Please78「身も心もすべて貴方へ」
背後から耳朶や首筋に熱を孕んだ口づけが落とされる。一つ一つの愛撫が丁寧で愛情が肌の奥へと溶け込んでいくようだ。アクバール様の行動が目に見えない分、肌が繊細に感じて小刻みに躯全体が震える。特に耳朶の穴に舌を這われた時、ゾクッとした鮮やかな刺激が閃き、
「ふっぁあ……」
口許から艶を帯びた声が零れた。それから幾度もピチャッと淫靡な水音が鼓膜に響いて、私は身をよじろうとしたが、がっしりとアクバール様の腕に抱かれていて敵わない。
――なんて音が厭らしいの。
アクバール様は故意に音を弾いて、私の淫情を高めている。
「お……と……い……やぁ」
あえかな声で呟くと、アクバールがフッと笑ったような吐息を感じた。首筋をチュクと肌を強めに吸われ、さらにドレスの上部がズリ落ちた。
――きゃっ!
まろび出た二つの膨らみをアクバール様の手が掬うように持ち上げ、すぐにパンの生地を捏ねるように大胆に回される。
「やんっ、あ、あんっ」
双丘は卑猥な形で踊らされていた。私は窓に手をついて中庭へと目を移す。窓枠の縦幅が長いせいか、臀部を付き出す不格好となってしまったが、それよりも気が気ではなかった。あの中庭は普通に人が足を運べるだろうし、外から私達の様子も丸見えだ。
こんな胸を露出して弄られている格好なんて見せられたものではない。なのにアクバール様は私の懸念を気にも留めずに慰撫を続ける。唇で首筋を吸い上げ、背にも口づけの雨が落とされ、上半身全体が何度も弾けた。
気が付けばガラス窓に双丘が押し潰されている。外から見ればとんでもない卑猥な形に見えるだろう。早くこの場から離れたい。もういい加減にアクバール様を押しのけようとした時、彼の行動の方が早かった。
「ひゃっ」
私の左腕を上げて立ち上がらせ、>腋窩を愛撫し始めたのだ。
「やっ、そんなところ」
今までそんな場所に舌を這われた事がなくて、私は大いに戸惑う。でもアクバール様は構わず脇の愛撫を止めない。さらには脇を潜って今度は膨らみへ愛撫を移す。チュクッと肌を強めに吸われ、肌に赤い華の形が刻まれた。
「雪のように艶やかで白い肌には赤い華がよく映える」
一頻り華を散らしたアクバール様はしたり顔で呟いた。私の白い肌に赤い華が浮かんでいる。
「とはいえ、オレが付けたものより初めからレネットのもつ華の方が何倍も美しいな」
「え?」
「それに甘露だ」
「あぅっ」
アクバール様は私の膨らみを押し上げて、ツンッと凝り固まった真っ赤な頂を唇で食んだ。
「んあっ」
ビリッと瞬間的な衝撃が駆け巡る。ほんの少し触れられただけで得も言われぬ快感が迸った。
「やはり甘いな」
食みながら喋られると、妙な感覚が回っておかしくなりそうだ。
「そ、そこは甘くは……」
「いや、愛撫すればするほど甘くなるぞ」
そう言ってアクバール様は>塗すように舌を這わす。
「はぁ……ぁあん、やぁんっ」
膨らみの頂にある蕾は朝露のようにしっとりと潤っている。その姿は異様に淫靡だ。熱が侵食し、ゾクゾクと快感が膨れ上がる。本当に甘いのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
アクバール様に花の蜜を吸う蜂ように、或いはミルクを舐める猫のように蕾を>愛でられ、生まれた快感熱に私の思考は溶かされる。艶やかに光る蕾は責め苦に合いながらも、食べ頃の果実のみたいに赤く、ふっくらとしていた。
「見てみろレネット。ここはすっかり熟れて、見る限り甘そうだろう?」
「やぁ……」
またアクバール様から答えられないような事を問われ、私は羞恥に焼かれる。ちょうど自分も同じ事を思っていたところに口に出されて、まるで心を見透かされたみたいだ。反射的に私はギュッと視界を閉じる。
「んっああ」
ここぞとばかりに甚振られる。蕾を形をなぞるように撫でられたり、カリカリと咀嚼されたり、キュゥと吸い上げられたり、さらにもう片方の蕾を指で翻弄され、私の瞼に幾度の白い光が散る。
「あんっ、あんっ、もう……」
いつもそうだけど、そのいつもよりももっと淫猥な責め方だ。これ以上の淫楽には堪えられない。そう頭の中で渦巻いていたら、下肢奥の秘めた場所から鋭敏な感覚が襲った。
「ふっ……ぁああ――」
頭の中がぶわっと熱く飛び散り、声が盛大に上がった。張り詰めていた糸がプツリと切れ、私は体勢を崩しかけたが、実際に倒れる事はなかった。アクバール様の腕にしっかりと抱きかかえられていたからだ。
「大丈夫か?」
コクンと頷くのがやっとだった。
「力が抜けたのか。では寝台へ行こう」
そう言ってアクバール様は私をヒョコッと横抱きにした。
「!」
グルリと体勢が変わって私は目を白黒する。以前にも湯浴み上がりで抱き上げられた事はあったけれど、どうして今回もまたあられもない姿なのだろう。上半身丸出しの姿で抱き上げられるなんて嫌すぎる。
そうは思っていても、あっという間にポスッと寝台へ身を落とされ、続いてアクバール様から前屈みの体勢で見下ろされている。この雰囲気……どうみても揉みくちゃに捕食される!
――ドキドキドキ。
鼓動が忙しなく乱打する。夫婦になってから何度>同衾しても、この瞬間だけは慣れない。アクバール様の熱が孕んだ視線だけで体内に火が灯る。羞恥のあまり涙が滲みそうだ。
その下手に潤んでしまったのが却ってアクバール様の雄の本能を開花させてしまう事に気付かず。それから数え切れないほどの口づけの雨を落とされながら、私は一糸も纏わぬ姿となった。
再び愛撫が始まり濃密な時間が戻ってくる。お腹の辺りや背中やらツーと舌が這う度、私は妙な掻痒感に襲われて甘く身が悶えてしまう。何処までこの甘美な慰撫を繰り返すのだろう。
「く、くすぐったいです」
「舐める行為は動物にとって最大の愛情表現だぞ」
アクバール様から至極当然のように返された。
「アクバール様は動物ではありません」
「同じ生き物なのは変わらないだろう」
そんなの屁理屈だと思いながらも納得してしまう自分がいる。舌が触れられる度に甘だるい心地好さが生まれ、それがアクバール様からの確かな愛情だと肌で感じ取れているのだ。
全身に愛を注がれ、茂みの奥はこんもりと熱が孕んでいた。そこはまだ触れられていなかった。意識したら知らぬ間に私は下肢を摺り寄せてしまい、その微々たる行動をアクバール様は見逃さなかった。
「きゃっ」
いきなり左右の膝を胸元の位置までそれぞれ折り畳まれ、アクバール様の眼前に秘所を盛大に晒される。
「な、何を……」
とんでもない格好で大事な部分をマジマジと見つめられ、私は発火したように躯が燃え滾り、心臓がどうしようもないほど疾走している。
「さっきからシーツに染みが作られているな」
「!」
シレッとアクバール様はとんでもない事を口にした。確かに秘所に水気を感じていたけれど、シーツに滴るまでとは思わなかった。
「まだ触れていないここからのようだが気になって見ている」
「だからってこのような格好……」
ここまで嫌味なぐらい見通し良くする必要はない。羞恥と怒りで顔を真っ赤にして私はアクバール様を恨めし気に睨む。
「随分と蜜を蓄えているな。ここは>愛でていないかったな」
艶然とした笑みを浮かべているアクバール様が怖い。そして何を考えているのか彼は私の足に舌を這わせてきた。妙なところに熱が帯びて、私は未知なる感覚に震える。
「ひゃっ」
足の爪先ペロリと舐められ、口の中に含まれた時はビクッと過剰に反応した。王太子にこんな事をさせていいのかとか背徳感に苛まれる。でもアクバール様は躊躇いもなく、私の足の指を食んでいく。今までに感じた事のない快感に私は逸楽する。
「はぅ……んあっ」
零れる声が蕩けてくると、舌が上へ上へと伝ってくる。秘所に近づくにつれて肌が敏感となり、さらに声がトロトロに蕩けていく。
――物足りない。
気持ち良いのに一番触れて欲しいところに触れて貰えず、甘い熱が溜まって飢餓感を醸成させた。
――早く触れて欲しい。
まだかまだかと私は目をほっそり開けてアクバール様の動向を見つめる。それはまた下肢を>舐り尽くすアクバール様の姿を目にする事になって居た堪れない。フッと笑い声が聞こえたような気がした。
「レネット、>秘所が凄い事になっているぞ」
そう言ってアクバール様はあられもない状態のそこを見せつけてきた。
「やあっ……」
喋る息がかかるだけで快感が貫く。想像以上に秘所は凄い状態だった。下着など無意味にさせるほど、蜜が溢れ返って下肢へと流れ込んでいた。
「み、見せないで……下さい」
「これなら前戯も必要ないな」
――今すぐに愛でて欲しい。
そんなはしたない欲が口元から零れ落ちそうになる。でも口に出来ず、もどかしくて瞳に涙の膜が張る。
――気付いて欲しい。
そう瞳で訴えているのに、全くアクバール様は汲み取ってはくれない。
「そ、そこも……愛でて下さい……早く」
思いがけずない懇願をしていた。それだけ何もされないままでいるのが辛くて仕方なかった。
「焦らし過ぎたか。でもオマエから強請られるとは焦らした甲斐があったな」
そうアクバール様にしたり顔で言われて悔しい気持ちもあったが、それよりも早く満たして欲しい。そしてアクバール様は私の下着を剥ぎ取り、金色の和毛にベロッと舌を出した。その姿が淫靡でゾクリと私の躯を期待に震わせた。
「んっぁああ――――」
蓄積された快感が破裂したよう四散し、バチバチと視界が明滅した。ベロリと舌が花襞を舐め上げただけで達してしまったのだ。躯の力を根こそぎ奪われたように私は倒れ込んだ。
肩で息をしながら視界にアクバール様の顔が入る。彼は少し驚いている感じだった。いきなり私が達したからだ。それが私には粗相を犯したようで無性に恥ずかしい!
「達したようだな」
アクバール様に言われ、私は恥ずかしさのあまり近くにあった枕を手繰り寄せて真っ赤な顔を隠した。
「レネット……」
名を呼ばれても私は顔を上げられない。
「顔を隠すな」
「む、無理です」
ここは乙女心を分かって欲しいと、私は頑なに拒んだ。
「んあっ、やあん、あんっ」
私の態度に腹を立てたのかアクバール様は秘所を指で嬲り始める。クチュヌチュッと淫猥な水音と共に快楽を呼び寄せられ、せっかく枕で隠していた顔が露出する。
「それでいい。オレはオマエが感じている顔を見ていたい」
そんなハッキリと言わないで欲しい。
「下手に抗わないでいたら、もっと感じさせてやる」
「い……や」
私は口ではそう言うものの、抵抗しようと言う気持ちは湧かず大人しくしていた。それが私の答えだとアクバール様は満足げに笑い、彼は私の秘所を大胆に割って顔を埋めてきた……。