第九十六話「契りの唱え」
――い、いよいよきたぁああ――――!!
私の心臓はドンドンドンドンッと連続して打つ大太鼓のように爆音を上げて、全身に打ち響く。私を見下ろすキールと視線を重ねれば、彼の翡翠色の瞳は真剣そのもので、今回の契りが本気だという事を物語っていた。
キールのほど良くついた筋肉としなやかなラインの体躯、毎夜見ていたけど、久しぶりだからかな? こう改めて見ると、そそられまっせ~。しかもこの体勢って肉食獣に追い詰められた小動物みたいで、逃げられましぇーんだし、また一段とエキサイティングさせるな。
「う、うん、わかってるよ。……来て」
って、大人の女性らしく言ってみたものの、超恥ずかしいんすけどぉお! 私は顔を焼き上げられた熱々のタコウィンナーのように真っ赤にして、心の中で身悶えしていた。
――な、なんなんだ、この異様な恥ずかしさは!
まるで初めての時と同じぐらいドキドキする。部屋が明るいからかな? そ、そうだ、そうに違いない! キール以外の男性とはいつも室内を消灯して愛を深めていたもんね。
キールはすぐに私の脚を掴んで広げていく。心臓の爆音が聞こえちゃうよってなぐらい、私は躯に力が入ってしまう。そして……そしてぇ! キールの例の一物が私の秘所へと宛がわれる。
私は大層ご立派なモノをこれ以上は目にしていられなくて、瞼をきつく閉じる。しかし、ハッとある事に気付く。この明るさでは繋がっちゃう部分も丸見えになってしまうがな。
――ブハッ! さすがに刺激が強ししっ。せめて薄暗くしてもらわんと悶絶してしまう。
「ま、待って! あ、あのね、部屋が明るいから、く、暗くして欲しいの」
「え?」
緊張しているせいか声が上擦ってしまった。私の言葉にキールの動きが止まり、彼は面食らったように私を見返す。
「今更? 今までこの明るさだったじゃん?」
「そ、そうだけど、や、やっぱキールとは初めてだし、し、刺激が強い」
「オマエ、見ている方が興奮して気持ち良さそうじゃん?」
「は、恥ずかしい事をサラッと言わないでよ! お、乙女心わかってよね!」
指や舌とは違ってとんだ刺激物なんだからね、全く! なんか無駄に大きそうだしさ。
「わかったよ。契りを唱える際は光が眩しいしな」
「ほぇ?」
キールの言葉の意味がわからず、頭の中に「?」が浮かぶ頃にはフッと部屋の明かりが薄暗くなった。キールの右手が私の左手と重なり指が絡み合い、熱塊が秘所の表面に宛がわれているのを感じて、私はギュッと指を絡め返し、息を呑む。
――い、いよいよなんだ! や、やっとやっとやっと……!!
「ふあっ」
思ったよりも大きな重圧感に、思わず躯が跳ね上がりそうになった。私は絡めている指に力を込める。
「くっ……もっと……力……抜けって」
「そ、そんな事言われても!」
「力み過ぎて……抵抗してんだって」
そんなつもりはないんだけど、私は言われた通りに力を抜く。熱塊の先端が花びらを割ってグググッと奥へと入って来るのがわかった。
「ふあぁぁん」
「もっと……力抜けって」
もうこれ以上は無理って思ったけど、応えようと懸命に力を抜く。指なんかじゃ比べものにならないぐらい大きな熱塊が奥へ奥へと侵入してくる。
「……っ……んぅ!」
キールは気を遣ってゆっくりとした動作で、確実に奥へと沈めていく。圧迫感で息苦しさがあったけれど、一つになれるんだって思う感動の方が勝って、私はそのままグッと待ち続けた。
「……もう……少し」
キールの声に私は安堵感を抱く。
――あと少しでやっと一つになれる。
そしてググググッと一気に奥まで入ってきて……感極まる瞬間!
「聖なる守りの神よ」
「え?」
キールが言葉を発した。唱えているような不思議な言葉だ。
「幾年にも渡る眠りから目覚めよ。我は今時、禍と契りを交える。汝の力を我が身へと降臨願う」
――これって?
尚も続くキールの声。これって契約の言葉? そして突然に激流のような衝撃が躯へと打ち込まれる。まるで血が逆流するかのように躯の中が激しく波打たれた。私はわけがわからず、
――な、なにこれ!? く、苦しい!!
混乱状態へと陥り、躯をバタつかせ声を叫び上げようとするけれど叶わず、さらに打ち付けられる苦痛が襲う。そこに目の前で得体の知れない閃光がバチバチッと放ち、その刹那……、強烈な光が私の視界全体を覆い広がった。
「ひゃぁ!」
――な、なにこの光!?
私は光の眩さに堪え切れず、腕を目に当て光を遮る。それでも失明させられるんじゃないかと思うぐらい、光は放ち続けていた。
「うわぁぁ」
…………………………。
気が付くと……光は徐々に薄れていった。
――あんれ?
躯がフワフワと浮いている感覚が心地良かった。例えて言うのなら、水の上に仰向けになって眠っているような感じだった。でも辺りはなぁーんにもない! この世界に初めて来た時の無の空間にいるようだった。
――どうして、私ここに? キールと契りを交わそうとしていたのに……彼は何処なの?
『……聖なる力にて禍を救いの女神に替え、我の願いを聞き入れよ』
――ん? キールの声が聞こえる。
頭の中に直接聞こえてくる。私はキョロキョロとキールの姿を探すけれど、キールどころか人も物もなにもない。さっきの言葉は……?
――救いの女神? 私やっと禍の力を無くせるの?
『我が願い、永遠にすべての界が、民が、至福へと導かれん事を願う。我が願いを受け入れよ』
願いが唱えられる。至福の国と称されたバーントシェンナの王らしい願いだと感嘆する。今はマルーン国もヒヤシンス国の王でもあるキールはバーントシェンナ国だけでなく、すべての界の幸福を願っているんだ。これで私の禍としての力も封印される?
『その願い、受け入れよう』
キールとは別の朗らかな声が下りて響いた。この声は例の「神様」なのだろうか? 願いを受け入れてもらえた? 幸福への願いと禍の力の消失と、すべてを上手く運べたんだ! そして幸福感に溢れた時だった。またしても眩い光が私の躯を包み込む。
「うわっ、だから眩しいって」
瞬く間に私の意識が遠のいていった……。
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「あれ?」
薄らと光が見え始めた。霞んでいた光が澄んだ視界へと変わっていく。明確になった頃、私はハッと我に返る。弾力のある固いなにかに包み込まれていて、それがキールの胸の中だと気付いた。
自分の顔のすぐ隣には宝石のようにキラキラとした顔のキールが気持ち良さそうに眠っていた。確か……私達やっと一つになれて? そうやっと一つになれたんだ! その後にキールは契りの唱えを交わして、神様に願いを聞き入れてもらえて?
私は記憶を思い出して歓喜に打ち震えた……が、ちょ、ちょっと待って! その後が肝心だよね。一つになった私達は? 愛を躯で感じ合っ…………た記憶がないんですけどぉおお!!
ま、まさかもう終了したんとちゃうか? そんな感じですよね? あっしは全く記憶がないっすよ! 激し過ぎて記憶がぶっ飛んだのか! オーマイガッ! 神よ、記憶をお返し下さい! 私は相当なショックを受けて、あたふたともがいていた。
「んぁっ」
ビックリした! だっていきなり下肢からビリビリッと、とんでもない快感に襲われたからだ!
「!?」
思わず下に目を向けてみると……一瞬にして硬直した。
――こ、これって? もしや!?