第九十三話「まさかの心変わり?」
私は瞳をキラキラのお星様のように煌かせて、キールの前まで駆け寄る。
「千景……」
キールはもう一度私の名前を呼ぶと、満面の笑顔で迎えてくれて、私の胸はキューンとなって張り裂けそうになった。キールを目の前にすると、彼の腕を掴んで見上げる。
「今日戻るなんて聞いてなかったよ」
「急遽こっちに戻る事になって、さっき帰って来たばっかなんだ。報告が間に合わなくて悪かったよ」
「そっか」
「元気にしてたか?」
優しく私の髪を撫でながら問うキールに、嬉しくて涙が出そうになる。
「キールがいなくて淋しかったよ」
「悪かったよ。なにも好き好んで戻って来なかったわけじゃないんだ。処弁する法が多過ぎて自由な時間をもてなかった」
「わかってるよ」
私はさっきまでのキールが他の女性で満たしていたのではないかという興奮はさっぱりと忘れ、キールの言葉を素直に聞き入れた。
「ヒヤシンス国との事柄から、もう三月経っているんだよな。オレには三日間ぐらいしか経っていないように思える。それぐらいあっという間だったな」
な、なんだと! あっしは三憶万年ぐらいの長さに感じていたんですけどぉ! おかげでエッチな夢を見ちゃったんだからね! キールは私に逢えなくて悲しんでいたようには見えんかった。フンフン。
「どうした、千景?」
いきなり私の顔がブーくれ、キールが怪訝そうに首を傾げる。
「なんでもないよ。それよりも今日はここで寝ていくんだよね?」
「あぁ」
「そ、そっか」
キールの答えで私はブーくれをしぼませた。だってだってだって、い、いよいよ今日契り交わす夜になるって事じゃん! 私は無駄に興奮し、シュボボボ~と顔を真っ赤にする。そんな気持ちを悟られまいと、キールに背を向けてモジモジとしおらしい態度で言う。
「ゆ、湯浴みに入ってきたら? 疲れているだろうし、ゆっくりと入ってきなよ」
おおっと促しているみたいで期待してんのか? って思われたかな?
「そうだな。入って来るよ」
声からして特に気にする様子を見せないキールは素直に浴室へと向かって行った。そして私は…………うわぁぁぁ~、ど、どうしよう。まさかキールが戻って来るとは思わなかったから、晩御飯もたらふく食べてしまっていて、お腹のポッコリが恥ずかしいな!
「肉付き良くなって触ると気持ち良いな」とか言われたりして! いやぁ~ん❤ ハッ! もしかして今朝、見た夢はまさに正夢に! オーノォォォ―――!! と、またしても私は無駄に興奮してしまい、ベッドにジャンピングして入った!
「我慢出来ないんだ!」って言われたら「来て❤」とカモ~ン! ビバ! ウェルカム! と、オープンにしておかないとな! ぐへへ❤ 私は枕を熱く抱き締め、ムフムフニヤニヤとし、キールが上がって来るのを待った。
――数十分後。
キールが浴室から上がってきた。
――来たぁあ!!
私はドッキンドッキンと心臓を躍らせていたけれど、エキサイティングな心が表へ現れないように抑えていた。キールの湯上りの寝衣姿は妙に萌えだ❤ ティーンのくせに、変にフェロモンムンムンで色気づいていて、しかも良い匂いを漂わせている。
――アロマオイルみたいで、近くでかぐと媚薬みたいでヤッバイんだよな。
キールは上がってすぐに髪の乾かしに入った(髪用の乾燥機があるのだ)。その間、私の心臓はどんどこ切迫していって、呼吸困難になりかけた。こ、興奮し過ぎだぁ! 鎮まるだ、我が心臓よ! 私は必死に心臓を宥めていた。
しかし、頭の中ではとても口には出来ないような映像が繰り返し流れ、宥める事は出来兼ねていた! うぅ~、女性の私がこうならキールの頭の中では……?
――いやぁ~ん! エッチィ❤ 暴走し過ぎだって!
完全にハイテンションになっていた私は、キールがいつの間にかベッドへと入っていた事に気付いていなかった。
―――ヤダ!! キール、いつの間に?
興奮していた割にはキールが近くに来ると、私はモジモジとしおらしくなってしまう。き、緊張してきたな。そして……。
「…千景」
「!」
キールから熱っぽい声で名前を呼ばれる! も、もしかして「我慢出来ない!」か! 私は覚悟を決めてキールの言葉を待った。
――ドキドキドキドキドキドキドキ。
「明日は早い。もう寝よう」
――へ?
私は目が点の点となり、一瞬で躯が硬直した。
「どうした、千景?」
どうしたじゃないぞ、契りはどうするんだ! 白々しくもったいぶっているのか! それとも焦らし効果か!? 私はキールの言葉に答えず、不満を顔に表していた。
「千景?」
「キールは私に逢えない間、淋しいって思ってくれてなかったんだね?」
「は?」
私の言葉にキールは面食らった表情を見せる。わけがわからんといった表情をされて、私の不満は高まった。こんなに久しぶりの再会で愛を確かめ合わないなんて、気持ちがないとしか言いようがない。
「他の女性で満たしていたから?」
「なんだよ、それ?」
キールの表情が険しくなる。反応からして今の言葉は心外だったんだろう。確かに真面目に働いていたのなら、今の私の疑いの言葉に対して頭にきて当然だ。でも私は不安が爆発して、感情を抑える事が出来なかった。
「だって三ヵ月ぶりの再会じゃん! 三ヵ月も待ったんだよ! キールにとって三日間ぐらいの短さだったかもしれないけど、私には三億年ぐらいの長さに感じていたんだ! 淋しい思いをしながら、ずっとずっと待っていて、やっと逢えたと思ったのに、すぐ寝ちゃうなんて酷いよ! 私は契りを交わすのかなって、ずっとドキドキしていたのに! 本当は私の事なんてどうでもよくなったんでしょ!? それとも他に気になる女性でも出来たの!?」
あまりに気持ちが高ぶって、涙が溢れて出てきた。
「んんぅ!」
いきなりキールから唇を塞がれる。唇で深く口づけられて顔に熱が集中する。私が怒ったから仕方なくチューしたの? それとも黙らせたいから? 愛されているからという考えに自信がもてず、私は困惑していた。そこにキールの舌が私の口内へと入ってきて舌を吸われる。
「ふぁっ」
ビクンと躯が反応する。舌はネットリと濃厚に絡んできた。いきなり激しい舌の動きに、心臓がバックンバックンと速まるけど、懐かしい舌の感触に私も夢中で応えた。頭がフワフワと熱に浮かされて気持ち良い。
「……ん、んんぅ」
キールの舌は私の口内を余すところなく蠢いていた。少し息苦しかったけど、求められているようで嬉しかった。だって本当は毎日この舌で感じていたいんだもん。唇を離されると、恍惚を帯びた瞳でキールを見上げた。