Please7「ご奉仕実行の夜」
――本当に教えられた通りの事をすれば、呪いは解かれるの?
先に寝台に入っていた私は枕を握りながら、今日の出来事を振り返っていた。それは勿論、デリュージュ神殿で出会ったあの魔法使いから教わった呪解の事だ。
――今から言う内容のすべてを行う事が必須条件です。
その方法があまりにも度胆を抜かされる内容で、聞いていた時の私の思考は完全に停止していた。生まれてこの方、耳にした事のない内容ばかりで、そんな事を世の中の男女が行っているのかと耳を疑ったほどだ。
有り得ない。とにかく有り得ない! あんな事をどうやってやればいいのよ! しかも奉仕の内容を予めアクバール様に話をしてしまうと、呪いは永遠に解かれなくなるという。なんと頭の悩ましい。
あの魔法使いは本当にとち狂っていたんだ。そんな人に呪いをかけられたアクバール様も心底気の毒でならない。あ~、でも一刻も早く呪いを解いて、アクバール様も私も自由の身にならなくては!
――数十分後。
お風呂から上がってきたアクバール様の姿を目にした私は心臓が胸の外へと飛び出すかのように激しい鼓動を打つ。バス上がりの湿った彼の寝衣姿は色香を放っていて、余計にドキドキが止まない。
それでもって、これから私は例の奉仕を実践しなければならないのだ。鼓動が切迫し過ぎて、途中で気絶してしまうのではないかと懸念すら抱いてしまう。
――あー、既にもうクラクラとして気絶してしまいそう。
頭を抱えるようにして俯いていると、ふと気配を感じる。目の前が翳ったと思ったら、アクバール様がいたのだ。いつの間に寝台へと入ったのだろうか。
――本当になんて綺麗な男性だろう。
数秒見つめ合うだけで、躯がジワジワと火照り始めてくる。
「どうした? 今日はいやに恍惚とした表情をしているな? もしかして誘っているのか?」
アクバール様からなんとも艶めかしい笑みで言われる。どうやら急に熱を帯び始めた私の表情は欲情の色を現していたようだ。あ~、不覚でならない。
「そんな筈ないではないですか!」と、反論するつもりが、彼の色情を感じさせる姿と有り得ない奉仕の件で、複雑な感情が入り混じっていた私は自分でも信じられない行動をとった。
自ら手を伸ばし、アクバール様の首に腕を回して彼へと躯を委ねる。そしてそのまま自然な流れで、彼に口づけを落とした。こんな大胆な事をするのも、すべてあんなとんでもない話が出たからだ。
自分からこんな事をするなんて恥ずかしくて、穴があったら一生出たくない気持ちであったが、これも呪いを解く今日までだと自分に言い聞かせた。アクバール様と共に自由を手に入れたら、別々の道を歩む、そう私は決めていた。だから覚悟をもって彼に奉仕をする。
「んっ……ぁ……んんっ」
濃厚に絡み合う舌は快感を追うように、お互いの口内を軽やかに舞っていた。この数日で私の口づけも少しは上達したようだ。時を忘れるように口づけに没頭していれば、お互いの息が荒くなり、その内に唾液が口元から零れるようになった。
これまでにも激しい口づけはされていたけれど、今日はまた一段と火が点いたように熱い。初めて私から求めた口づけに、アクバール様も興奮をされているのかもしれない。そう思えば、なんだか歯痒い気持ちとなった。
時間が経つにつれ激しさが増していき、鼻呼吸でも追い付かなくなって、苦しさのあまり口元を離してしまう。それに名残り惜しそうな表情をされるアクバール様を目にして、躯がズクッと疼いた。
「今日はどうした?」
問われて私は言葉に詰まる。アクバール様からの熱い視線をヒリヒリと肌で感じていたが、私は視線を泳がせ、頭の中でベストな答えを探り出す。
「今日はその……感情が高まっていまして」
「そうか」
え? 今の曖昧な答え方で、アクバール様は納得をされたのだろうか。
「ひゃぁあっ」
意表を突かれた私は驚きの声を上げた。いつの間にか、私の夜着の裏へと回ったアクバール様の手が秘所を襲う。それからショーツの上から秘所全体を弾くようにして擦られていく。
「あんっ、い……きなり」
「疼いて仕方ないみたいだな? 既に湿っている」
「やぁっ、そ……そんな事は……んあっ!」
ズンッと指を深められ、抽迭が始まってしまう。
「あん、あんっ、ま、待って……」
「口は頑固のようだが、躯は待てないだろう?」
「そ、そうでは……なくて」
このまま私が気持ち良くなっている場合ではない。私がアクバール様に奉仕しなければ意味がないのだ。自分の理性が残っている内に事を済ませなければ。私はアクバール様の瞳をしっかりと捉え伝える。
「きょ、今日は私がアクバール様にご奉仕をします」
「?」
彼の大きな双眸が大きく揺れる。顔を紅葉のように真っ赤にして伝えた私は消えて無くなりたかった。
「レネット、今の言葉の意味を分かって言ったのか?」
「は、はい」
アクバール様も私のような経験のない女子がとんだ言葉を飛ばしたと驚きだろう。でも冗談でこんな恥ずかしい事が言えるものかと私は開き直っていた。呪いを解くには二つの行いをしなければならない。その一つ目が……。
――まずは主人の雄芯を満遍なく愛撫しなさい。
であった。私の答えを確認したアクバール様は一度寝台から離れ、素早く脱衣された。彼の裸体が眩しく映る。贅肉はひとかけらもなく、念入りに鍛え上げられている精悍な躯つきに雄々しさを感じた。
この逞しい躯に私は毎夜抱かれているのかと改めて思うと、また体内に熱が集中し始める。そんな事を感じている間にも、寝台へと腰を掛けるアクバール様が足を開く。開かれた先に私が要求を出した男性器が威風した姿で現れていた。
目を瞑りたくなる。いくらこの一週間、アレが自分の躯と繋がっていたものであっても、殆ど燭台の灯りが消えている中で出されていたのだ。今みたいにこんな明るい場所で、マジマジと目にするのは初めてだ。
「レネット……」
アクバール様から求められるような甘い声で名を呼ばれ、彼から誘われているのが分かる。私は意を決して彼の前までいき、腰を落とす。そして猛々しい雄芯を間近にする。
――こ、これは?
例えようのない生き物が屹立していた。こ、こんなものを男性は常に躯の一部としてもっているの? 今は姿形が変わっているから、尚そう思うのかもしれないけど、と、とにかく、私の目には刺激が強すぎであった。
「どう奉仕してくれる?」
アクバール様から雄芯を突き出され、促されているのが分かった。私は高鳴る心臓の音と共に楔を手にする。
――うわっ。
強調するかのように膨張しているソレは熱をもって脈打っていた。本当に躯の一部? というか別の生き物に思えるぐらい生々しい。
――ひ、怯んでいる場合ではない。
私は魔法使いに言われた事を思い出し、まずは亀頭の下部を握り、皮ごと上下に擦っていく。
――確か動きが途切れない方が気持ち良くなると言っていたかな?
拙い動きではあったが私は懸命にしごいていた。次に亀頭の根元部分を弾いたり、柔らに捩じったりもしてみる。そうする事で亀頭と竿の両方を刺激出来るから、感じ易いとの事。案の上、アクバール様の躯が小刻みに反応を示すようになった。
私は何気なく彼の様子を一瞥してみた。途端に鼓動が速まる。彼の常に余裕な顔が砕かれ、恍惚を得た色っぽい表情をしていたのだ。こんな顔をさせているのは、まさに今、自分が行っているこの卑猥な事なのかと思えば、妙な興奮を覚えた。
そこから変に好奇心が湧き起こった私は思い切った行動に出た。亀頭をそっと口に挟み、優しく舌を這わせる。敏感な部分だと聞いていたから、ひっかいたり、歯を立てたりしないよう、最善の注意を払う。
「……っ」
頭上から艶っぽい声が落とされたのを耳にする。アクバール様から声が洩れたのかと思うと、私の気持ちはさらに高揚する。だからもっと気持ち良くなって欲しいと、次に亀頭の裏筋を唾液で十分に濡らして舐り始める。同時に親指の腹を使って竿も擦る。
「んっ……」
アクバール様の躯の揺れが大きくなり、感度が上がっているのが伝わる。先端からみるみるとヌルヌルとした蜜が溢れ出し、拙い手淫でも気持ち良ければ、こんな反応を見せてくれるかと、私は素直に喜んだ。
それから最後に私は根本から全体へと舐め上げたり、出来るだけ奥まで咥えて上下する時に多少の捻りを加えたりと、自分なりに工夫を凝らした。彼の雄芯は張り詰め、より大きくなっていき、色っぽい吐息が零れ続けた。
感化されていく私の下肢も自然と蜜が滴るようになる。初めてする行為なのに、こんなに一心している自分が淫らに思えたけど、恥ずかしいとは思わなかった。むしろ反応してくれるアクバール様を見て喜びを得ていた。
「レネット、そろそろ……」
――?
絞り出すような声を発したアクバール様の雄芯からドクドクと脈打ちが激しくなり、彼は素早く私の躯を離した。次の瞬間、雄芯の先端から大量の白濁した液が噴き出し、私は目を見張った。
そろそろというのは達するという意味で、彼は私が濡れないように躯を離してくれたのだろう。そのまま精を飲み込ませようとしなかったのは彼の優しさだったのだろうか。確かに吐精された液はまだ初々しさの残る私には刺激が強すぎる。
「はぁ、はぁ……」
見上げてみれば、アクバール様は息を整然とさせていて、表情が恍惚に溢れている。そして私と視線がぶつかると……。
「初めてにしては上出来だったな? 何処かで学んできたのか?」
「そ、そんな筈ないじゃないですか! 私はアクバール様しか知らないのですから!」
他の男性をちらつかせる言い方されて本気で怒る。私はそんな尻軽ではない。
「ははっ、冗談だ。それほど上手かったと褒めているだけだ」
「冗談でも嫌です」
「悪かった」
素直に謝られると、何も言えなくなる。物言えず、私はなんとも言えないじとっとした表情をして、アクバール様を見つめる。彼は罰が悪そうに苦笑いをしながら、
「え? ひゃぁあっ!」
そっとまた私の秘所へと手を伸ばしてきた。
「随分と濡れたな。これなら愛撫しなくても、すぐに挿れられそうだ」