Link9「真実を打ち明ける夜」




「レイン、オマエ……」

 まさかレインの口から「愛している」という言葉が出るなんて思いも寄らなかった。何とも言えぬ感情の昂りに、オレは涙が出そうになる。そんな泣きたい気持ちになるのは幼い子供の時以来だ。

 この時、オレはたまらない気持ちになってレインのすべてを包み込みたくなった。躯も心も魂さえも、すべてオレの中で溶かしてしまいたい。「愛している」という言葉だけでも足りないぐらい、レインが愛おしくて堪らない。

「悪い、もうオレ余裕がない」

 溢れ返る想いに歯止めが効かなくなり、オレはレインの唇を塞いだ。

「んんぅっ!」

 彼女のすべてを奪うように口内も膣内もオレの味一色に染めていく。貪るような激しい口づけに唾液が生々しく零れ落ち、膣内は互いの情液が激浪する。獣のように波打つオレに、レインは必死に追いつこうとしていた。

 唇を離してレインの様子を見つめる。苦し気だった様子が、いつしか法悦に浸っていた。オレの愛に溶け込んでくれている。目に見える愛情に震え、オレはレインの腰を掴み直して激しく肉棒を穿った。

「あんっあんっ、ふぁあっん、あぁんっ」
「はぁはぁっ……」

 躯中に熱感が伝播して焼き切れそうだ。熱量が、滲み出る汗が、半端ない。苦しい感情さえも気にせず、オレは一心不乱にレインに愛情を突き続けた。彼女もすべてを受け入れ、愉悦に溺れている。

 一つに繋がっていると全身で感じる。肉棒がはち切れんばかりに怒張し、快感がり上がってくる。爆発するのも時間の問題であり、オレは終盤へと力を出し尽くす為、抽挿のスピードを上げる。

「くっ……」

 瞬く間に快感が最高限へと達し、一気に爆ぜた。

「ふっぁあああん!」

 同時にレインからも絶頂の叫び声が上がった。余韻が凄絶で頭がクラクラと回る。騎士としての体力も虚しく、オレはスッカリと果てた。オレ以上にレインは息を切らしてクタリとしている。

「はぁはぁ、レイン、大丈夫か? よく頑張ったな」

 オレは心配の声を掛け、幼い子を宥めるように彼女の頭を撫でる。

「レイン、さっきの言葉すげぇ嬉しかった。オレを愛して受け入れてくれて有難う。今オレは最高に幸せだ。愛している」

 愛を伝えレインの躯を抱き締める。一緒に絶頂の果てへと行けた事が嬉しかった。しかもレインは初めてであり、この上ない至福だ。オレの気持ちにレインはこう返してくれた。

「オレも同じ気持ちだ。ライ愛してる」

 新たに想いが強く絡み合う。暫くオレ達は幸せを噛み締め合っていた……。


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 とても心地好い目覚めだった。覚醒したばかりで瞼は重い筈だが、それよりもレインの姿を見ていたい。隣でスヤスヤと眠る彼女をオレはじっと見つめる。

 ――心底愛おしい。

 不思議だ。恋心が芽生える前なら男友達のような見え方だったろうに、今は誰よりも愛おしく、こうやって見ているだけで胸がいっぱいになる。無垢な寝顔の彼女の頬にオレは軽くキスを落とす。

 彼女から気持ちを貰えた事、初めてを貰えた事、愛の言葉を貰えた事、どれもオレにとっては極上の宝となった。最近は息詰まった生活で苦しかったが、すべてが今日報われたような気がした。

「有難う、レイン」

 ――このまま幸せの微睡みの中で眠っていたい。

 オレはそうっと瞼を閉じる。その時、隣から微かに物音がした。レインが起きたのだろう。すぐに声を掛けようかと思ったが、彼女がどういった反応を見せるか、こっそり覗いてみようと思った。

 暫くレインはゴソゴソ物音を立てていた。致した後の状況に羞恥を抱いて混乱しているのだろう。そろそろ声を掛けようと思った時、レインの口からある言葉が出され、オレの心は冷えていく。

 ――「反乱軍」……。

 この言葉だった。夢心地から現実へと引き摺り込まれた。

「反乱軍は王宮を攻めていないぞ。というか攻められないよう事前に采配を振ってある」

 オレの声に彼女は息を殺して驚いていた。

「どうして……いやどうやってオマエは反乱軍の存在を知った?」
「そ、それは……」

 レインの視線が不自然に彷徨う。明らかになんて答えたらいいのか逡巡している。オレはこの数日間、レインの身を守る事で頭がいっぱいであったが、そこには常に何故、彼女が反乱軍の存在を知っていたのか、その疑念だけは拭えなかった。

「まぁそれはいい」

 オレは嘆息し、事情を説明する事にした。レインが何と関係があるのか教えて貰う為だ。

「話しておくが今夜王宮に入る予定だった反乱軍は王政に不満をもつ民衆の集団だ。そして、それを利用した他国の殺し屋が混ざっていた」
「え?」

 レインの血の気が引く。いきなり殺し屋という物騒な言葉を出されて驚かないわけがない。

「殺し屋の目的は王宮の珍しい秘宝を狙っていたみたいだ」
「ちょ、ちょっと待て! なんでそんな話をライが知っているんだよ!」

 酷くレインは混乱している。反乱軍が殺し屋と関係しているところまでは彼女は知らなかったようだ。

「今日の計画が実行される前に、殺し屋の主犯者を捕まえているからさ」
「え?」
「最近オレが姿を現さなかったのは主犯者を捕まえる為だったんだ」
「主犯者ってよく捕まえる事が出来たな」
「それはレイン。きっかけはオマエがくれた」
「え? オレ? な、なんで!?」

 レインは本気で驚いていた。この時点で彼女は殺し屋一味とは無関係だと言える。

「オマエがキャメルを助けた時に捕まえた男が吐いた」
「え? もしかしてソイツが主犯だったのか?」
「いや、あの男は違う。あれは利用された駒に過ぎない。そして他にも駒は多々いた」
「それじゃ主犯者は誰だったんだ?」

 そうレインに問われた時、僅かにオレの心が澱んだ。とうとう知らせる時がきた。オレはもう割り切れた事だが、純粋な心をもつレインには辛い気持ちにさせるだろう。

「ライ?」

 レインに瞳が憂いに翳る。答えるのをやめようかと思ったが、遅かれ早かれ知る事だ。ここでハッキリと伝えておくべきだろう。

「レイン。信じ難いかもしれないがこれが真実だ。主犯者は……あのキャメルだ」

 主犯の名を耳にしたレインの顔色は蒼白となる。

「ちょ、ちょっと待てよ、ライ! いくらなんでもキャメルが主犯だなんて有り得ないだろう!?」

 そしてレインは身を乗り出して抗議する。やはり簡単には信じない。

「レイン……。信じ難い気持ちは分かる。オレも最初に聞いた時は信じられなかった。でも確実に証拠を押さえていって、最後にキャメルへと辿り着いたんだよ」

「そ、そんな」
「まずはキャメルの身分だが、男爵令嬢という貴族の称号なんてものはもっていない」

 あの女の生い立ちについてはバミューダに住む騎士なかまに伝書鳥を飛ばして調べさせた。以前、このシャンパーニュ王国で働いていた元仲間で、結婚を機にバミューダ国へ婿養子に入った奴だ。

 フランクで掴みどころないが仕事は出来る奴で、今回の件も短期間で回答を寄越してくれた。解答にはとんでもない事実が記載してあった。キャメル・クラーレットという令嬢はオレの知るキャメルとは別人であると。

「徹底的に調べ上げた結果、彼女は生まれてすぐに孤児院で育てられ、しかも幼い頃に誘拐されている。その後の経緯は分からないが数十年後、彼女はある殺し屋組織のトップとなっていた」
「う、嘘だろ?」
「すべて本当の事だ。そしてレインがキャメルを助けた時に捕まえた男だ。何故キャメルを襲ったのか。取り調べで男は衝動的にキャメルに手を出したと言っていたが、オレは釈然としなかった。あんな人通りのある場所で行うには不自然に思えたんだ」
「そういえば……」

 ここでレインは引っ掛かりを感じたようだ。

「だから “オマエのやった行為は重罪だ。この先ずっとオマエは牢獄生活だ”と、脅しをかけた。すると男は態度を一変して喋り出し、自分はキャメルの頼まれて襲うように見せかけただけだと白状した」
「キャメルが? 一体なんの為に?」

 問われた理由を話すのには抵抗がある。だが、包み隠さずに話さなければレインは納得しないだろう。

「オレにキャメルを助けさせる為だ」
「な、なんだそれ? あんな芝居までしてライの気を引こうとしたって事か!? いくら芝居と言っても、あれは大事おおごと過ぎる! あそこまでするぐらいキャメルはライに惚れてたのか!」

 あの女の裏を知っているオレにとっては苦痛でならない疑いだ。でもレインの立場からすれば、そう疑っても仕方ない事だと自分に言い聞かせる。

「そんな色恋沙汰な話じゃないんだよ。その前に順を追って説明するけど、オレがキャメルを助ける前に、オマエが彼女を助けた事によって、奴等に大きな誤算が生じたんだ」
「そ、そうだったのか」

 ほんの少しだけレインの憤りが落ち着く。オレは冷静を保ちながら説明を続ける。

「男のシナリオでいえば、オレが現場を見つけたら一目散に逃げる予定だったらしい。そして残されたキャメルはオレと接触しようと考えていた」
「やっぱりそれってライと仲良くなりたかったからじゃないのか?」
「……確かに親密な関係になろうとしていたみたいだ」
「やっぱそうじゃないか!」

 レインは目尻を上げて声を上げる。あの女に少しでも嫉妬をしたのかと、嬉しい気持ちも湧いたが、それよりもレインに納得してもらう事が大事だ。

「とはいってもオマエが考えているような意味はないんだって。キャメルはオレと親密になる事によって、今夜王宮に侵入する計画を立てていたからな」
「は? なんか話が飛躍してないか?」


 話が繋がるように説明しているつもりだが、内容がぶっ飛び過ぎてレインの頭が追い付かなくなったようだ。

「目的は王宮に侵入して秘宝を掻っ攫う事だ。そこで王宮に住んでいるオレを利用しようとしたんだよ。その計画はレインがキャメルを助けた事によって崩された。男が捕まってしまったからな。あの時、キャメルが妙に青ざめていたのは襲われたからじゃない。男が口を割らないか恐れていたんだ」
「あ……」
「まぁ、男はキャメルが王宮に侵入する計画までは知らなかったようだ、あの男はあの時に利用されただけの捨て駒に過ぎない」
「殺し屋の仲間にしては頼りない奴だもんな。……そういえばライ、キャメルを家まで送って行ったが大丈夫だったのか?」
「……いや、それが」

 ここが一番答えにくく説明を恐れていた。レインの頭が血を上らないか懸念する。

「まさか……殺されかけたとか!?」

 気付かれたかと思ったが、彼女は別の発想を思い浮かんでいた。

「いやそうじゃない。……色気仕掛けに誘惑された」
「はぁ?」

 レインはみるみると表情を険しくしていく。

「だから言いづらかったんだって」
「納得だ。……その誘惑に乗ってないよな?」

 明らかに眼差しは疑いを含んでいた。

「バカ言え。男の取り調べもあってオレはすぐに拘置所へ向かった。それにその時のオレの頭ん中はオマエの事でいっぱいだったし、誘惑はキッパリと断ったよ」
「!! ……そ、そ、そうだったんだ」

 何故かレインは頬を上気させ、ソワソワと落ち着かない様子だ。

「そうだよ。あの時にオレは自分の気持ちに気付いたんだからさ」
「オレにも拒まれて完全に計画が狂ったキャメルが次に手を打ったのがレイン、オマエに危険を向ける事だった」
「え? オレ? ……あ! 最近やたら変な輩に絡まれたのはキャメルの差し金だったのか!」
「そうだ。計画を妨害された腹いせに、危険がオマエのところに及んだのもあるが、一番の理由はオマエを亡き者にすれば、オレの心は傷心し、そこをつけ込んでまたオレに近づこうとしていたみたいだ」
「とんでもない話だな」

 レインが沸々と怒っているのが分かる。彼女は何度も危険に晒されたからな。ここまで説明すると、ようやくあの女が殺し屋だという事実を受け入れたようだ。

「全くだ。オレはレインに危険を向けた男達を徹底的に吐かせた。中には殺し屋の仲間も混ざっていたおかげで、最終的にキャメルへと繋がったわけだ。レイン、オマエが危険に晒されている時に守ってやれなくてゴメン。キャメルを捕まえる証拠を集めるのにかなり手間取っていた。せめて信頼と腕のある騎士なかまに、オマエを守るよう頼むのがやっとだった」
「それは気にするなよ。ライが心配するほど、オレは危険な目に遭っていないからさ」

 レインが危険な目に遭っているというのに、オレは顔を出せなかった。怒っても仕方ないと思うが、彼女はそんな素振りを見せなかった。

「さっき反乱軍は王宮を攻めていないと言っただろ? という事はもうキャメルは捕まっているのか?」 「あぁ。今夜、殺し屋を含む反乱軍を捕まえる為に、奴等を故意に泳がせた。オレを利用して王宮に入る事が失敗したとはいえ、トップのジュラフ騎士団長とオレが不在という情報を流しておけば、奴等は最後の機会だと思って攻めてくると考えた。こちらも個別で捕まえるよりも、今夜を利用した方が一気に片が付けられると思ってさ。王宮にはジュラフ団長率いる騎士が待機していた。もうとっくに反乱軍達を押さえているだろう」
「そうか、それは良かった。不謹慎に思うかもしれないけれど、王宮にライが行かなくて良かった」
「それは特別に団長がオレに休暇をくれたんだよ。主犯者を絞り出した成果にって。好きな子の誕生日ぐらい一緒に祝ってやれってさ」

 団長のおかげでオレはこうやってレインと結ばれる事が出来た。反乱軍も団長が押さえている事だろう。すべてがこれで丸く治まった、そう締め括りたいのだが……。

「レイン、オマエはジュラフ団長に今夜、反乱軍が王宮に侵入する事を仄めかしたようだな。何処でその情報を得たんだ?」

これだけはどうしても解決させておきたかった。





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