第二十四話「意外にも苦戦しております」
「おじ様方は船の乗組員さんなんですか?」
私はお酒のお代わりを届けに行くと同時に、さっきの話をしやすいだろうおっさん達に声をかけた。うん!ヤツ等完全に目が座って出来上がっているね!これなら間違いなく聞き込みが出来るな!私は彼等に笑顔を見せ、確認に迫る。
「お!姉ちゃん、勘がいいね!」
さっきお酒を100杯追加オーダーした大太りのおっちゃんが食いついた!
「だてにウェイトレスをして接客しているわけではないので」
初めての接客だけどね!でも私は長年しているかのような口調をして答えた。
「それに私は殆ど船に乗った事がないので、普段乗船しているおじ様方が羨ましいです。それで思わずお声をかけてしまいました」
「そっか、そっか!女のコは首都に住んでいれば、なかなか外には出ないよぁ!」
「そうなんです。色々な国に行けるのって、私の夢でもあるので」
「そうなのか!おじさんが連れて行ってあげるゾ!」
ノーセンキューだっつーの!私はあくまでも自然に会話を広げようと試みる!我ながらイイ感じではないか!
「姉ちゃん!その男だけはやめておけや!オレと一緒の方が楽しいよ♪」
「なに言ってんだい!オレの方がオマエより経験が豊富なんだ!姉ちゃんを満足させてやれるのは絶対にオレが一番だ!」
なんか口を挟んできたスキンヘッドに、さらに横槍を入れてきた鼻毛ボーボーのおっちゃん!どっちも船を乗せてあげたい気持ちよりも違う意味の願望がありますよね!全く!これだから酒の入ったおっさん共は!!私は心なしか白い目をしてヤツ等に視線を送りつつ、早速本題へと移ろうとした。
「そういえば、私が以前、別の店舗で働いていた時にあるお客さんがおっしゃていた事なんですけどね、3ヵ月前に大きな荒波が起こったそうですね?」
「え!?」
私の言葉に、そこのテーブルにいたおっさん達が一瞬にして顔が凍りついた。
「船が難波しただけでも大事なのに、さらに大切な品物が届けられなくなったそうで、聞いているこちらが青ざめたぐらいでした。その乗組員さん達は無事に戻って来られたそうで、ホッとしましたけど」
いかにも他人から聞いた話だぞアピールをしながら、私は話を続けた。
「そうなんだよ!そうなんだよ!実はあん時の乗組員というのはオレ等だったんだ!あん時はマジビビったなぁ~!今、思い出しただけでも身震いしてしまうよ!」
大太りのおっちゃんはヤケくそと言わんばかりに話をし始めた!
「そうだったんですか!?」
私は白々しく大きなリアクションを見せた!
「本当に無事に戻られて良かったです!大きな荒波が起きた時は夜にも関わらず、よく船は波に呑まれず持ち堪えましたね!」
「…あ、あぁ。ちっとやそっとで呑まれるような柔やわな船じゃないのさ」
微妙に目が泳いでいる大太りのおっちゃん!これは明らかに嘘をついているね!
「それも、おじ様方の不幸中の運が良ろしいという事ですね!」
「その通りだよ!」
疑り深いと思いつつも私は相手に不信感を与えないように話を進める。
「そういえば、船の難波で大事な品物が届けられず、そちらは大丈夫だったんですか?」
「それは代替品でまかなえたんだけど、別件でオレ等は咎められてね」
さらなる質問に今度はスキンヘッドが応え、その言葉に私は目を細めた。別件とは、それはいわばシャーク達が問い詰めた「荒波の虚言」についてだろう。
「別件ですか?それはなんですか?」
「…いやぁ~それはさすがに言えないよ!企業秘密だ」
そこからが肝心だっての!少しでも確信に迫られると思った矢先にブロックをかけてきた!どうしよう!こんな全く情報を得られないままでは私のこのメイド服を着た意味がないではないか!私は焦燥感に煽られながらも必死に聞き出そうと思考を巡らせる。
「あ~、申し訳ないです。私と話をしていたばかっりに、せっかくのお酒の進みを悪くしてしまいましたね!どうぞお飲みになって下さい!」
ヤツ等をもっと酔わせようと、私はアルコール度の高いお酒を次々に注ぐ。
「気が利くね!姉ちゃん!」
気分を良くしたところで、もう一度さっきの話にトライだ!
「あのー、さっきの続きなんですけどぉ?」
出来るだけ、ねだるような甘えた声を出してみた!自分の声だけど、なんかキモイな!
「さっきの話?なんだったけな?」
おいおい!忘れんなよ!こっちにとっては重要な事柄なんだから!
「えぇ、さっきの船の話ですよ~。なにを咎められてしまったんですか?濁らされて、とっても気になって仕方ないですよ」
「気になるか~。そっか、それなら……」
お!スキンヘッド、話す気になってくれたか!よしよし!私は大きな期待を胸に膨らませた!
「気になるといえば、オレは姉ちゃんの年と彼氏がいるのかが気になるな~」
―――は!?
思いがけない答えに私は目が点になり固まる。さらに…。
「オレは姉ちゃんのスリーサイズが気になるよ!お尻がたまんないね~♪」
―――ひぃぃぃ!!!!
鼻毛ボーボーのおっさんが今にも触れそうだと手を宙に浮かせ、イヤらしく私のお尻を眺めていた!なんなんだ!なんか話が外れているではないか!私は素早く身を翻し、
「私の話はいつでも出来ますし!それよりもさっきの話を……」
話を戻そうと必死になっている時だった!
「姉ちゃん!!酒のオーダーお願い!!」
と!タイミングが悪く違うテーブルから声がかかってしまった!
―――あ~、もうなんで肝心な話を聞けないのよ!!