第四十話「一人旅を謳歌します」




 うっひょー、きっもちいい! 私は宮殿から抜け出して、風にのってビュンビュンに空を飛び回っていた。翼はないけど、自由に空を飛べる鳥と一緒だね。いつも鳥みたいに飛ぶ事が出来たらって思っていたけど、まさか実現するなんて。

 鳥さんはいつもこんな気持ち良く飛んでいるんだね。やっと自由の身になって開放感に溢れてるぅ~。長く待ち望んでいた自由だもんね。私はウハウハな気分を表情から滲ませ、ひたすら前へと進んで行った。

 暫くすると、一般的な建物と人々の姿が見え始めた。バーントシェンナの街並みに入ったんだ。初日以来、目にしてない光景だったから忘れていたけど、沢山の人で活気づいているんだなぁ~。

 街は基本的に商店が多く、売買する人達で躍動感に溢れ賑わっている。また食事処や宿も多い。これだけ大規模な商業地帯だ。きっと国家の資金は潤っているんだろうなぁ~。フムフム。

 大きな港もあって沢山の船が停まっている。人を乗せる船は勿論、荷物の運びが盛んに行われている所を見ると、主に貿易船なのかなぁ? ここまでけっこうな距離を飛んで来たけど、まだまだ街は続いている。思っている以上に広い。

 そういえば、次に外へ出た時、探そうと思っていたケンタウルスちゃん達の姿がさっぱりと見えないんだけど? なんでいないんだろう? 確か初日に、この街から出て来るケンタウルスと会ったのになぁ。

 そうだ、そろそろ下りて少し街中を散策でもしてみよう。ケンタウルスも探したいし。あ、それと愛しのチナールさんのお家も探してみようかな! チナールさんがどんなお家に住んで、どんな畑であの美味しい野菜や果物を作っているのか超気になるもんね。

 もしかしたら、近い将来一緒に過ごすかもしれないしぃ~(ニンマリ)。私は人目から避けた場所を選んで地上へと下りた。この国というか、この世界全体なのか、地面が土とかコンクリートといったものではなくて水面なんだよね。

 初日に歩いていた時もおったまげだったけど、それは相変わらずで違和感ありまくり。そんな上を人々は普通に歩いているのだ。にしても間近で見ると、ド迫力だなぁ~。まさにアラビアンの世界だよ。

 瞳に映る人々はガンドゥーラの服を纏い、頭にシュマーカを被ったりと、まさにアラビアン衣装だ。いつも王宮の人達しか見てなかったけど、街の人達は至ってパンピー。あ、スカーレットが荷台を運んでいる。

 スカーレットとはラクダと羊を足して二で割ったような不思議な動物だ。人や荷物を運ぶ動物だけど、スルンバ(馬とロバを足して二で割ったような動物)とは、何故こうも名前の品格が違うんだろう?

 出店の野菜やフルーツもおっきいなぁ~。気候もいいからよく育つんだろうね。つぅか、土がないのに、どうやって育ててんだろう? 後でチナールさんに会った時に訊いてみようっと!

 建物は白色をベースにしたシンプルな形から、目が眩むような絢爛豪華なデザインのものまであり、カラフルな商店街のお店には沢山の商品が並べられていた。あそこのお店の絨毯、可愛いなぁ~。

 昔、千夜一夜物語の絵本を読んだ事があるけど、まさにこんな感じだったな。あとドィズニーのアラズィンとかね! とにかく人、人、人で人酔いしそうぐらい熱気に溢れている。私は瞳を満天の星のように輝かせ、高揚感が治まらない。

「そこの可愛いお姉ちゃん、ちょっとこれを食べてみな」

 とある出店のおっちゃんから、声をかけられた。オレンジ色のグルグルのターバンを巻いたガン黒のおっちゃんは見た目が洋梨に似ている果物を差し出していた。見るからに新鮮で美味しそうだ。

「私、お金を持っていませんけど?」
「いらっしゃーい、いらっしゃーい」

 おいおい、お金ない事がわかりゃ、あっしは洋梨に用無しかい! う、上手い、我ながら今のは上手かった。おっちゃんは既に文無しのあっしには目もくれず、ひたすら客寄せに大声を上げていた。フンだ、至福の国の名にちなんで奉仕しろっての。

 そんな事より、まずはケンタウルスちゃんを探さないとな。見渡す限り、姿が見えないんだよね。ムゥー、仕方ない。そこら辺にいるおっさんにでも声をかけて訊いてみよう。

「スミマセン、ケンタウルスに会いたいんですけど、この辺にいませんかね?」
「は? アンタなに言ってんだい? ケンタウルスがここにいるわけないだろう。彼等は生息する聖地にいるじゃないか」

 髭が顎下からボーボーに長いおっさんから、腫れ物を見るような眼差しを向けられて言われた。

「だってここで見た事がありますもん」
「それは王宮に用があって来ていたのだろう。基本的に彼等は我々人間と最低限の関わりしかもたない生物いきものだからな」
「そうなんだ~」

 ふ~ん、それでいくら探してもいないのかぁ。残念過ぎる。あ、そうだ、知りたい事も訊いちゃえ!

「ちなみにケンタウルスの下半身は食べれられるんでしょうか?」
「アンタ、さっきから頭のおかしい事ばかり言っているが大丈夫かい? 一度医師に診てもらった方がいい」
「な、なんだ、私は頭おかしくないぞ!」

 なんだこのおっさん、人に狂気じみた目線を向けてさ! さっきから超失礼しちゃう! 気分を害した私はケンタウルスの下半身が食べれられるのか答えを聞かないまま、おっさんの元から離れた。

 それから私は人混みを掻き分けながら、何処に行くわけでもなく、適当にブラブラとしていた。可愛いカーペットやカーテンレース、カップやアクセサリーと見たい商品は沢山あるんだけど、お金を持ち合わせていないから、じっくりと見る事も出来ない。

 そういや、こっちのお金って見た事がなかったな。種類も覚えないと買い物が出来ないし、今度シャルトに教えてもらわなきゃな。ハッ、そうだ。チナールさんのお家に行ってなかったや。

 最近はチナールさんに会ってなさ過ぎだった。会いたいよ。とはいえ、この巨大な街中からどうやって彼を探せばいいのやら、やっぱ人に訊いて行くしかないか。でもむやみやたらに個人名を出すのも気が引けるな。ここは愛の力で巡り会わせてくれないかな。

「あれ? 千景さん?」





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