第八十六話「ビア王の目的」




 ビア王と一緒に部屋を出ると、回廊へと出た。

 ――うわっ。

 私は度胆を抜かされ、口がポカンとなってしまった。さっきの部屋以上に、中国漢代磚の模様が広がっていて、天井・壁・支柱どこもが漆塗りとなっている。何重にも塗られ、手が施されているな。それに所々並んでいる銅像が神々しい。お祈りしたら御利益がありそうだ。

 ――この煌びやかさ、まさに東洋の宮殿だよね。

 バーントシェンナ国はアラビアン風、マルーン国は中世ヨーロッパ、ヒヤシンス国は古代チャイナと、なんだか面白い文化の違いだな。そんな呑気な事を思っていられたのはほんの数秒だけで、私は目の前を歩く王の背中を注視しながら、後へと続いた。

 ――一体、私を何処に連れて行くのかな? ま、まさか王の寝室で契りを!

 余計な考えを起こして心拍数を上げてしまう。いや、契りならさっきの部屋でもやろうと思えば出来たし、わざわざ移動してまでしな……い……よね? でもしきたりとかいって、特別な部屋でやるとか言わんよね?

 どんどん不安に打たれていく。第一この王は正真正銘の既婚者だ。可愛いお妃様がいるのに、他の女性と契りを交わすなんて、私が奥さんなら絶対に許さないぞ! ただな、契りなら仕方ないと思ったりなんかしないよね?

 私はこの王とは死んでも交わしたくない! キールは生きていると信じているけど、この王がマキシムズ王を手掛けた事に違いはないのだ。こんな危険な人と交わるなんて死んだ方がマシだ。

 余計なお世話かもだけど、こんななにを考えているのかわらない、心は悪魔のような人の何処に魅かれてルイジアナちゃんは嫁いで来たんだ。キールの方がよっぽど良い男だぞ。

 ……いや待てよ。も、もしかしてだけど、この王に、お、脅されていたんじゃ! あ、有り得るぞ! 悪質な人だもん。な、なんてヤツだ! マキシムズ王もとんだ悪党だったけど、この王までも!

 キール達が断固して、私を宮殿の外に出したがらなかったのも、今ならわかるよ。こんな危険な人達から、私を守ってくれていたんだよね。私はキール達の事を思い出すと、恋しさで胸がいっぱいになる。

 ――キールやアイリッシュさん、シャルト、皆に逢いたいよ。皆無事なんだよね?

 気は沈んでいく一方だが、私はひたすら王の後へと続いていった。

☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆

 ここもバーントシェンナ国やマルーン国並みにバカ広い宮殿だよ。王の後に続き、十五分ほど歩いて、ようやく目的の部屋へとやって来たようだ。かなり階段を下りて来たから、ここは地下の何処かだろうか?

 ――?

 辺りを見渡すと、さっきまでの古代チャイナ風の造りはなく、コンクリート状の大広間ホールといった空間だ。薄暗く青白い明かりが広がっている。この部屋に私を連れて来て、なにをさせるつもりなんだろう?

 どうやら心配していた契りを交わす様子がなく、私は安堵感を抱いた。そのまま王の後に続くと、これまた古代チャイナデザインの祭壇らしきものが見えてきた。金属や宝石が埋め込まれた絢爛なデザインのものだ。

 大広間には支柱の一つもなく、この祭壇だけが置かれていた。不思議な事にこの祭壇は天井から光が灯され輝いていた。妙なぐらい存在感のある祭壇だ。その前にまで来て、ようやく王は足を止めた。

 そして軽やかに身を翻し、私へと視線を向ける。視線が交じると、私の緊張感は高まり、耳の奥で脈打つ心臓の音が響いた。王は相変わらず無機質な顔であり、その無言の威圧感にこっちは身が縮まりそうになる。

「ここは?」

 私は恐怖心を少しでも紛らわす為に、自ら口を開いた。

「ここは王しか知らぬ“禁秘の間”だ」
「禁秘の間?」

 そんな大それたシークレットな部屋に、なんで私なんかを連れて来るのさ? ……ま、まさかまさかまさかこの祭壇の上で契りを交わそうなんぞ思っちゃいねー!? 私は即座にムンクの叫びの表情へと変わる!

 こんな硬そうでゴテゴテと装飾された祭壇の上で、エッチなんか出来るかぁ! つぅか、この王となんぞ交わってたまるか! 私は無意識の内に、後ずさりをしながら王を睨み上げる。

「こ、ここでなにをしようとしているのよ! ま、まさか契りを交わそうとしているんじゃないわよね!」

 私は酷く声音を震わせ問う。

「…………………………」

 王は口を閉じたまま、私を見つめている。こ、答えないって事はやっぱり契りを交わそうとしているのかも! 私は冷や汗を出しながら、さらに後退していく。すると王が私の方へと近づいて来たぞ!

「!?」

 ――やだやだやだやだぁ! た、助けてキール!!

 恐怖が喉に張り付いたようで、声が発せられなかった。そして私の前まで来た王はこう口を開いた。

「なにを言っている? 私は初めからオマエと交わるつもりなどない」
「え?」

 予想外の言葉に私は目を見張って王を注視する。

「じゃぁ、一体なにを?」
「私はオマエの本来もっている禍の力を利用する」
「え?」





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