第五話「彼の目的は私の豊満ボディー」




「あのさ、日本語を話せるなら、最初から話してくれれば良かったのに」
「…………………………」

 さっきから私が話かけているのにさ、目の前を歩く少年はなんにも答えてくれない。彼が私の世界の言葉が話せるとわかって、一緒について行く事を決めたんだよね。話し相手がいる方が心強いもん。

 少年の後ろをトコトコついて行く私は出来るだけ彼とコミュニケーションをとろうと話しかけているんだけど、相手は全く反応をしてくれない。私はじとーと少年の背中を見つめ、根気強くもう一度コミュニケーションを試みた。

「さっきから話しかけてるんだけど、私の言葉がわからないのかな?」

 そうだ、少年は完全には日本語を理解していないのかもしれない。そう私が都合良く解釈した時だ。急に少年が立ち止まって私の方へと振り返ったのだ。

 ――わおぅ、いちいち動き一つがカッコイイなぁ。変に色気があってフェロモンムンムンの美少年なのに、興奮しない私って……オバしゃんか。

 少年の翡翠色の双眸はなにかを物語るように私の瞳を捉えていた。

「言葉は理解している。これから人通りの多い道に入るが、人前でその言葉を話すな」
「なんで?」

 少年の命令口調が癪に障るんですけど。あっしの方がお姉サマなのに、明らかに上から目線で腹が立つ。そんな私の不快を彼が察する事はなく、なお淡々とした口調で言葉を紡ぐ。

「異端者扱いをされて火焙ひあぶりにされるぞ」
「ひぇ~、そんなあっしは魔女じゃないんだから」

 いつの時代だ、ここは中世ヨーロッパか! 私の言葉に少年は僅かに目を細めて言い放つ。

「オマエは魔女じゃない」
「そりゃ一般市民のいたいけな女子ッスから」
「違う。オマエは”禍”だ」
「はい?」

 あっしの目は点になっちゃいましたよ? 禍ってあの「わざわい」ですか? おいおい、こんな一般市民がどうやって禍を起こすんすか? 私は魔法とか妖術とか使えませんから。全くこんな幼気いたいけな女子みてなに言っちゃってんだよぉ!

 ちょっと顔良くてイケてるからって、なに言っても許される思ったら、大間違いだからな。フンフン。とはいえ、少年の表情も至極真剣で嘘をついているようには見えない……が、知らん! 私の表情をジッと見つめている少年に、私はアッカンベーをお見舞いしてやる。

「なんだ? キスして欲しいって誘っているのか? さっきは拒否っていたくせに」

 どっひゃ! なにを勘違いしたら、そっちの方に捉えられるんだよ! これだから無駄に顔の良い男は調子づくんだよな。はぁー、思わず溜め息が出ちゃったよ。

 ――ん?

 ちょっと視線を外していた隙に、少年は私の前まで来ていたようで、んでもって私の顎はクイッと持ち上げられる。

 ――へ? コヤツ、またチューしようとしているんじゃ……? 懲りないな!

 私の目の前はかげりを帯び、案の定、少年と唇が重なる。すぐに舌を差し出されるけど、私は唇を割る気にはなれなかった。そんな私の様子に気付いた少年は口元から解放する。

「仕方ない」

 少年は諦めたのかと思ったが、いきなり右手の人差し指と中指を私の口内へと突っ込んできた。

「フンガッ」

 おいおいおいおい、なにすんだ! なに無理矢理こじ開けようとしてんだ! さらに少年は指を左右にし、私の口の中を広げてきたぞ。

「フンガー!」

 私は情けない声を洩らした。こんな乙女にこんな行為して只で済むと思うなよ! そんな私の思いとはよそに少年は指で私の口を押さえたまま、再び唇を近づけ重ねる。

 拒否っていたヤツの舌が侵入してきて、私に舌を求めているのがわかった。だけど、私はどうしても絡めたくなくて、舌を強張らせていたら、少年の舌が私の舌以外の場所を丁寧になぞり始めてきた。

 ――ビクッ!

 舌が器用に舞う。きっと舌を絡め合ったら気持ちいいと思う。でも私は好きでもない人からされて全然気持ち良くなれない。嫌悪感に近い感情が芽生え、泣きたくなってきた。舌を絡めない私に少年は動きを止めた。

「オマエ、顔を赤めるとか動揺とかしないよな? 可愛いげないな。でもそういうヤツを感じさせるのは楽しみだけど」
「は?」

 ――なんだ? このガキ?

 私はガチ引いて表情を歪めた。目の前の色気づいたガキに対し、不信感と嫌悪感を抱く。一体どんだけ自分のテクニックに自信があるんだ! 世の女性すべてが自分に靡くとは思うなよ! 人をバカにするのもいい加減にしろ、大人の女性をナメんなよ!

「誰が感じるって?」

 私はドスの利いた低い声で、少年をめ付ける。

「まだオマエから助けた礼を貰っていない。所用が済んだ後、礼は躯で払って貰う」
「………………………」

 ――コイツ!

 つけ上がんのも大概にしろ! これ以上下劣な事を言ったら、大事なモンを潰して子作り出来ないようにしてやるからな! ヤツは私の異常なほどの威圧感に気付いている筈なのに、またいけしゃあしゃあとして言葉を続ける。

「まぁ処女であれば、痛みがあるだろうけど、すぐに気持ち良くしてやる」
「それはお気遣いどうも。でも私は初めてじゃない、もうとっくに捨てているから」

 私の応えにヤツは瞳を大きく揺るがせ、驚いている様子だった。フンだっ、どうだ! 処女だと思っていたみたいだけど、違うんだからな。処女好きだったら、ざまぁーだ。

「へぇー、純情そうな顔をして穢れているのか」

 ヤツはまた違う意味で私を蔑む。ムゥ、処女なきゃ穢れてるだと! コイツ、世の女性を敵に回すな!

「純情のままいなくちゃならない理由があるんですかね? だったら世の中に子供を誕生させられませんよね!」

 フンだ、私はわざと嫌みタラタラで言ってやった。

「………………………………」

 少年は黙然と私を見つめている。どうだ、答えられないだろう! 私は心の中で勝ち誇って喜んでいたら、ヤツは……なんと、また性懲りもなくディープキスをしてきた! もーう、どんだけ好きなんだよ! そして自己満チューを終え零した言葉は、

「処女じゃないなら一層楽しみだな」

 だった……。ッカー、なにがだよ!





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