Please22「甘美な夢心地へ」
躯が落ち着いてきても頭の中はボーッとしていて、瞳も恍惚に潤み視界が朧げであった。すっかりと力が抜けた私はアクバール様に縋るように身を預けていた。
「夢心地を味わえたようだな?」
「え?」
頃合いをみてか、アクバール様から声を掛けられた。
――夢心地って……あっ。
そういえば、脱衣室で彼は言っていた。
『寝台よりももっと最高の夢心地を味わわせてやる』
それを思い出して躯がジワジワと熱に蝕まれていく。おまけに今の彼の声色と表情から、また人の羞恥心を面白おかしくからかおうとしている魂胆が見え見えだ。
「そ、そんな事は!」
羞恥を刺激され、咄嗟に出した言葉に私はしまったと、すぐに後悔する。もっと考えて口にしないと、また恐ろしい事になるというのに……。
「そうか。夢心地は祝宴会を頑張ったオマエへの褒美のつもりだったんだが、満足してもらえなかったようだな。ではまた別の褒美をやろう」
「け、結構です! お気持ちだけで十分です!」
――や、やっぱり!
アクバール様がそう簡単に引き下げるわけがなかった。キッパリ断ったというのに、彼の心には全く届いておらず、また勝手に私を湯槽の上へと座らせ、自分は膝立ての体勢で私の目の前にいる。
「な、何するんですか!」
「ほれ、足を開け」
「な、何を考えているんですか!」
座らせるだけではなく、さらに足まで開かせようとしている。二つの膨らみが見えているだけでも、とんだ恥ずかしい思いをさせられているというのに、これ以上の羞恥があって堪りますか! しかし、私の思いとは裏腹にアクバール様は事を進めようとしていた。
「コイツはもう役目を果たしていないだろう。脱いでしまえ」
そう勝手に独断したアクバール様は残っていたショーツ に手を掛け、それを無理に脱がせようとするものだから、私はショーツを掴み意固地になって、腰を浮かせまいとお尻に力を入れていた。
そんな抵抗も虚しく、アクバール様はいとも簡単に私のショーツを剥ぎ取ってしまった! 水分を含んだショーツなんてとっても脱がせにくい筈なのに、なんて器用な手先なのだろうか!
「きゃっ! お止 め下さい!」
ここまでくればオレの勝ちだと言わんばかりに、アクバール様は強気な態度で、私の足を閉じられないよう、しっかりと抑え込んでいた。秘所にネットリとした視線を注がれ、私は得も言われぬ思いを抱いて彼の様子を見つめる。
――ドクンドクンドクンッ。
心臓の音が耳朶の奥を強く打ち突ける。そして羞恥に見舞われ躯全体が粟立っていた。
「ふっ」
ここでアクバール様が口元を破顔した。とってもとっても嫌な予感……。
「レネット、ここ が蜜を垂らして、随分とひしゃげた形になっているぞ」
「!」
「おまけに花襞が切な気に呻っているな」
「!?」
アクバール様はマジマジと人の花園を観察して状態を説明する。おまけに何がそんなに嬉しいの? というほどニヤついて。そんな行動も発言も大問題だ!
「誰がそうさせたんですか!」
アクバール様が散々そこを痛めつけるから形が変わったんだろうし、悲鳴まで上げているのだ。私は羞恥を通り越して憤りを感じていた。
「次は最高の夢心地を味わうか? それとももう少し別を味見してみるか?」
「!」
アクバール様は都合の悪い事には答えず、また話を自分の都合の良い方向へともっていこうとしていた。
――最高の夢心地ってあれ よね。さ、最後に行くかって事でしょ? 別の味見ってのは何なのよ?
真面目に考えたのが馬鹿だった。すぐにどちらもいらないと答えれば良かったのに、黙ってしまったその間(ま)が、アクバール様には私がどちらがいいのか悩んでいると思われてしまったようだ。
「悩ませるぐらいなら、どちらもやってやる」
「え?」
――な、なんでそんな話になるの!?
ポカンとしていたほんの少しの間に、脚を大きく開かされ僅かに腰が浮く。私は小さく悲鳴を上げ、アクバール様の躯を押し退けようとしたが、それよりも早く彼の腕が私の足に絡んで引き寄せられた。
秘めやかな場所にアクバール様の舌が滑 らかな動きで淫技を始める。湯で柔らかになっているその場所はいつも以上に敏感となっていて、吐息がかかるだけでも酷く反応してしまう。
そこにたっぷりと潤いを帯びたアクバール様の舌が秘所の表面を這い回り、愉悦が迸って私は快楽の衝撃に何度も弾けていた。それから舌は探求心をもって花びらを押し開いて膣内へと侵入してきた。
「あんっ、あぁんっ」
広い浴室が自分のみだりがましい声一色に染まって響き、アクバール様の官能に火を煽り立てる。蜜が溢れているとはいえ、まだまだ隘路といえる内部を舌は確実に解して開いていく。
そして湯気や淫蜜や唾液など、色々な水気が混ざり合って秘所全体がどんどん泥濘んでいく。巧みな舌技が快楽の連鎖を生み出し、それが絶え間なく躯中へと這い上がり、嫌だ嫌だと否んでいた気持ちまでふやけてしまって、今やスッカリと私は惑溺していた。
一定のリズムを保って快感を与えられていた為、早くも二度目の法悦が近い事を感じ取った。それからどんどん熱気で躯が上気していき、躯が熱くて熱くて堪らない。そこでずっと閉じていた瞼をそっと開いてみた。すると……。
「……っ」
私の秘所を舐 って味わい尽くしているアクバール様の姿を目にして、私はあえかな声を洩らした。男性なのになんて艶めかしいのだろうか。湯水に濡れ色艶のある姿はまさに水に滴 る良い男と言える。
そんな艶美な彼の前で、今私は足を大きく開いて大事な花園を嬲られている。そんな淫靡な行為をしている彼さえも美しく見えてしまうなんて、私はもうどうかしている。何とも言いようのない感情に困惑していた時だ。
――!
ふとアクバール様と目が合い、心臓がドクンッと荒波に打たれた。躯が新たにジワジワと羞恥の色に染まっていって、息苦しいとさえ思えた。妙に恥ずかしくて私は彼から視線を逸らす。
「んぁあっ!」
頭の中で峻烈 な閃光が散り、躯が飛ばされたように仰け反る。ここでベロリと花芽を震わせられるとは思わなかった。あまりの衝撃に私はアクバール様から離れようと身を捩るが、より舌が密着し、躯に苛烈な痺れが走って思うように動かない。
「い……やぁあっ」
花芽が何度も何度も震え上がり、もう堪えられないと悲鳴を上げているのに、それでもアクバール様の舌は縦横無尽に舐 って蹂躙し続ける。ガクガクと足は竦むように震え、ぶわりと溢れる涙が熱くて切ない。
「も……う……止 め……て」
私は声を絞り出して懇願する。これがもう最後の理性だ。これを手放したら、きっと私は快楽の海から抜け出せなくなる。私の声に意外にもアクバール様は耳を傾けようとしたのか、嬲りを中断して何故か秘所をジッと見つめている。
「散っているルージュの花びらより、オマエのここの方がよっぽど香りが濃密で心惹かれる。この上ない花だ」
――キュ~ン。
うぅ~、不覚にも今のアクバール様のくさいセリフに胸がキュンとしてしまった自分はなんて愚かなのだろうか。普段ならあんな過分な言葉は引いてしまうところなのに、妙に胸が高鳴ってしまった。
そういう歯の浮くようなセリフも、アクバール様なら様になってしまうのだ。今のキザな言葉で、私の視界を霞ませていた涙が綺麗サッパリと引っ込んでしまった。そこにさらなる言葉を拾い上げる。
「オレだけしか知らない、オレだけの花だ」
――え?
再び心臓がドクンッと大きく音を立てた。目の色を変えて呟いたアクバール様の姿に私は戦慄く。すぐに花芽の包皮を剥かれ、ひっそりと身を潜めていた実が頭を擡 げてしまった! その実をアクバール様が甘く噛みつく。
「んあっ!」
花芽が大きく脈打ち、同時にビリビリと電流が脳天を駆け抜けた。最も繊細な場所に強烈な刺激を与えられ、白い世界が垣間見えた。ほんの少し舌が触れただけで、細胞に刻み込むような衝撃が走る。
「だ……だめ……そ……そこは……」
「この淫蜜も、この実もすべてオレのものだ」
先程からアクバール様は自分に言い聞かせるようにして呟いていた。独占欲とも受け取れる力強い言葉が、私の躯の芯を疼かせ、ヂュゥヂュゥ吸われて生じる快感と共振して大きく震わせる。
「も……う……だ……めっ」
高みはあっという間に目の前までやってきた。身に何も包んでいない花芽への刺激は一溜まりもない。あぁ、もう来る。下肢から駆け上がってくる激浪が躯全体を収縮させ、
「ふっぁああ――――!!」
意識ごと嵐に呑み込まれた私は最後に我を忘れて声を張り上げた。一度達したというのに、最初よりももっと派手に達してしまった。呼吸も躯も燃えるように熱いのに、骨が無くなったように力が抜け落ちて、気にする余裕もなかった。
そして躯がダランと崩れ落ちそうになった躯をアクバール様が支え、そのまま優しく包み込む。その安堵感のある腕の中で、私は荒々しい呼気を整えていく。呼吸が落ち着いてくると、意識を手放して夢の世界へと浸っていたい気持ちになった。
――このまま寝落ちたら最高の夢が見られそう。
ホワンとした気持ちになった私は静かに瞼を閉じた。
――後の事はアクバール様に任せて……。
なんてそんな都合の良い話にはなるわけがなかった。
「レネット、最後の夢心地を残して寝るな」
――え?
アクバール様から話し掛けられて、手放す寸前だった意識が呼び戻される。
「え? あの最後の夢心地とは何でしょうか?」
眠気で朦朧とする頭で考えようとするが、妙な予感しかしないんだけど……。
「決まっているだろ。オレと一緒に夢心地へいくぞ」
「!?」
今のアクバール様の言葉で、完全に目が醒めてしまった。
――うぅ~、下肢辺りになんだかとても威勢の良い物 を感じるんですけど……。
思わずチラッと視線を落としそうになったけれど、敢えて私は見ないように行動に制止をかけた! 今の>あれ を目にしてものなら、悲鳴を上げてしまうだろう。
「本当の褒美はこれからだ」
色香を放って美しい笑みを見せるアクバー様の姿に、
――人を惑わす淫魔がいる。
私はそう本気で思った。
