第二十九話「うたかたの愛の行方」
「ずっとエロい声を聞いてたから、限界なんだけど」
「ん……んぅ……限界は……こっちの方だよぉ」
もうあれだけ好き勝手にイカされたら限界だって。弱々しく訴えた私に、キールが真顔で覗き込んできて……。
「喋れるなら、まだヤレるよな?」
「え?」
「そろそろ……」
キールは私から離れたと思ったら、いきなり服を脱ぎ始めた。え? ……え? ……えぇえええ!? そ、そりゃ、契りの最後といえば……そうだけど!
「な、なんで脱ぐんだよ!」
わかってはいるのに、ついバカな質問をしてしまう。
「なんでって脱がないと挿れづらい」
キールの生々しい言葉を聞いて、私はカァアアーッてまた躯全体が熱に覆われ、瞳を開けていられなくなった。スルスルッて脱衣されている音が怖くて、耳に蓋をしたくなる!
きっとキールは筋肉があって引き締まった躯つきをしているんだろうな。私はまともに見る事が出来ず、小動物のようにビクビクと躯を震わせていたら、キールがこっちに近付いて来るのが甘い香りで感じ取った。
――み、見られないよ、部屋も明るいし!
「……千景」
「!」
どうしよう、どうしよう。うっすらと目を開いてみると、思っていた通り均整のとれた引き締まった上半身が映って、その下は……む、無理だ! 刺激が強いぃ! 若さ故に無駄に猛々しいモノがぁああ!!
私が大きく戸惑っている間にも、キールはごく自然に私の脚を開き、素早く体勢を整える。そして聳え立つ熱塊を潤いに満ちた蜜口へと宛がう。私は恥ずかしさのあまり、視界をシャットアウトにさせた。
――これ以上は見ていられないよ!
躯が沸騰しそうだ! 心臓が爆発しちゃうよ! まだ意識があるのが不思議なぐらいだった!
「千景、もっと力を抜いて」
そうキールから優しく言われて無意識に力を抜いた瞬間、
「ひゃぁあっ」
ズンッと指を沈められて、ズブズブに抽迭を繰り返される。
「やぁあっ、またいき……なり!」
「オレの指にヒクついて絡んで、本当に離したがらないよな?」
「バカ……バカァ!」
またキールはとんでもないエッチな事を吐きやがる! それに指の摩擦で水音を弾き、グチュリヌチュリした厭らしい音が鼓膜に纏わり付く。
「あん、あん、あぁぁんっ」
なんだかんだ文句を言いつつも、送られる快楽は気持ち良いのだ。ツンな態度も一瞬で砕かれてしまい、自ら快感を追い求めてしまう。スッカリと快楽漬けにされた後、キールの指が抜かれた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
私は肩で息をしていた。酸素不足で窒息するっての! キールへ視線を向けると、彼は再び熱塊を挿れる体勢に入っていた。今度こそ、本当に、本当にっ! 私は息を押し殺して瞼を閉じた!
…………………………。
――あ、あれ?
一世一代を受け入れる覚悟を決めたのに、肝心なモノが来ないよ? 恐る恐る瞼を開いてみると……、キールがとても悩ましげな? 切なさそうな? なんとも言えない表情をして静止していた。見ようには躊躇っている様子に見える。
――え?
今更そんな顔をされたら、こっちは萎える。しかし、私はキールの表情で気付いてしまった。その意味を把握した時、サァーッて熱が冷め、代わりに込み上げてくる瞳の熱に胸が締め付けられた。
私、自分の事しか考えていなかった。自分の気持ちとか貞操とか、でも本当はキールも同じ気持ちだったのかもしれない。国を救う為に好きでもない女性を抱かなくちゃならなくて。
シャルトさんじゃなくても、大事な女性がいるのかもしれない。だって私、キールから好きだとも愛しているとも一言も言われていない。彼は役目を果たす為に、気遣って優しく接していただけなんだ。私は気持ちが高ぶって瞳の潤いが深まった。
「キール」
私はキールへと手を伸ばす。その手に気付いた彼は導かれるように顔を寄せてきて、私は彼の顔を両手で包み込んだ。一見キスをせがむような体勢に見えるけど、そうではなくて、私は自分の額を彼の額に当て……。
「……もう……やめよう。私、アナタを愛していない……」
キールの瞳が大きく揺らぐ。
「でもアナタも私を愛していない……私、アナタと愛し合ってからしたい」
私は涙で声が断続的になりながら伝えた。キールはなにも答えなかった。それは私の言葉が間違っていないのだと思い知らされた。でも不思議と落ち込む気持ちはなくて、安堵感が広がる。一時的な感情に流されて契りを交わしても心はなにも満たされないから、虚しさが残るだけから。
……………………………。
長い長い沈黙が流れた。どのくらい経った時だろうか。気が付いたら私は深い眠りについていたのだった……。
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視界が霞んでハッキリと見えない、意識も朦朧としている。私は微睡む感覚を押し退けて、意識を明瞭にしようと試みる。次第に視界が良好となり、瞳に入ってきたものはベビーピンク色の天井だった。
――あれ、私?
どうやら私は仰向けになっているようだ。徐に上体を起こす。見渡す限り一面の壁もベビーピンク色で、可愛らしい装飾が施されたベッドの上にいる。そして右手にモゴッとした厚いものを感じて、視線を巡らせる。
「うわっ」
やたら綺麗な男のコがスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。うつ伏せで顔だけをこっちに向けている。しかも真っ裸! つぅか私もすっぽんぽんだよ!
「あ、あれ? 私、どうしたんだっけ!?」
長く夢の世界にいたような感覚が残っていて、すぐには記憶が追いつかず。確か私は合コンで楽しくカラオケに参加していて、自分の出番が回って歌ったら? ……ん?
――そ、そういえば!
私、異世界へ飛ばされたんだ! 商人に売り飛ばされそうになったり、ケンタウルスや、やたら綺麗な人達が現れて、でもあれって夢じゃなかったの!? チラッと隣の男のコを見る。このコ、あのコだよね!
――あぁ――――! エッチをしちゃったコだよね!?
わわっ、私、歌が音痴過ぎて禍だとかなんとかで、その禍から抜け出すには不思議な能力を持つ術者とかいう人と契らなくちゃいけなくて、それで術者のこのコとラブラブ行為に入っちゃって……どうなった?
肝心な最後の記憶がないんだよぉおお!! うぅ、覚えている限りだとガッツリしちゃっていたような気がするから、最後までヤッたんじゃないかな! あ~~、会ったその日にエッチするなんてぇええ!! 私があわあわとテンパッていると、
――コンコンコンッ。
室内の出入り口の扉が叩かれる音が耳に入ってきた……。