Please51「あの蜜夜のように愛されて」




「どうした急に?」
「も、もし初夜の時にアクバール様のお声が出ていたらって思ったんです」

 ――どういう言葉を囁いて愛してくれていただろうか。

 初夜はアクバール様のお声が出せなかったけれど、躯でたくさんの愛情を注いでくれた。でも甘いだけではなかった。初めての行為は不安や破瓜の痛さもあり、本当は「大丈夫」だとか「愛している」といった言葉を囁かれながら、不安を取り除いて欲しかった。

 自分がとても我儘な事を言っているのは分かっているけれど、改めて想いを重ね合った今だから、あの瞬間をもう一度やり直せたらと願ってしまう。そんな私の乙女心をアクバール様は……。

「別に構わないぞ」

 口元を綻んで答えてくれた。

 ――良かった、私の思いが伝わったんだ。

 自然と自分からも笑みが零れた。するとアクバール様がスッと私のドレスへ手をかける。

「じゃあ、あの時のように服を脱がせるぞ」
「は、はい」

 返事をすると、アクバール様に脱がされていく。私は脱がせやすいように腰を浮かせるが、自分からお願いしておきながら、心臓が爆弾を抱えたようにバクバクと脈打っていた。そしてすべて脱がされ、互いが生まれたままの姿となった。

 ――恥ずかしい。

 そう思ったら、私は無意識に胸の周りを腕で覆っていて、それをアクバール様から下ろされてしまう。何を今更だと文句を言われるかと思ったが、そうではなかった。

「純白色の綺麗な肌を隠すな」

 そっと私の胸の下に手を触れてアクバール様が囁く。情熱を秘めた瞳に見つめられ、躯が燃え上がりそうだ。

 ――意識していたつもりはないけれど……。

 初夜の日も私は中々アクバール様に裸体を晒せなくて、腕で胸を隠した覚えがある。その時もアクバール様から腕を離されて、こうやって見つめられていたんだっけ。

「初夜の日も綺麗だと思って下さったのですか?」
「あぁ。言葉には出来なかったが、雪のように美しいと思っていた」

 ジーンと熱があっという間に波紋のように広がっていく。思っていた以上に言葉にして貰える喜びは大きかったのだ。

「肌と同じぐらいここ・・も綺麗だと思ったぞ」
「きゃっ」

 アクバール様がやたら綺麗な笑みを見せたと思ったら、いきなり私を押し倒し、膝を屈折させて広げた。私の大事な部分は露出され、花びらがたっぷりと潤いを帯びて開いていた。そこをアクバール様からマジマジと覗かれ、躯が噴火してしまいそうになる。

「あ、あの……」

 さらにアクバール様の視線が集まる。沸々と淫靡な炎が燃え上がり、早く繋がりたいという欲望に漲っていた。

「綺麗だな」
「こ、ここは綺麗だと言われるような場所では……」
「オレには美しくに見えるぞ。どんな高価な宝石よりも艶を帯びて輝いている。人を誘う淫蕩な花だがな」
「!」

 アクバール様の肩に片足を掛けられ、彼の雄芯よくぼうを宛がられる。この体勢は初夜の時と一緒だ。アクバール様は初夜を再現してくれようとしている。さっきの言葉、あの時にもそう思ってくれていたのだろうか。

 ――ドクンドクンドクンッ。

 心臓の機能がおかしくなって、どうにかなりそうだ。じんわりと汗も滲む。初夜の時もこうやって緊張のあまり心臓が壊れそうだった。でも……。

 ――あっ。

 そっと額や頬に優しいキスが落ちた。その口づけが「大丈夫だ」と伝えてくれている。初夜の時と同じ。

「大丈夫だ、そう身を固くするな」

 滑らかで優しい声が私の緊張を解かしてくれる。

「は、はい」

 か細く声で答えると、私達は互いの指を絡めた。力強く握られ大丈夫だという思いが伝わってくる。この瞬間、本当に初夜の時間が戻って来たように感じた。

「ふぁっ」

 グッと熱を渦巻いた楔が花びらを押し開いて沈んでくる。秘所は熱杭を受け入れられるぐらい潤い切っている筈なのに、物凄い圧迫感がある。おまけに僅かな痛みまで感じる。

 ――嘘、少し久しぶりだから?

 アクバール様も滑りが良くないのか、息を詰めている様子だった。一瞬、これも演出なのかと思ったが、握られている手に力を込められて違うという事に気付いた。思ったよりも私の緊張が強くて強張っているのかもしれない。

「レネット……」

 うわ言のように名を呟かれ、ドキリと私の鼓動が高鳴った。甘やかに懇願する声音に躯の芯がズクンッと疼いた。その途端、

「ふぁあっ」

 勢い良く熱杭が埋没し躯が仰け反りそうになったが、すぐにアクバール様に腰を掴まれて楔が躍動を始める。

「んあっ」

 一突きされただけで、ぶわっと愉楽の嵐が渦巻く。少しの間、繋がっていなかった分が纏めて押し寄せてきた。それは抽挿される度に伝播していき、あっという間に私は快楽に憑りつかれた。さっきまでの圧迫感は嘘のように消えている。

「レネット、気持ちいいか?」

 アクバール様は緩慢な腰の動きで、私の様子を窺っていた。問われて私はコクンコクンと頷く。決して激しい動きをされているわけではないのに、際限なく快感が生み出され、口元から蕩け切った声を洩れる。

「あんっ、はぁ……ん、あん」

 抽挿の一つ一つに愛情と快感が吹き込まれ、それらは一突き重なる事に膨れ上がっていく。ゆっくりと時間をかけて、それこそ愛でるように優しく潤沢な愛に包まれていた。サディスティックなアクバール様には珍しい愛し方だ……。

 ――あぁそうだ、唯一初めて繋がった時もこうだった。

 あの時の私は破瓜の痛さに涙していた。アクバール様は何も喋れないし、正直恐怖にさえ感じた。それでも彼は根気強く私が快感を得るのを待っていた。その成果が実って次第に私の躯は快楽へと染まっていった。

「やはりレネットの中は温かいな」

 そう心地好さそうに呟くアクバール様の笑みは咲き誇る花のように美しかった。彼は初夜の時のように愛そうとしている。蕩けるようなキスを繰り返したり、敏感な蕾を嬲って双丘を揉み立てたりと、様々な愛撫で私の快感を引き出していく。

「あんっ、ああん、ふああん」

 触れられる場所すべてが気持ち好くて、この上ない悦予だった。でもアクバール様の方は楔が凄い熱をもっていて飽和状態のように感じる。

 ――もしかして我慢しているの?

 初夜を意識して激しい動きを控えているのかもしれない。その彼の気遣いを汲み取った時、私はとんでもない事を口にしていた。

「も、もっと……は、激しく……して……下さい」

 大胆なセリフが出て驚いた。アクバール様も目を瞠って驚いている。言った後、私は羞恥に身が焦がされそうになり、今の言葉を取り消したい気分となったが、時は遅くアクバール様の劣情に火を点けていた。

「あうっ、あんっ」

 瞬く間に楔は情熱の炎となって猛禽の如く膣内を蠢き始める。アクバール様の上体はなだれ、私達は抱き合う姿勢となった。密着している分、穿つ距離が短くなり、鋼のような熱塊が膣内を焼き尽くす。

 そこにキスの雨を降り落とされるが、穿つ動きが激しく上手く舌が噛み合わない。私は合わせようとして、アクバール様の首へ腕を回すと、唇に吸い付かれ口内を荒々しく蹂躙される。口元から唾液が滴っていく。

 はたから見れば私達は野性の獣のように求め合い、一瞬の快感も逃さまいと貪っていた。下の唇も溶けゆくように泥濘んでいて互いが深く耽溺し、暫くの間、私達はその体勢のまま愛し合った。

 それから唇が離れた時、見上げたアクバール様の姿がゾッとするほど凄艶せいえんで、一目で彼が私の中で感じていた事が分かった。女の私でさえ、ここまでの色香は放てない。

「アクバール……様も……気持ち…いいですか?」

 私が問うとアクバール様は上体を起こして答える。

「あぁ。オマエのここ・・は初夜の時から、初めてとは思えないほど馴染んで絡みついていたな。今ではすっかりとオレの形を覚え、嬉しさにずっと蜜を湛えているぞ」
「あんっ、いやぁっ」

 恥ずかしい言葉と共に、グッと足を高く広げられて結合部を丸見えにされる。熱杭が内奥を突き刺し、グヂュグヂュと淫音がリズミカルに奏でる。

「オマエの躯に咲く花はどれも甘美だが、乱れても尚も一層美しいのはやはりオマエ自身だな」

 私の嬌声を上げ乱れている姿を見て、さらにアクバール様は散らそうとしている。なんて答えたらいいのか分からずにいると、アクバール様がグッと息を詰める声が聞こえて、膣内にも圧迫を感じた。

「んあっ」

 突然アクバール様が私ごと体勢を起こしてきた。ギュッと結合部はOXされ、バチバチと愉悦が閃く。今度は上体を起こして抱き合う形となった。一瞬で体勢が変わり、奥深くに熱杭が突き刺さるように当たる。

「やあっ、ふ、深いっ、」
「初めての時もこれはやったろ?」

 嫌々と駄々をこねるような私にアクバール様は容赦なく責める。そして私の躯に淫靡な華を散らしていく。ずっと躯が跳ね上がって私の視界は歪んでいた。しっかりとアクバール様にしがみついていないと振り落とされそうで怖かった。

 突かれる度に快感が上へ上へと昇り、血液が沸々と煮えるように熱く、呼吸は逼迫したように苦しい。それでも桁外れな快感が私を絶頂の果てへいなざおうとしていた。

「あんっ、あん、やぁあん……」
「はぁはぁ……」
 私のよがり声とアクバール様の甘美な吐息が静寂な寝室を支配する。私は脳が煮崩れしてしまうほど、快感に陶酔していた。

「レネット、そんなに離れていた時間が淋しかったのか? 今日はやたら絡みついてくるな?」
「ち、ちがっ……」

 咄嗟に否定がしたが惜しむように彼に絡んでいるのが分かる。離れていた時間が淋しかったのもあるけれど、それ以上に抱く幸福に躯が打ち震えている。今、私は全身で幸せを感じているのだ。

「言葉がなくてもオマエから愛は伝わってくるが、やはり言葉にして貰えないか?」
「んあっ、あん?」

 切望するアクバール様の眼差しに私は息を呑み、フッと口元を緩めた。愛が、幸せが溢れているのは私だけではないようだ。アクバール様も以心伝心されている。

「愛して……おります、アクバール様」

 私が一生涯かけて愛したいと願った大事な旦那様だ。初めて繋がったあの瞬間より、もっと深く強く私はアクバール様を愛している。そして私の答えに、アクバール様は至極満悦な笑みを広げた。

「オマエが愛してくれるのであれば、オレは呪いすら恐れない。オレの未来はオマエそのものだ。愛している、レネット」
「アクバール様……」

 この瞬間、本当の意味で身も心も溶け合って私達は一つになれた。

「ふあっ」

 そしてズンッと楔が深部を貫いた。それが快楽の最果てへ誘う合図だと察する。

「あんっあん、んあぁっ」
「はぁはぁ……」

 獣のように熱く獰猛に蠢く剛直に何度も貫かれ、膣内は快楽の渦を巻き起こし、そのまま澎湃ほうはいする勢いで、私達は共に一線を越えて快楽の最果てへと流れ込んだ。

「ふっぁああ――――!!」

 熱が盛大に弾け、私は何とも言えない幸せの絶頂を感じていた。それはドクドクと膣内全体へと放散された精によって形づけられる。私達が愛し合った情液は結合部から溢れて互いの肌に流れていく。

「レネット、大丈夫か?」

 私をしっかりと抱き支えながらアクバール様が問う。

「は……い、な……んとか」

 私は途切れ途切れながら答えた。今の呼気の苦しさも愛情の一部なのだと幸せを感じる。それからゆっくり躯を寝台に預けられた。

「なぁ、初夜はこれでオレの声が戻ったよな?」
「はい……そうでしたね」

 ――思っていた人柄と違ってビックリしたけれど。

「ならあの日と同じようにしていいか?」
「!? ……だ、駄目です!」

 あの日と同じになったら、私はアクバール様にもみくちゃにされてしまうのではないか!

「きゃ!」

 断ったのにアクバール様はギュッと私の躯を包み込んできた。彼はヤル気満々ではないか!

「もう! アクバール様!」
「安心しろ、今日はこうやってオマエを抱いて寝るだけだ」
「……そ、そうですか」

 ――は、恥ずかしい勘違いをしてしまった。

「なんだ、物足りないと思ったか?」
「気のせいです!」

 シレッとアクバール様がまたとんでもない事を言うから、油断出来ないと思ったけれど、本当にもみくちゃにされる事はなく、私達は眠るまでひたすらイチャコラしていた。それがとても幸せで、かけがえのない時間であった……。





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