第十一話「オジさまはお好きですか?」




 私が全く身動みじろぎが出来ず、ジッとしていると、さっきキールと話しをしていた衛兵にいきなり腕を掴まれた!

 ――うわぁ、いきなりセクハラだぞ!

 思わず声を出しそうになったが、慌てて手で口を塞いだ。牢獄行きなんてゴメンだ!

『あとは頼んだ』
『は! 必ずや娘を参のへとご案内致します!』
『意気込みがいな。じゃぁ、オレはこれで失礼する』

 キールは片手を上げて、この場から颯爽とした足取りで去って行ってしまった。彼の姿が見えなくなるまで、衛兵三人は深々と頭を下げていた。なんて薄情なヤツだ! どれだけヤツは偉いんだ!

『さぁ、参りましょう』

 衛兵は私の腕を引っ張り、歩き出した。うぅ、セクハラかというぐらいガッチリと掴まれているではないか! こんなおっさんに攫われて私になんの得が。いやいやそうじゃない。

 そもそもキールは私をこのおっさんに売りつけたんだ(お金は無しだけど)。私はこれからどうなるんだよ? まさか……まさか、このおっさんに食われる!?

 ――ひぃいい!

 私はムンクの叫び顔となった。全身に嫌気が駆け走り、衛兵の腕から逃れようとすると、彼は凄い勢いで私の腕を固定する。

 ――ひぃいい! なんなんだ、このおっさん!

 私はもう片方の手で、おっさんの腕を払い退けようとするが、さらにピタッとくっ付かれた。ひぃやぁ~~、ヤバイヤバイ、このおっさん! なんでこんなにムキになって放さないんだよ! 私の事を勝手に自分のものだと思って放さないでいるのか!

 声を出したいのに、その瞬間に牢獄行きかと思うと声を出せない、この恐ろしい状況。放せ~放せ! 私の叫びは頂点に達していた。しかし当然、放れる事は叶わず、私は廃人化となる。

 大人しく諦める事にした……。一体、何処に連れて行かれるんだろう? そして、どれだけ歩いたのだろう? 歩いても歩いても辿り着かないって感じ。なんて広い宮殿なんだ。

 そして、すれ違う人達から奇異な視線を送られるのが痛いんすけど。そりゃそーだ。こんなおっさんに腕を組まれて仮にも私はティーンに見えるんだよ? おっさん、アンタは確実にロリコンの目で見られているよ。

 そもそもなんでキールはあんなに怒っていたんだろ? こっちの方が怒りたい事が山ほどあるってのにさ。何故ヤツが……なんでだ! 段々とまた腹立たしさが沸騰してきた。そんな時、とある部屋の扉の前にやって来た。

『さぁ、お入り下さい』

 衛兵が扉を開けると、ギィーという重厚な音が響いた。中へ通され、私は大きく目を剥いた。何処かの貴族のお部屋ですか? というぐらい重厚な調度品が設えられている。デザインの高さが窺える天井画と壁画、調度品はきめ細やかに宝飾された豪華な形をして並んでいる。

 ――すっごい、ヨーロッパに行った時に見た宮殿の寝室みたいだ!

 私は急に自分が本当のお姫様になったみたいな気分となって気持ちが高揚する。しかし、気分が良かったのはほんの一瞬で、すぐに衛兵がある方角に手を向け案内をしてきた。

『こちらへどうぞ』

 その先はこの部屋と繋がっている別室であった。私はその部屋を目にした瞬間……。

 ――ひぃいいい!!

 本日2回目のムンクの叫び顔となる。何故なら目の先にはキングサイズのベッドがあり、その隣で衛兵が無駄に嬉しそうな表情をして立っているからだ!

 ――ヤ、ヤバイゾ!

 私は反射的に後ずさりをする。キングベッドはウットリするようなカーテンレースをふんだんにあしらえた天蓋付きで、まさにお姫様気分を味わえる最高のものだった。

 ベッドの周りには最高級の薔薇のようなお花や燦然と輝く宝石が上品に飾られている。さらに甘く香りの高いアロマが焚かれており、恋人同士が甘い時間を過ごすには、この上ないプレシャスな空間だ。

 しかしだ。今、私の目の前にいる相手はヒゲボーボーで、お世辞でも品があるとは言えない中年のおっさんだ。彼はとても素敵な人なのかもしれない。でもだからといって、私がこの人とベッドを共にする理由にはならない!

 私はもう真っ青を通り越し完全な廃人となる。今、僅かな風が吹くものなら灰となった躯は霧散するだろう。そんな枯れた心にだ。さらに追い打ちをかけるように衛兵が行動を起こした。

『どうぞ、こちらでごゆっくりとお休み下さいませ』

 ひぃ! 彼はベッドを差しているではないか! こっちに早く来いと言っているんだ!

 ――どうしよう、どうしよう!

 私は一刻も早くこの場からずらかろうという結論に至った。そう思った瞬間、俊敏に身を翻し、ドアへと疾走しようとした。が! それよりも速く衛兵に手を取られてしまい!?

 ――ひぃいいい、神様お助けを~~~!!

 私は心の中で土下座をして神様に懇願をした。衛兵は無理やりに私をベッドへ連れて行こうとする。

 ――やめろ、やめろ! 放せ~!!

 私は躯を必死に振り回しながら抵抗する。当然力では敵わない。こんな事になるんだったら、素直にキールの名前を覚えたり、彼の存在をシカトするんじゃなかった!

 私は今更ながら後悔の念に押され、瞳に水の膜が広がっていくのを感じた。それから衛兵にずるずるとベッドまで連れて行かれ、強制的に腰を落とされた!

 ――もぅダメだぁ!!





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