねー、なにもあんな娘の姿で現れる事もなかったわよね」
ちょっ、あれはあっしですからね。ってシャルトに突っ込みそうになったけど、発言によって現実が変わられては堪ったもんではない。私は聞くに堪えぬ暴言を我慢する事にした。
でも二年前のキールと別れる間際だ。彼が少しばかり切なさそうにしていたのって、もしかして私をお母様だと思っていたからだったの? あの時、私の名前を訊こうとしていたし。急に私は胸がキューンと締め付けられる。
「とりあえずチムタンってコのおかげで、キールはトルーニャが食べられるようになったんだね!」
私はやたら明るい声を上げて、話を纏めようとした。
「食べられるようになれば……また逢えるかなって思ってさ」
「え?」
返ってきたキールの言葉に、私はまた胸が締め付けられた。彼の表情がとても切な気で、そうだ。その表情は二年前のキールと別れた時にも見た。キール、もしかしてまた王妃様に逢いたいって思って、頑張ってトルーニャを食べられるようにしたんじゃ?
悟った私も切ない思いが湧いてきて涙が出そうになった。キールってまだ十七歳だもんね。たまにご両親が恋しくなる事もあるのだろう。そんな彼の思いを汲み取った私は気が付いたら口を開いていた。
「あ、逢えるよ!」
「え?」
「逢いたいって思えば、逢えるんじゃないかな!」
なんせチムタンはあっしすからね。私はキールを元気づけようと明るく伝えた。
「そうだな。何故かオマエがそう言うと、本当にそうなる気がしてきたよ」
「へへっ!」
キールから笑顔が戻った。良かったぁ~! まぁ、今はチムタンの事は秘密だけど、いつかキールに話せる日が来るといいな。その後、私達はしんみりとした空気はなく、美味しいお料理を楽しみながら、温かい時間を過ごしたのでありました!