第ニ章
「今はなき封鎖された村」
考えてみれば、こんな完璧な女のコが私みたいな地味なコの相手をするわけがないのだ。
美奈萌ちゃんはあくまでも任務の為に仕方なく私と友達になった。
納得がいく事なのに気の落ち込みは半端なく顔が俯いてしまう。
出来れば知りたくなかったよ。
「困惑させて悪いと思っているわ。でも日本で羅刹事件が起きた時、話をするべき時が来たと覚悟をしていたわ」
私の翳りのある表情に気付いた美奈萌ちゃんが申し訳なさそうにして言う。
「私はどうしたらいいの?」
妖魔には私がガーデスと気付かれていないにしろ、何処で知られ危険が及ぶか分からない。
妖魔が退治されるまでずっと怯え続けなきゃならないの?
ゾクリとした嫌な汗が流れ、再び呼吸が乱れてきた。
「聖羅様をお守りいたします」
「え?」
静黙とした部屋に朗らかな甘い美声が響いた。
今の声はマーキスさんだ。
彼の言葉は私の不安を打ち消すかのように心強く感じた。
また私の不安を感じ取って拭おうとしてくれたのかな。
マーキスさんの揺るがないグレイの瞳に魅入られ、私は彼から視線を逸らせずにいた。
「なに今の? なんか“オレがガーデス様をお守りします”みたいなクサイセリフを吐いたよね」
アールさんからマーキスさんに鋭い突っ込みが入ったよ。私そういう風には受け止めなかったけど、そ、そういう意味なのかな。
私は図々しいと思いながらも期待を抱いた。
「直接的には出来ないだろう。その役目は美奈萌様がなさっている。せめて聖羅様に危害が及ばぬよう早急に妖魔の息の根を止めるという意味だ」
マーキスさんは目を細め、毅然とした態度で返す。
や、やっぱそうだよね、私は厚顔無恥だったと深く反省する。
ガーデスといえど、直接に私を守る義務なんてマーキスさんにはないもの。
「いつまで妖魔を野放しとくわけ? アンタ達サードが就くぐらいの下級の妖魔相手に犠牲者を3人も出すなんて、その処罰は大きいわよ?」
「ご尤もでございます」
美奈萌ちゃんの辛辣な言葉にアーグレイヴは顔を曇らせながら答えた。
処罰って?
「お言葉ではございますが、今回の妖魔に関しましては少々特殊がございまして」
「言い訳? ガーデス狙いではない特殊の妖魔だと知り得ている事だけど」
「そちらもそうですが実は伺っております妖魔の階級が“ファースト”だと……」
「ファースト!」
アーグレイヴさんがみなまでいう前に美奈萌ちゃんから突拍子もない声が上がった!
冷静な彼女にしては珍しい。
「なにバカな事言っちゃってんの! ファーストレベルの妖魔をなんでサードのアンタ達が追ってんのよ!」
「私共も指令を受け行動しております」
「なにかの間違いでしょ! 妖魔のレベルに相応したガーディアンが送られるのよ!」
目尻と怒号を上げる美奈萌ちゃんの姿は恐ろしい。
あくまでも冷静を保つアーグレイヴでも微妙に表情が困惑されているのが分かる。
「失礼ですが美奈萌様。これは皇帝から直に命令が下されました。お気になさるようでしたら直接皇帝にお伺い下さい」
「なんですって? 皇帝から?」
アールさんが淡々と応えた。
意外にも彼はいざという時には物に動じがなく落ち着いている。
それに今の言葉も何処かしら、まつろわぬような態度に見えて違和感を覚えた。
最初に持った彼のイメージと異なっている?
そして美奈萌ちゃんは表情からして腑に落ちない様子なのが分かった。
意想外の出来事に困惑をしているのだろうけど、なにか複雑な思いを交差させている気がした。
その内にキリッと鋭い表情に戻って本題へと戻す。
「で? そもそも今回の妖魔の出所は何処からなのよ? 聖羅がガーデスだと知れていないにも関わらず、わざわざ妖魔がうろついているのが不可解だわ」
「さようです。まだ未確定な点が多いのですが、今回の妖魔は新たに“叢生”されたと考えられております」
「叢生?」
ここでも美奈萌ちゃんは顰める。
「そうせい」ってなに? 私は言葉の意味が分からなかったけど訊ける雰囲気ではない。
疑問をもったまま話は先に進む。
「詳細を話して」
「はい。古代中国南西に“鞍水”という村がございました。現在では跡形もない村ですので地図上では存在しておりません。正確には故意に記録を残していないようです。と言いますのもその村周辺は禁戒の領域となっており、どの者も足を運ぶ事を許されておりません」
――ドクンッ。
アーグレイヴさんの話に何か嫌な予感が横切った。
同時に鼓動が速くなる。
内容なのかアーグレイヴさんの重々しい口調になのか、なにか禍々しいものに纏わりつかれているような恐ろしい感覚。
「禁戒されている理由はなんなの?」
私とは違って美奈萌ちゃんは気概ある様子で問う。
「村領域が“呪詛”そのものとなっております」
(?)
なにそれ? “呪詛”?