第五十八話「論議の末」




「街中が混乱の渦に呑まれております。デモンストレーターも今までの非ではない大勢の者が参戦し、我々への抗議を強めております」

 シャークスの報告に、エクストラ王は目を細め、黙然とされる。今、私は謁見の間へシャークス、ザクロ、クローバーさん達と共に、王との緊急会議を行っていた。玉座に腰かける王の前に、私達4人は整列する。

「一体どうしたものか…」

 王は呟くように吐露される。その表情は深く複雑で、私達の危惧する心をさらに強めた。今回の件は只ならぬ事態だ。昨日、アーケードを抜けた先にあるスピネル礼拝堂へ現れた白骨は突然と血に染まり、まるで呪いをにおわせるかのような不吉な姿を見せた。

 その後、悪天となった空から血の雨が降り、人々は恐怖と混乱の渦に呑まれたのだった。しかも、その呪いとはローゼンカバリア女神がエクストラ王と王族マティーニ家にかけたものだと騒ぎとなり、今日の早朝から、大きなデモが起こっていた。

 シャークスが言うには、この騒ぎの元凶は例の「黒幕」が起こしているものと考えていた。それならば、早く黒幕を捕らえに行きたいのだけれど、デモと民衆の混乱で、外に出るのは危険であった。

「王、わたくしが折りを見て、黒幕の元へと参ります」

―――え?

 シャークスが今まで見せた事のない真剣な表情を見せ、決然と言い放った。

「一人で参るのは危険だ」
「あまり多くで行動しては目立ってしまいます。今の情勢では尚の事です」

 王の心配を理解しつつも、シャークスは自分の考えを曲げようとしない。

「そう易々と黒幕が出て来るか?今はさぞ喜悦満足げに、高みの見物をしている事だろう。こちらが赴いたところで、つまみ出されるだけだ」
「むしろ証拠を隠蔽しようと、こちらの存在を始末してくる可能性もあるぞ」

 頑ななシャークスに対して、ザクロとクローバーさんも意見を交える。

「このまま野放しにしていれば、ヤツ等の勢力が増すだけだ。王族に汚名を着せる愚かな悪行を一刻も早く明るみしなければならない」
「とは言ってもな、黒幕が現れたところでも、ヤツが素直に認めるかは…」

 またしてもやクローバーさんは厳しい言葉を落とす。でも確かに彼の言葉はもっともだ。

「ではまずは黒幕をここに連れて参れ。抵抗を見せるようならば、やましさがないのであれば、来るべきだと促すのだ」
「承知いたしました」

 そうだね。宮殿で証人も預かっているし、ここに連れて来た方が話はスムーズな筈だ。

「向こうが良からぬ行動を起こさぬよう、私からの委任状を託そう」
「恐れ入ります」
「黒騎士の長を下手に手掛ければ、大罪となる。事無しとは思うが、油断は禁物だぞ」
「承知しております。宮殿の裏扉から抜け、黒幕の元へと参ります」
「ふむ」
「あの!私も一緒に!」
「え?」

 ずっと、王とシャークスの会話を耳にしているだけだったけれど、ようやく私も口が挟めた。話の展開からして、シャークス一人が向かうような感じだけれど、私も行かなきゃ!

「それはダメだ」

 だけど、シャークスから即却下される。

「な、なんで!?」

 私は眉をひそめて彼を抗議する。

「あまりにも宮殿外の状況が悪い。場所へ向かうだけでも大変だ。それに黒幕のアジトには、危険が潜んでいるかもしれない。そんな中に、君を連れて行くわけには行かないよ」
「今更じゃない!?今まで散々調査させておいて、やっと黒幕まで辿り着けそうって時に、身を引けなんて、あんまりじゃん!?ここまで来たんだもん!最後まで一緒にやるわよ!!」

 私は断固して引かぬ姿勢を見せた。

 …………………………………。

 シャークスは顔を歪めていた。本気で決断に迷っているようだ。

「ここで“イエス”という答えを出すのは賢明ではないな。スターリーの命を軽率に考えている事になるぞ」

 返事に戸惑うシャークスの代わりに、クローバーさんが言葉を下す。

「危険というのであれば、シャークスの命だって危ないじゃない!王の委任状があれば、大丈夫なんじゃないの!?」
「100%と安全性があるとは言えまい」

 尚も食いつく私の言葉に、今度は王が冷静に答えられた。

「だったら、シャークスを一人で向かわせる事に、私は反対です!」

 急に涙腺が緩んで、目にじんわり涙が浮かんできた。危険だとわかっていて、一人で行かせるなんて、有り得ないよ!

「スターリー…」

 私の姿にシャークスは心底困った表情をしていた。

「いちいち私情を挟むな」
「?」

 突然ザクロから非難するような言葉が飛んできたけど、私には理解が出来なかった。

「婚約者のシャークスから離れたくないが為に、子供が駄々をこねるような発言は控えろ。王に対し、失礼極まりない」
「は?」

 コイツはなんの話をしてやがる?しかも毎度の事だけど、なんで私がシャークスの婚約者だと決めつけてやがるのだ!

「ザクロ、彼女を責めるのはよしてくれ。全部オレを想って言ってくれている事なんだ」

―――ん?

 私をフォローしているのであろうシャークスの表情が、さっきとは全く異なり、そして妙に頬を紅潮とさせている!?しかもさっきの言葉の返しって、意味の深い言い方だったよね?

はたから見ると、熱愛を見せつけられているようで、ムシャクシャするな。真面目な話をしているんだぞ」
「それほど、スターリーからのオレへの愛は深いんだ!」
「はい?」

 なにこのクローバーさんとシャークスの会話?さっきから恋人を想っているような言い方されているなとは思っていたけど、やっぱそういう意味だったのか!私はそういう意味で言っているんじゃないっての!

「私は危険だから、純粋に心配をしているの!それをなんなのよ!色恋沙汰と決めつけて、非難しないでよね!!」

 キッと私はシャークス、ザクロ、クローバーさんの三人を睨む!この人達、事が重大だってわかってないじゃん!

「王、いかがいたしましょう?」

 最後にシャークスは王へと決断を任せた。そして…下された決断は…。

「ふむ。本来であれば、女子おなごを危険な目に合わせぬ方向へと考えるが、スターリーは騎士を目指しておる。黒の騎士は常に危険との背中合わせだ。今も騎士への目標が変わらぬのであれば、向かう事を承知致そう」





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