Please50「蕩ける愛をもう一度」
早くも私は寝台の上でアクバール様に組み敷かれ、色事を始められていた。ほんの少し前に口内をふわふわに蕩かされたというのに、今度は耳朶に肉厚の舌を這わせられ、蜜よりもずっと甘い言葉や色声で、たっぷりと甘漬けにされた。
それから首筋に舌が滑り落ち、次々に赤い華を散らされる。所有や独占を表す紅の色華。こちらとしてはちゅくっと痛みを伴うし、人目に触れられると羞恥に苛まれるから控えて欲しいのに。……そこにだ。
「レネットの純白の肌に赤い華は美しく映えるな。まさにこの上ない芸術品だ」
こうやって瘙痒感が湧くようなセリフをアクバール様は惜しまなく囁く。こんな芸術品とても人前では見せられないし、そもそもこれは芸術と言われるようなものではなく、淫靡な華という名が相応しい。
「誰の目にも触れられないオレだけの秘宝だ」
もう胸がいっぱいだ。散々と羞恥に燃え焦がされていた。
「次はどの花を咲かせようか」
喜悦に歪むアクバール様の表情はとんだ色気を孕んでいて、私の躯を甘く震わせる。うぅ~今の彼はじわじわと私を追い込んで愉しんでいる獣だ。その行動はどんどんエスカレートしていく。
「あっ……」
ドレスの胸元を大胆に開かされ、乳房がコロンと転び出た。
「次はここだな」
狙いを定めたアクバール様は私の桃色の蕾を弾く。
「はぅ、やんっ」
口元から艶を孕んだ声が零れた。数日間、触れられていないからか敏感に反応してしまう。そしてアクバール様の手によって自由に踊らされる。
「はぁ……ぁあん、やぁんっ」
卑猥な手つきで淫らな形に歪まされる乳房を見る度、羞恥に襲われ、その逃げ道が見つからず、私はひたすら甘やかな声を零し続ける。その間、躯の芯がズクンズクンと脈打つように騒いでいた。
アクバール様は乳房の重さを愉しむように捏ねくり回しているが、目的の蕾には触れてこない。焦らし効果なのか、それともお愉しみは最後まで取っておこうとしているのか分からないが、私自身は飢餓感が膨れてもどかしかった。
「そろそろこの蕾を咲かせないとな。レネットがもどかしそうだ」
アクバール様がニンマリとした笑みを浮かべるのを見て、私は焦らされていた事に気付いた。
「そ、そんな事は……あうっ」
蕾をグッと押されてグルリと豪邸らされると、鋭い快感が迸り、思考がちりぢりとなる。アクバール様は私の反応が思った通りだった事に気を悦くしたのか、その場所をじっくりと嬲る。
「やっ、やあっ……」
羞恥のあまり私は嫌を口に出すが、アクバール様の勢いは増していく。優しく摘まんでクニクニしたり、繊細な手つきで撫で廻したり、ツンツンと弾き飛ばしたり、試行錯誤をしているように弄ぶ。
「なかなか花が咲かないな」
アクバール様は本気でそんな事を思って蕾を弄っているのだろうか。
「そこ……は……花が咲く……場所では……ありません」
「そうか? しっかりと水と肥料を与えれば咲くだろ? さぞ極上の花なのだろうな」
――うぅ、また訳の分からない解釈が……。
そんな事を突っ込んでいた私だが、言葉の裏を考えなかったのが迂闊だった。灼けつくような視線で乳頭を見つめられ、双丘をぎゅむっと内側へと手繰り寄せられた。
「な、何を! はぅっ!」
二つの蕾をピタリと摺り寄せ一気に口の中に含んで扱かれる。鮮やかな快感に弾け、目が眩みそうになった。すぐに意識を取り戻そうにも、次々と痺れが孕んでいき、私は行き場を失って悶える他なかった。
今はあの飢餓感が嘘のように消え、代わりに快感が膨れ上がって躯は官能の色へと染まっていく。遥かに感度も上がっていた。羞恥にも敏感で何故こんなに面映いのだろうか。まるで初夜の時を彷彿させる。
――ああ、そうだ。
あの時のように心からアクバール様を愛しているからだ。心が蘇ってくると、新鮮な気持ちが湧いて幸福感を抱く。その嬉しさが溢れて躯が敏感になっているんだ。すべてはアクバール様を愛しているが故……。
「花咲く前のように形づき赤く色づいたな」
唾液が水で舌が肥料とでも言いたいのだろうか。確かに乳頭は芯をもって立ち、雄を誘うような色へ変わっていた。
「このまま愛で続ければ、立派な花が咲きそうだ」
アクバール様はやにわに乳頭を唇と歯で挟んで吸い上げ、さらに舌で転がす。
「ふあっ!」
花が咲くというのはあくまでも比喩であって、本当の意味は私を性の色へと染める事だ。愛でるという言葉を聞いて肥料を注がれているのかと思うと、気持ちが嬉しさに揺れ、自分もご都合主義者だと自覚した。
「あんっ、はぁあんっ、やぁあ……」
この時点で理性なんてものは引き剥がされ、私は羞恥の殻を破って感じるままに喘いだ。
「このまま極上の花を咲かせ、レネット」
私の絶頂が近くまできている事に気付いたアクバール様は、さらに卑猥な水音を鳴らし、乳頭を縦横無尽に舐る。瞬く間に私の躯はビクビクッと痙攣を起こし、絶頂の極まで突き上げられた。
「ふっ……ぁあああ――――」
甲高い声で叫ぶと、意識が盛大に吹き飛ばされた。視界が何も映らない。躯が快感の残滓に震える。私は荒々しく肩で息をしながら、躯が弛緩していくのを待った。
「いつもより派手に達したな。そんなに悦かったのか?」
アクバール様がヒョコッとお顔を覗かせて、また恥ずかしい事をためらいもなく訊いてきた。私は呼吸が苦しいフリをして答えなかった。でも顔の赤さまでは隠せなくて、また突っ込まれてしまう。
「そうか、悦かったんだな」
何も答えていないのに勝手に解釈された。アクバール様はとてもご機嫌が麗しい。そして何を思ったのか勝手に人のドレスの裾を上げ、手を忍ばせてきた。
「な、何をなさるのですか!」
「あれだけ派手に達したら、下の花が凄い事になっているだろ?」
「!!」
――し、下の花って……。
言われて下肢からドロリとした感触に気付いた。
――確かに凄い事になっている!
いつの間にこんな状態になっていたのだろうか! 事実で否定出来ないのが悔しい。
「お、お止め下さい……きゃっ」
「止めてはないだろ? 思った通り凄い状態になっているぞ。この下着は使い物にならないな」
「~~~~」
大っぴらに足を左右に広げられ、私は声にならない声で唸る。生理現象とはいえ今日の状態は酷い!
「こんなにグッショリ濡れた状態で穿いているのは気持ち悪いだろ? 脱がせてやる」
「ひゃっ!」
アクバール様が無理に私の下着を脱がそうとしたから、反射的に私は起き上がって下着を死守する。
「なんだ、ここまで来て往生際の悪い奴だな。あ、そうか自分で脱ぎたかったのか?」
「ち、違います!」
「違うなら脱がせてやる」
「あっ!」
私は躯を捻って不格好になりながらも、アクバール様の手を止めようとした。互いに負けじとなり、咄嗟に背を向けてしまったのが決め手となった。アクバール様にスルリと下着を膝まで下ろされてしまった!
「そうか、今日は後ろから責めて欲しかったのか」
「!!」
「ほれ膝立てしろ、このまま後ろから愛でてやる」
「あっ、いや」
強制的に四つん這いの体勢でお尻を剥き出しにされる。
――や、やだっ! こんな格好!
四肢の動物のような恰好で、こんな淫虐をされて全身が羞恥の炎に炙られそうだ。
「やっぱり蜜壺が凄いな。金色の茂みがグッショリと濡れているぞ」
アクバール様は私の秘所を視姦して追い打ちをかける。私はカァーと顔に血が流れ込んでくるように熱い。
「触れてもいないのにオレを誘うようにヒクついているぞ」
「そ、その……ような……事……」
否定する間もなく、アクバール様の舌が私の蜜口に吸い付いた。舌が茂みの中を蹂躙し、総毛立つような感覚に襲われる。
「ああっ! いやぁんっ、やぁあっ」
肉厚が蜜壺を開いて快感を生み出す。私は嫌々と口に出すが、蝶が甘やかな花の蜜を啜るようにむしゃぶられ、芯から蕩けそうな夢心地にいた。
「レネット、そうせっつくな」
「な、何を……言って」
「気付いていないのか? 腰が煽情的に動いているぞ」
「やあっ!」
快感に堪えられなく勝手に動いてしまう。私ははしたいと思いながらもこの愛でるような愛撫に惹かれていた。嫌という抗う声も喜悦に彩られ、本来の意味をなさなくなった。抵抗を失った私に舌が熱く猛って奥へ侵食していく。
「はぁあんっ、あんあん」
みだりがましい声が大きくなっていくと、呼吸が追い付かなくなって苦しい。それでも淫虐は繰り返され、蜜中はすっかりトロトロに蕩けて快感の極みへと昇っていた。
「ひゃぁああ」
突然繊細な手つきで花芯を弾かれ、神経を切るような衝撃が巡って意識を根こそぎもっていかれそうになった。
「目的のこの花を咲かせていなかったな」
「あんっあんっ……もう……十分……です」
「オレはこの花が綻ぶ姿を見たいぞ。秘めた場所にある花だ。さぞ美しいだろうな」
「あぁんっ! 駄目!」
グニッと花芯が押し潰され、世界がグルリと一転した。血液が沸々と騒ぎ出し、全身が紅潮としていく。そして言葉の形が崩れるほど駄目と悶えても、何度も花芯を扱かれる。腰の動きも止まらなくなって、これじゃ痴態だ。
「はぁんっ、あぁんっ、いやぁっ」
私はえずくように嬌声を上げ、あまりの享楽に焦点さえ失っていた。
「花芽が芯をもって立って膨らんできたぞ。間もなく立派な花が咲きそうだ」
アクバール様は指で花芯を震わせ、舌で蜜中を舐り回し、秘所全体を支配した。とうとう花芯は綻び、絶頂という名の花を咲かせようとする。
――あぁ、もうまたくる!
二度目の絶頂が這い上がってくる。底知れない快感が滝のように流れ込んできて、私の躯をあっという間に呑み込んだ。真っ白な世界に躯が放り投げられ、私は快感の極みへと達した。
「ふっぁあああ――――」
躯の力を失った私はバタンと倒れ込んで機能を失う。まだ全身がヒクヒクと痙攣していて感覚がおかしい。二度目の絶頂だからか回復に時間がかかるようだ。私はチラリとアクバール様の方へ目を向ける。
――ひゃっ!!
一瞬、呼吸する概念を忘れそうになった。だってアクバール様が美しい裸体姿でいたから。
――いつの間に全部脱いでいたの!
私が呼気を整えている間に、彼は器用に脱ぎ終えていたようだ。しかも……随分と雄の象徴が、す、凄いんですけど! 大きく膨れて立派に天を仰いでいる! ある意味、芸術さを感じさせるほど立派だ!
――うっ……。
ほんの少しそれを見ただけで情欲が騒ぎ出す。これじゃ期待しているみたいだ。私はそっと雄芯から視線を逸した。
「レネット……」
とんだ熱を秘めた声色で名を呼ばれて、私の心臓は飛び上がった。
「もう少し時間をかけて愛撫するつもりだったが、これ以上は無理だ。すぐにオマエの中に鎮めたい」
そうアクバール様は私の上へ圧し掛かってきた。
「いいか? レネット」
私は体勢を仰向けにされ、アクバール様に真摯な眼差しを向けられる。
――ドクンドクンドクンッ。
心臓が蠢くように走り出す。
――ど、どうしたんだろう。この感覚……。
また初夜の既視感だ。あの時もこうやって心臓がバクバクと音を立てて、失神してしまいそうだったのだ。
「アクバール様、お願いがございます」
「なんだ、急に?」
「あの……初夜のやり直しをしたいんです」