第ニ章

「Fantastic Guardians―ガーディアンとは―」




(マーキス、カレンベルグ様……)

 まるで貴公子の名を呟くように零す。

「マーキス様……」

 思わず口にしてしまうと、

「様はいらないから」
「オレの名はアール・トゥールーズですよ、ガーデス様」

 美奈萌ちゃんと金髪のお兄さんが相反した表情でそれぞれが言う。
 美奈萌ちゃんの煩わしそうな険しい顔に対し、金髪のお兄さんは胸を躍らせているような嬉々満面なお顔。

「分かりました。アールさんですね」
「さんもいらない」

 またもや美奈萌ちゃんから鋭い突っ込みが。一応初対面だから呼び捨てには出来ないよ?

「聖羅の方が遥かに地位が高いから下の者に敬称を付ける必要はないわ。却って蔑まれるもの」

 私は自分の立場を把握していない。
 彼等が何者で美奈萌ちゃんの正体も、そして自分自身の存在までも。
 私が返す言葉に窮していると、

「ガーデス様、わたしくはアーグレイヴ・バーデンと申します」
「あ、はい、宜しくお願いいたします」

 知的で落ち着いたお兄さんには深々と御挨拶をしてしまった!

「本来の話に入るわ」

 ほんの少し場の空気が緩和されたところで、美奈萌ちゃんが本題へと話を戻す。
 その表情は鋭く威圧感の凄さに私の緊張も戻る。
 そうだ、名前に浮かれてしまっていて肝心な話をまだ何も聞いていないのだ。

「まずは私達の存在からよね。私達はある組織の一員なの」
「組織?」

 それって「ガーディアン」? 美奈萌ちゃんとお兄さん達が路地で話をしていた際に耳にした言葉だ。

「“ファンタスティック・ガーディアン”とは“妖魔”を討伐する組織よ」
「!」

 私の表情は強張った。
 美奈萌ちゃんから予想を遥かに超える言葉が出たからだ。
 彼女は「ようま」と……まさかそれは……?

「ようまって、まさかあの“妖魔”?」

 妖魔とは「妖怪、化け物、魔物、変化へんげ」といった人に恐怖や脅威を与える禍々しい存在のもの。
 それはあくまでも架空の存在では。

「そう、聖羅が思っている妖魔で間違いないわ」
「そんな架空の存在の者が?」
「こう言ってはなんだけど、聖羅の力も一般的には架空のものに当たるわよね?」
「!」

 ストレートに返す美奈萌ちゃんに、私は大きな反応を見せた。
 彼女には私の「サイキック」の事を知られているのではないかと薄々気付いていたけれど、こう叩きつけられると思っていた以上に衝撃が強かった。
 変に緊張が高まり、私の鼓動は速まる。
 心なしか汗が流れ出てきそうだ。

「聖羅だけじゃないわ。私の能力も目の前の彼等も特殊な力を持っているの。それに人間だけではなく幻獣も存在するわ」
「あ」

 幻獣、お兄さん達と一緒にいた?
 狼ような、妖精のような、鷹のような、どれも半透明な光を放ち自由に宙を飛び回る不思議な獣だ。

「聖羅は今まで一目を気にして力を潜めていたけど、私達ガーディアンの前ではその必要はないわ」

 美奈萌ちゃんなりに気を遣ってくれたのがわかった。
 彼女の言葉に張り詰めていた緊張が緩む。

「有難う。あのね」
「なに?」

 私は何気なく思っていた疑問を思い切って口にする。

「美奈萌ちゃんはそのマーキスさん達よりも偉い人なの?」
「え?」

 美奈萌ちゃんの表情がポカンに変わるのを見て、あ~空気が読めない質問だったんだって後悔の波が押し寄せる。

「ご、ごめんね、変な事訊いて」
「変な事じゃないわ」

 私の焦燥感丸出しに美奈萌ちゃんの表情が元に戻る。

「複雑化とした組織だから細かくは割愛するけど、大きく分けると五段階となっているの。上からエンペラー、ファースト、セカンド、サード、後はフォース、フィフスと続いていくんだけど、フォース以下の位は一纏めに考えていいわ」
「美奈萌ちゃんはファースト?」
「えぇそうよ」

 美奈萌ちゃんは美しい首筋を覗かせた。
 そこに路地でも目にした赤い刻印が浮かび上がっている。

「これは色によって位が分けられているの。赤はファーストの証よ」

 浮き上がっている赤い刻印はとても神秘的だ。
 彫深いディテールに拘った美しい形は組織の紋章なのだろうか。

「エンペラーはゴールド、ファーストはレッド、セカンドはイエロー、サードはグリーン、それ以下はブルーの色よ」

 色で識別されているんだ。
 確かマーキスさん達はサードって言っていたかな? 私が無意識に彼等へと視線を向けた。

「私共はサードの位になります、ガーデス様」
「だから美奈萌様の方が全っ然上なんだよ」
「そ、そうですね」

 ご丁寧に答えてくれたマーキスさんの後に、アールさんから結論を述べた。
 アールさんって気さくというかフランクな感じなのは良いんだけど、私とは正反対のタイプで引いてしまう。
 見た目も地味な私に対して彼はキラキラと煌びやかすぎる。

「とても階級を重んじているんですね」
「多種な能力を総合的に判断し、階級が下されます。いち階級が上がるだけでも大きな差がございです。ですので美奈萌様は尊い地位におられる方です」

 アールグレイヴさんは相変わらずデキのよろしい執事様のような振る舞いで答えてくれたけど、す、すっごい持ち上げじゃない! とにかく美奈萌ちゃんが格式ある顕揚な方だという事だよね。この若さでその位、言葉もございません。
 今更ながらそんな人が親友でいてくれたなんて……あれ?
 私に内側ある違和感を覚えた。

「位についてはこれぐらいで。また知りたかったら別の機会で話をするわ」

 違和感が「なにか」と答えを見つける前に美奈萌ちゃんから話しが上がり、それ以上の追及が途絶えてしまう。

「もう察しはついているとは思うけど、私達の組織は極秘で行われているの。いわば何処の国も知り得ない未承認とされている。組織の詳細も今は伏せさせてもらうわ。あまり多く語っても混乱を招くだけだから」
「う、うん」
「そしてこれが一番アナタの知りたい事よね? アナタ自身の“ガーデス”という存在の事」





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