第二十六話「煽りを受けて」




 再び私はキールの舌を求めて彼の口を割る。キールはすぐに唇を開いてくれたけど、やっぱり舌は絡めてくれない。絡めて貰いたくて、さらに私は深く口づけて舌を差し入れるのに、それでも応えてくれないのだ。

 ――意地悪をされているんだ。

 私は一人だけ頑張っているようで物凄く恥ずかしくなり、一度唇を離した。

「ねぇ、なんで?」

 舌絡めてくれないの? と、言葉を続けたいのに、こぱっずかしくて言えないんですけどぉおお!

「なに?」

 うぅ、キールの冷たい口調に自信を無くす。やっぱりまだ怒っているのかな……。

「だからなんで……?」

 絡めてとは言えなくて出してがやっとだった。すると、キールが軽く舌を差し出してきてくれたから、私は自分の舌を重ねた。だけど、また私だけが舌を動かしていて、キールは応えてくれない。

 私の舌使いが不器用だから、どうみてもキールが感じているようには見えなかった。私はまた独りよがりな行為に恥ずかしさを覚え、唇を離してしまった。キールはジッと私を見つめていた。表情からはなにを考えているのか全く読めない。

 私はどうしたらいいのか迷っていた。素直に舌を絡めてと言えればいいのだろうけど、抵抗を感じるし、そもそもキールにはその気がない……よね? 伏せ目の視線をそっと上げてみると、キールは変わらず無表情のままだ。

 うぅ~、こっちはキールの顔を見ているだけで、躯が疼いてキスしたいという衝動に駆られているというのに。キールは本当に色っぽい美少年だった。年が若いのにフェロモンムンムンだし、シャルトさんが言っていた腐女達の気持ちも、今ならわかる気がする。

「言いたい事ないなら、もうオレ部屋から出るわ」
「え?」

 素っ気なくベッドから下りるキールの姿を目にして、私は焦燥感に煽られる。

「ま、待ってよ!」
「なに?」

 立ち上がったキールは面倒くさそうな素振りをして振り向いた。

「えっと、だから、その」
「言いたい事があるなら、とっとと言えって。オレはいつまでもここに時間を費やすほど、暇じゃない」

 キールの言葉に私の心はかなり傷き、瞳に水の膜が張るのを感じた。

「だって……」

 キスしようって言っても、拒否られるような気がして、怖くて口にする事が出来ない。暫くキールは私の言葉を待ってくれていたけど、その内に痺れを切らしたのか、私に背を向けて歩き出してしまった。

「本当に待ってってば! キスしよう! 私、キールとキスしたい! 舌を絡めたい!」

 私は恥ずかしさと怖さが入り混じり、頑なに目を瞑って叫んだ。すると突然、唇に柔らかい感触が入ってきて、それがなんなのか認識した時には生温かい塊が口内へ差し込まれていた。やっと待ち望んでいたものが入って、私は躊躇わずに舌を絡める。

 すぐに互いの舌が激しく蠢き、息苦しさを覚えたけど、それでも私は舌の動きに応えた。冷めていた熱がまた上昇し始め、躯全体が熱くなってくる。唾液も混ざって潤いが深まれば深まるほど、心と躯が満たされていき、頭の中が蕩けそうになった。

「はぁ、はぁ……」

 唇を離され、キールへ視線を向けた時、私はある事に気付いた。今まで気付かなかったけど、キールってピアスをしている? 銀色シルバーのリングだ。

「ピアスをしているの? デザインは花の紋章?」

 よく見てみると、八重桜のような花のデザインが彫られている。

「あぁ、バーントシェンナ国の紋章だ」

 私は不思議と花の紋章に目が奪われていた。気品と優しさを感じる花だ。

「なぁ」
「なあに?」

 私はポ~とピアスの紋章に惚けていたら、キールから声を掛けられた。

「続きしようか?」
「え?」

 続きって、もしかして……もしかしなくてもですよね? 確かに躯はズクズクと欲してはいるけど、でもやっぱり感度が悪いのではないかと思うと、怖さを隠し切れない。

「えっと、また感度が悪いと気持ち下がると思うし」

 私が素直に伝えると、

「ひゃぁあんっ」

 いきなりキールの指が秘所に入り込んできて、花芯を擦り上げた。ほんの軽く擦り上げただけなのに、躯が過敏に反応た。さっき擦られた時と全然違う! 性感帯を刺激されたみたいに、思わず嬌声を上げた。

 ――あ、あれ?

 今度は違う意味で戸惑う。

「思っているほど、躯はそうでもないみたいだけど?」

 そう言うと、キールはまた花芯を擦って弾く。

「やあっ、う、動かさないでよっ」

 ビリビリと甘い電流が流れに堪え切れず、キールにしがみ付く。

「なんで?」
「なんでって……」

 訊かれて答えに窮する。うぅ、キールは絶対にわかって訊いてきているんだ。私を煽っているのだ。しがみ付いている手に力が入る。どうしよう、どうしよう! なんて答えたらいいのかわからないよ。私が煮詰まっていると、キールの指が動き始める。

「やぁんっ、ダメだって言っているのに、バカバカ! ひゃっ、あん、あん、あぁぁん」

 好き勝手に弄られて、ただでさえ恥ずかしいのに、輪をかけるようにして鼻にかかった甘ったるい声が洩れて羞恥を煽られる。

「そんな声出して、ここを濡らして強請っているとしか思えないけど?」
「ち、ちが……うんんぅ、んあっん、やぁあ」

 指の動きを速められる。言葉を否定するにも、だだ洩れの声と秘所の潤いがそうさせてくれない。それにキールは声が良いから耳元で囁かれてしまうと、脳まで犯されているような感覚になるし、もう頭の中がグッチャグチャだ。

「もぅ、やぁあ、やめてぇ」
「オマエ、オレの前では気ぃ強い事しか言わないから、エロイ声を出されると、凌辱してやりたくなる」
「バカバカ、最低! ドSサディスト、ひゃぁあん」
「で? どうするの?」
「ん、んぅ、うぅ」

 答え聞かなくてもわかっているくせに、本当になんてヤツだ! とはいっても先に進むには気掛かりな事があって、私は真面目に訊いてみようと口を開く。

「……キール」





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