第四十一話「LOVE DAY」




 ――ん? 後ろから誰かに呼ばれた?

 こんな街中で私を知る人って? 私は疑問に思いつつ、背後へと振り返ると……?

 ――ハッ!

 目ん玉が飛び出るとはこの事だ! 私は開いた口が塞がらずに、目の前の人物をガン見する。

 ――ま、まさかの、チナールさんだぁぁぁ――――!!

 こんな偶然が! いや、これは必然的な運命としか言いようがなぁ―――い! 私は心の中で歓喜の雄叫びを上げた!

「お久しぶりですね、お元気でしたか?」

 チナールさんは以前と全く変わらない温色の笑顔を向けている。私は瞬時に胸がキュ~ンとなった♬やっぱチナールさんの笑顔は最高だな! 私も彼につられて満面の笑顔を返す。

「はい、とっても元気です。チナールさんもお元気でしたか? 最近お目にかかっていなかったので、気になっていたんですよ」

 ちゃっかりと、私はアナタを想ってますアピールさ!

「気に掛けて下さり、有難うございます。少し体調を崩しておりまして、シェフ様の所には別の者がお邪魔させて頂いてました」

 チナールさんは苦笑いをしながら、申し訳なさそうに答えた。

「そ、そうだったんですか。今は外に出て大丈夫なんですか?」
「はい、もうだいぶ躯は回復しましたので、次にシェフ様へお届けする際はまた私が参ります。その時は宜しくお願いします」
「そうですか」

 チナールさんの体調不良と聞いて青ざめたけど、また宮殿に来ると聞いて、ウハウハな気分に変わる。

「チナールさんが作られるお野菜や果物は絶品ですからね。楽しみに待っていますね」
「有難うございます。ところで、千景さんは今日どなたかとお出掛けですか?」
「いいえ、一人で来ましたよ」
「お一人ですか?」

 私の返答にチナールさんは目を丸くして、驚きの色を見せた。そんなにおかしい事なのかな?

「あの?」

 茫然としているチナールさんを私はそっと覗き込む。

「失礼しました。千景さんは宮殿にお住みの方なので、外出の際はお付きの方とご一緒ではないかと思いまして」

 私はお付きがつくほど偉くないんだよね。あ、今度チナールさんが宮殿に訪れた時、ここで私と会った事を誰かに話されでもしたら、具合が悪いぞ。

「実はこっそりと出て来ました」
「こっそりですか!」

 ヤ、ヤバイ、余計立場を悪くしてしまったみたいだ。

「実はプレゼントを探しに来ていまして。渡したい相手にバレたくないので、こっそりと来たんです」
「なるほど、そうだったんですか」
「ですので、私とここで出会った事はどうか内密にお願いします」
「わかりました」

 チナールさんに笑みが戻って、上手く誤魔化せたようだ。良かった、良かった。

「チナールさんはお買い物かなにかですか?」
「はい、私は食事処の店主の方々に食材を届けていたところです」

「そうだったんですね」

 チナールさん、荷物を乗せたスカーレットを連れているもんね。お仕事中ならチナールさんのお家や畑に案内してもらうのは悪いか。今日は諦めようっと。

「お仕事中でしたら、あまり長居をさせられませんね」
「いえいえ、こちらから声をかけさせて頂きましたし、お気になさらずに。それに久々に千景さんとお話が出来て、元気になりましたし」

 な、なんですと、、私と話をして元気になったって! こ、これはかなり好意的な言葉だよね!

「わ、私もチナールさんとお話が出来て、とっても楽しかったです」
「有難うございます。また宮殿でお会い出来る日を楽しみにしておりますね」

 そう言ったチナールさんのはにかむ表情は無垢な少年のようで、私のハートを貫いたぁああ!!

 ――うっひゃぁ~!

 思い切って宮殿を抜け出してきて良かったぁ~。

「それではまた」

 名残惜しさを残しつつチナールさんと別れた私は、かなりのハイテンションとなり、欣喜雀躍の足どりで歩いていた。

「そこのお嬢さん……」

 私は喜悦MAX過ぎて全く周りが見えておらず、スキップまでしていたもんだから、声をかけられていた事に気付かなかった。

「お嬢さん、ちょっと待って」

 肩を捕まれてようやくと気付いた。反射的に振り向くと、

 ――どっひゃ~♪

 外套のフードを頭の上までスッポリ被っている長身の男性が立っていて、布から覗かせている美顔に思わず息を呑む。瞳の色も輝くばかりの琥珀色であった。

 ――絶対この人、超美形だ。

 で、私になんの用なんだろう? 私は訝し気に見上げていると、その相手はにこやかな笑みで話かけてきた。

「お嬢さんがあまりにも嬉しそうだったから、思わず声をかけてしまったよ」
「?」

 チナールさんの事があったからか、私そんなにニヤついていたのかな? ちょっと恥ずかしいかも。つぅか何気にこれってナンパじゃん? 急に私は意識してしまい、胸が高まる。

「私は他国から、このバーントシェンナ国にスイーツを運んでいたところだったんだけど、運ぶ数を間違えていたようで、スイーツが一つ余ってしまってね。よければこれをもらってくれないかい?」

 そう美形に言われて渡されたものはピンク色の四角い箱だった。

「中身はスイーツだよ。バーントシェンナ国でも有名なスイーツ店に納めている菓子だから安心してくれ。ほらあのドルチェスの菓子だ」
「そ、そうですか、あそこお菓子なら安心ですね」

 って、知らないってのぉおお! そう素直に吐いたら怪しまれるだろうから、とりあえず話を合わせておいた。

「あの、どうして私に?」
「君があんまりにも幸せそうな顔をしていたからさ。見ているこちらまで幸せな気分になってね、そのお礼だよ」

 な、なんと、チナールさんに続いて、こんな美形にまで嬉しい言葉をもらえるだなんて。男性は満遍ない笑顔で私をジッと見つめていた。そんなに見つめられると照れちゃうんですけど!

「じゃぁ、私はこれで失礼するよ」

 美形さんは最後までニコリ笑顔を崩さず、颯爽とした足取りで私の前から去って行った……。





web拍手 by FC2


inserted by FC2 system