第一章

「Guardian&goddess」




「わわ、私を憶えてくれていたんですね」

 普段男性と話すのも近くにいるのも苦手な私だけど、この時ばかりは歓喜に満ち溢れて身を乗り出していた。
 グレイの瞳のお兄さんは私の気持ちとは裏腹のようで、さっきからずっと驚きの表情を向けたままだった。
 私は高鳴った心を表すあまり出来過ぎたマネをしてしまったと羞恥心を抱く。
 カァーッと全身も熱くなった。

「昨日会った女のコなの? 昨日って妖魔を追跡してたよね?」

 金髪のお兄さんがグレイの瞳のお兄さんに問うけど、彼は答えず眉を顰めたまま私を凝視している。
 その視線に私は自身の苦衷を察して視線を合わせられなくなる。

「そのコと接触したのに記憶を払拭させなかったの?」

 金髪のお兄さんは尚も話し掛けてきて、それにグレイの瞳のお兄さんもようやく口を開いた。

「確かにイレイスを呑ませた。呑み込ませて気を失うまで確認している」
「じゃぁなんでそのコ、記憶があるの?」
「…………………………」

 金髪のお兄さんの詰めにグレイの瞳のお兄さんは口を噤んでしまう。

「イレイスは人間どころか妖魔でさえ記憶を消せるじゃん? もし記憶が消されないってなるとガーデスしかあり……え……な……え? ええ!? もしかしてそのコってガーデス様だったりするの!? ガーデスなんて一生に一度だってお目にかかれる相手じゃないじゃん!」

 今度は金髪のお兄さんが驚倒して私を見ていた。
 「ガーデス」って何? 私は首を傾げていたが目の前の美形お兄さん達はまるで茫然自失とした表情を見せていた。

「ガーデス様っていったらさ、もっとこうね~」

 金髪のお兄さんは私の頭のてっぺんから足の爪先までじっくり見たと思ったら、私の隣にいる美奈萌ちゃんをチラッと見て頷いていた。
 その姿を目にした私は金髪のお兄さんの言いたい事を悟った。

「もっと美人で色気があるとおっしゃいたいんですよね?」
「ま、まさか、そ、そんな事ないよ」

 明らかに目が泳いだいる金髪のお兄さんに私は確信した。
 お兄さんが想像していたガーデスさんはいわゆる美奈萌ちゃんのような美麗で艶やか人のようだった。
 別に私は気を悪くしたつもりはなかったけれど、金髪のお兄さんはなにやら弁解をしようと懸命に話しかけようとしていた。

「君、年いくつなの?」
「19です」

 質問されて即答するけど、私には金髪のお兄さんが煌びやか過ぎて若干の距離を置いてしまった。

「これからだね。沢山ヤレば色気は出てくるから気にする必要ないよ」

 金髪お兄さんはいわくありげな笑みを含んだ妖艶な笑みを見せて言いましたが「ヤル」ってなんでしょうか。

「それとガーデス様かどうかもヤレば一発で分かるしね。ねぇ、その役目オレが貰ってもいい?」

 金髪のお兄さんは身を翻してグレイとブラウンの瞳のお兄さん達に問いた。
 さっきから言う「ヤル」ってなんですか?

「構わないがお連れするのはガーデス様だけだ。ガーデス様の横の女はここで記憶を払拭させていかねば」

 答えたのはブラウンの瞳のお兄さんだった。

「え?」

 私連れて行かれる? それに記憶を払拭って美奈萌ちゃんの!? そんな嫌だよ。美奈萌ちゃんも一緒じゃなきゃ!
 私は目の前にお兄さん達に身の毛もよだつ思いに駆られ、無意識に距離を置こうとする。
 美奈萌ちゃんを見ると彼女は不思議と平静を装っていた。

(美奈萌ちゃん?)

「そのコの記憶の払拭もオレがやるよ」

 金髪のお兄さんは嬉しそうに欣喜雀躍な足取りで美奈萌ちゃんの方へと近づこうとした……その時、

「たかがサードのレベルで気安く触ろうとしてんじゃねーよ」
「「へ?」」

 私と金髪のお兄さんは同時に呟いた。
 今の声? 女性の声が私の横から聞こえてきましたが?
 一瞬空気が張り詰めて重い沈黙が流れた。
 その空気を打破したのはグレイの瞳のお兄さんだった。

「オマエ、まさか……ガーディアンか?」

 お兄さんは私……ではなく美奈萌ちゃんに警戒心を抱いた目で注視していた。

「その通りよ」
「え?」

 隣の美奈萌ちゃんに目を移すと、彼女は首を傾け色っぽい右の首筋を露わにする。
 その首筋からポーッと何か赤い刻印のようなものが浮かび上がり、私は驚愕して躯を硬直させた。

「カルテッド#0078946ファースト、ミナモ・シラユリよ」
「うわっファーストの刻印だ! 女のファーストって初めて見た!」
「アール、口を慎め! そして早くこっちへ来い!」

 美奈萌ちゃんに近づいていた金髪のお兄さんにグレイの瞳のお兄さんは制止をかけて呼び戻そうとする。

「分かってるよ!」

 アールと呼ばれたお兄さんは煩わしそうに二人のお兄さんの前に戻ると、彼等三人は即頭を下げて整然なる敬礼をする。

「へ?」

 私は目の前の光景を把握する事が出来なかった。
 グレイの瞳のお兄さんが敬意を込めて釈明を上げる。

「ファーストとは存じなかったとはいえ、差し出がましい行動と出来過ぎた言葉に深くお詫びを申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」
「全くだよ、サードの分際でさ!」

 ひゃぁぁぁ~~腰に手を当てて言う美奈萌ちゃんの高圧的な物言いに私まで恐縮しちゃうんだけど!
 美奈萌ちゃんって何者なの? こんな外人のお兄さん達よりも凄く顕要な姿に見えるよ?
 それに「ガーデス」とか「ガーディアン」とか「ファースト・サード」ってなんなの?





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