第八十二話「王達の決戦」>




 急いで私はキールの姿を探す。無事かどうか今すぐに知りたい。きっと彼は今、あのマキシムズ王と闘っているに違いない。

「シャルト、キールを探そう!」

 私はシャルトに声をかける。この数千といる兵士達の中から、キールを見つけ出すのは至難の業だ。王だから一際華やかな鎧を着用している筈なのに、戦乱が激しく容易には見つけられなかった。

「王達はこの戦乱の中にはいないわよ。王と王の闘いは一騎討ちと決められているから、別の場所で闘っている筈。普段ならキールの気を感じるのに、この戦乱で気が乱れて探し出せないわ」

 この中にキールがいない事にホッとしたけれど、あのマキシムズ王とニ人で闘っているって。狡猾なマキシムズ王を相手だから、無性に心配で仕方がない。

 ――キール!

 私は神に祈るようにキールの名を呼んだ。

「!?」

 突然にガッと頭の中で閃光が迸り、私は目を見張る。やたら大きなテントが張られた場所から先に、一段と大きな気を感取した。それも凄絶なニつの気だ。間違いない! そこにキールとマキシムズ王が闘っている!

「シャルト、あのテントの先にキールとマキシムズ王がいる!」
「え?」

 私は目的の場所へと指を差し、シャルトに知らせる。彼は驚きの色を見せたが、すぐにキールの気を感じ取ったようだった。

「そうみたいね、行くわよ」
「うん」

 私とシャルトは急いで王達の元へと向かった。

 ――数分後。

 テントの先へと着いた私達は息を呑んだ。ニ人の勇士が目にも留まらぬ速さで闘っている。キールとマキシムズ王のニ人が剣を交え、時には術力で光を放ち、空中に煙や光の輪が波紋のように広がっていた。

 ニ人は地上だけではなく、空中にまで躯を上げ、まるで映画やアニメーションのような戦闘を繰り広げていた。私とシャルトはニ人に見つからないよう、テントに身を隠し、彼等の様子を見守っていた。

 私は躯全体が恐怖に支配されていた。剣が交わる度に心臓がバックンと飛び出しそうとなり、胸が張り裂けるのではないかと思った。それはシャルトも同じ気持ちだと思う。

 ――キール……。

 目尻に涙が溜まって視界が滲む。こんな危険な闘い、今すぐにでも止めさせて一緒に逃げたいよ。

 ――神様お願いです。キールを無事に私の元へ帰して下さい。

 激戦が繰り広げられる中、私はひたすら祈り続けた。そこにふと頭の中から話声が聞こえてきた。

「さすが以前にヒヤシンス国の兵士二百あまりを相手にしただけあり、一筋縄ではいかぬな、キール殿」

 ――こ、この声はマキシムズ王だ!

 私はキールとマキシムズ王のニ人を凝視する。

「…………………………」

 キールはマキシムズ王の言葉に応えずに彼を見据えていた。

「だが、勝利の栄光を飾るのはこの私だ」

 ――シャキ――――ン!!

 再び王達の剣が交わり、剣撃の音が辺り一面へと響き渡る。お互いの剣と剣を前に、押され押されずの一定の距離を保っていた。

「私はバーントシェンナ国の民の為にも、千景の為にも貴方には負けるわけにはいきません」

 キールは力強くマキシムズ王へ言い放った。

 ――キール……。

 私はその言葉を聞いて涙が溢れた。キールは本当にバーントシェンナを、私を愛して闘ってくれている。彼の強い想いに私は止めどもなく涙が溢れ出た。そんな私の様子に、シャルトはギュッと手を握ってくれていた。

 見ている限りキールが押されている様子はなかったけれど、力は互角で一向に展開が望めなかった。これはどちらかの力が尽きるまで続くだろう。目の前で愛する人が命を張って守ってくれているのに、私はただ見ている事しか出来ず悔しかった。

「キールを助けに行きたいよぉ」
「それは駄目よ! 王達の一騎打ちに他の人間が介入したら、その時点でその国は敗戦を迎えるの。辛いけれど、私達に出来る事はひたすら見守り続ける事しか出来ないわ」

 シャルトは辛辣な言葉で返した。シャルトが好きで掟を守っているわけではないのは知っているけれど、私はどうしてもキールの力になりたかった。その衝動を必死で抑え込み、ジッと見守っていた。

 闘いが始まって数時間が経っているのだろうけど、王達の動きは底知れぬ激しいままであった。お互い自分が負ければ、国や民までも失う事になる。引くわけにはいかないのだろう。

 次々に剣を交えては離れ、再び交わる。またどちらかが隙を見せれば、もう片方から術力が入る。時折攻撃が大きく、ニ人の様子を目に出来ないほど、激しい奮闘となっていた。大胆な動きを見せるマキシムズ王に対し、キールは軽やかに身を翻し交わす。

 時間が経てば経つほど、私は気が遠のいていきそうになっていた。とても心臓がもたない。それでも倒れている場合じゃなかった。今もなお激しい闘いが繰り広げられている中、再びマキシムズ王の声が聞こえてきた。

「いささか気の乱れが大きくなってきているようだね。疲れで集中力が低下しているのか、……それともアイリッシュ殿の生死が気掛かりなのかね?」

 一瞬、キールの動きが止まる。その隙にマキシムズ王の剣の勢いが圧し、さらにキールの腹部を一蹴して軽やかに宙で躯を翻した。

「ぐぁあっ」

 鋭い痛みが走ったキールは叫び声を上げたと同時に、その場から吹き飛ばされてしまう!

「キール!!」





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