第七十話「黒幕と最終決戦!!」




 私は一瞬にして硬直した。まさかだ。事もあろうに一国の王に対し、剣を向ける愚か者がいるなんて。その人物…ガルフ大司教を目にして、私は大きくたじろいだ。さすがのエクストラ王も表情が強張られている。

「大人しく剣を捨てるのだ」

 大司教のドスの利いた低い声と持つ剣の刃がキラリと光り、息を呑む。事の重大さに、躯が思うように動かなかった。

「言う通りにしないのであれば、王の命はなくなるが、それで良いのか?」
「…っ」

 なんて人なの!?あの人、正気じゃない!!いや、今回の事柄を起こそうとした時点で、おかしい人ではあるけど!!私は強張る躯を無理に動かし、剣を地へスライドさせ遠くにやった。私の行動に大司教から満足げな笑みが浮かぶ。

 その後、背後からバタバタと、こちらに向かって来る複数の足音を耳にする。私の隣へと並んだ人物がシャークス、ザクロ、クローバさんだとわかった。一通り、兵士達との決着がついたのだろう。

「貴様達も剣を捨てるのだ」

 大司教は王に突き付けている剣を強調しながら、シャークス達にも命令をした。彼等の険しい表情がより深まる。

―――くっ、悔しい!

 ここまで来て逆転されるなんて!!

 …………………………………。

  ピリピリした空気が漂う。シャークス達はお互いに顔を見合わせ、頷き合うと剣を投げ捨てた!!彼等までこんな状況となり、勝利への望みが失われ、私は絶望感に陥った。そんな中さらに…。

「…大司教、お手数をおかけ致しました」

 ハッと気付く!大司教の横に現れたのは剣を持ったパナシェさんだった!私のさっきの攻撃で再起不能な状態だったけれど、それは一時的のようだった。彼は攻撃を受けて、多少動きが鈍い様子を見せていたが、明らかに余裕のある笑みを浮かべている。

「さて、我々の聖なる塔で犯した罪をこれから償って頂きましょう、己の命でね」

 私達の前へと出たパナシェさんは剣を突き付けながら言う。

「こちらへ来なさい。そして民衆の前で膝をつくのです。私が民衆へ貴方がたの罪を公にし、処刑を晒しましょう」

―――私達の罪ですって!?自分達のでしょ!?

 私達はキッとパナシェさんを睨み上げる!

「そのような目をしている余裕があれば、早く言われた通りの事をせよ。王の命が…「王にもしもの事を致した場合、オマエ達はただでは済まされぬ」」

 大司教がまたしても王の命を強調し、脅しに入った。そこにシャークスが言葉を挟む。だけど…。

「それは貴方がたを処刑にした後のお話ですよね。事は我々の思惑通りとなっておりますので、そのような心配は無用です」

 パナシェさんの優雅とも言える笑みには、私達の敗北という憐れみを含んでいた。

―――誰も心配してないっての!!

 今すぐにでも叫んで言ってやりたい!でもシャークス達は言われた通りに、足を向かわせる。なんで素直に従うのよ!頭では王の命の為だって、わかっているけれど、彼等だって私と同じ思いの筈だ!

 しかし、どう手だてを打つ事が叶わず、私もシャークス達の後に続いた。王と大司教はその場へと残り、私達を見届けている。パナシェさんは先に塔の最前へと立つと、地上から歓声が上がった!!大聖堂の正門前に集結している民衆からだ!いよいよ何かが始まるのだろうと、期待の込められた声援のように聞こえた。

「早くこちらに並び、民衆の前へと姿をさらけなさい。そして膝を付き、腕を背へと組みなさい」

 パナシェさんは振り返り、私達へと促す。シャークスが先頭となり、言われた場所へと立ち並ぶと、私達の姿を見た民衆からワァ―――!!!!と、熱気が上がった!!非難の目から罵声の声と、なんとも言えぬ思いが飛び回っていた!!

「スターリー!!!!」

 その中でだ!!一際大声で私の名を呼ぶ男性の声が耳に入る!!私はハッとして、地上に目を落とすと、目を大きく見張った!!

―――兄さん達!!それに父さんと母さんまで!!

 なんて事!兄全員と父さん母さんまで、家族全員の姿があったのだ!やっぱり、兄さんの誰かが私の事を聞きつけて、皆で来たんだ!!家族を目にして、私は涙腺が緩んでしまった。まさかこんな形でお別れになるなんて…。兄さん達からも悲痛の表情と声が上がり、思わず涙が流れた。

「お可哀想に…。こんな形で家族とお別れになるとは実に悲しい事ですね」

 私の横でパナシェさんは悠長に同情の声を落とした。ただの嫌味にしか聞こえない!だって、こんな状況にしたのはこの人なんだから!!それをよくもそんな言葉をかけられたものだ!!私は彼を威嚇するように睨み上げる!!

「せめて貴女の首は最後に斬り落とすとしましょう。これは私の最後の情けです」

 まるで感謝しろと言わんばかりの態度だ!!誰がそんな情けいるか!!

「さて民衆に処刑の公開だと伝えましょう。さっさとそこに膝を付きなさい」

 パナシェさんから最終の促しを受ける!私は躊躇い、張り裂けそうな胸と震え上がる躯によって、意識が遠のいていきそうだった。そして微かに、シャークス達が動きを見せた時だ…!

―――おやめなさい。

「え?」

 私達の背後から、透き通る女性の美しい声が響いた。それは空高くから私達へと向かって、落とされたように思えた。後ろへと振り返ると、

「えぇぇええ!?」

 思わず素っ頓狂な声を上げ瞠目する!!だって…だってだよ…?陽射しを一心にして神々しく光り輝く、透き通った躯の女性が宙に浮遊しているんだもの!!何処かで目にした女性だ!そして彼女の隣には同じく透き通った躯の天使達が幾人もいた。

―――な、なにあの人達は!?ていうか人じゃないよね!?

 天使に囲まれた女性って…まるで…?あ!!!!何処かで見た事があると思ったら、アレは大聖堂の尖頭に立つ「ローゼンカバリア女神」じゃない!?

―――ど、どういう事なの!?

 女神様はフンワリとした長い髪を舞い、背中には天使達よりも大きい羽を広げて、私達の前へと近づいて来た!!私達の前まで降りて来た女神は…。

―――わたくしはこの聖なる女神ローゼンカバリアです。貴方がたの行いをずっと見届けておりました。ガルフ大司教、そして大司祭のパナシェよ。

「まさか…ローゼンカバリア女神様だと?」

 あのパナシェさんが間が抜けたような表情をしている!それに女神達の後ろでは大司教が腰を抜かしたようで、その場へとヘナっていた!

―――わたくしの願いは民衆の「幸」。その教えを補佐するのが大司教と大司祭の役目。そこには決して己の欲望を介入してはならぬ約束です。それを貴方がたは反し、そして罪なき民衆をあやめようとしている。

「……………………………」

 パナシェさんは言葉を失い、呆然として女神を見つめていた。

―――過ちを正すのも私の役目。さぁ、恐れずに民衆の前で過ちを打ち明け、罪を償うのです。これ以上、罪が重くなる前に急ぐのです…。


 その言葉を耳にしたパナシェさんも、とうとうその場へと腰を落としてしまった。完全に力が抜けてしまったのだろう。

 ………………………………。

 深閑とした空気が流れる。思わぬ出来事に、誰しも口を開く事が出来ずに立ち尽くしていた。そこにガルフ大司教を引き連れたエクストラ王が姿を現す。

「さぁ、パナシェ大司祭もこちらへ参れ。私がこれから民衆へと話を致そう」

 この王の言葉に、すべての幕が閉じるのだろうと、安堵の兆しが訪れたのだった…。





web拍手 by FC2


inserted by FC2 system