第一章

「再 会」




 ヒロくんとの出来事があって以来、私は秘められたこの力を郊外しないようにと必死に守ってきた。
 そして今、潜在意識の空間に自分の思いを届けていた。

(どうか、どうか昨夜この路地で落下してきたサバイバーの彼にまた会わせて下さい。幻獣を従えていて美しい容姿をした彼と、もう一度会わせて下さい、お願いします!)

 出来るだけ具体的に彼の特徴を伝え、ひたすら潜在意識の中に思いを託した。

 ……………………………………。

 祈りを続けてどのくらい時間が経っただろうか?
 数分だった気もするけど、数十分も経った長さも感じた。

 ……………………………………。

 しかし思いは虚しく何の変化も起きなかった。
 月の光は益々明るく路地を照らし、平和な様子が伺えた。
 私はなんだか拍子抜けしてしまい、ふと美奈萌ちゃんを見ると、彼女も同じ思いだったみたいでキョトンとしていた。

「なんかごめんね。祈りが通じなかったみたい」

 思わず私は詫びる。

「謝らなくていいよ。聖羅が悪いわけじゃないだから」

 美奈萌ちゃんの言葉に私は安堵感を抱いた。
 だけど内心は残念な気持ちも大きかった。
 またサバイバーに彼に逢いたいという想いからだと思うんだけど……でも翌日の今となってあれは夢だったのかなとも思えてきた。
 私が複雑な表情をしていたのか美奈萌ちゃんが私の背中に手を置いて、

「気にしないの! まだ会えないと決まったわけじゃないでしょ? 会いたい気持ちがあるなら、きっとまた会えるからさ」

 優しい表情で宥めてくれた。

「そうだね」

 私は美奈萌ちゃんの言葉に応えるように微笑むと、彼女も満面の笑顔となった。
 いつまでもくよくよしていてもなにも変わらないものね。

「帰ろうか。もう22時回っているし」
「そうだね」

 私と美奈萌ちゃんがその場から離れようとした時だった……。

 ――ピカッ。

「「え?」」

 私と美奈萌ちゃんは同時に呟いた。

(今光ったよね? ……これってまさか?)

 ――ゴロゴロゴロォォドッカ――――――――ン!!

 私が気付いた時には「それ」は凄絶な光と音を夜空へと響かせていた!!

「きゃぁああああああ!!」

 私は反射的に美奈萌ちゃんに抱き付いた。

「せ、聖羅?」

 急に取り乱した私に美奈萌ちゃんは面食らっていたと思う。 私は根っから雷が大の苦手で美奈萌ちゃんの反応を気にしている余裕はなかった。

 ――ゴロゴロゴロォォドッカ――――――――ン!!

「きゃぁああああああ!!」

 もう一度派手に稲妻が響いた。 この音は絶対に何処かに落ちた筈だ。 私はさらに美奈萌ちゃんに強く抱き付いてしまった。

(なんでなんでなんで!?)

 私は発狂したかのように頭の中がグルグルとしていた。 さっきまで満天の星空で雲一つなかったのになんで急に雷が鳴るの! なんの現象なの! 私がブルブルとしている間、美奈萌ちゃんは優しく私を支えてくれていた。

「聖羅……あれを見て?」
「え?」

 美奈萌ちゃんから声を掛けられる。
 あれって雷の事? 私が顔を上げるのを躊躇っていると、

「え? わわっ」

 一陣の風が舞い降りて、私は思わず美奈萌ちゃんから離れた。
 上空を見上げてみると……。

「え?」

(な、なにあれ!)

 私は目を疑った。 映ったものが半透明なピンク色の強大な光に包まれた女性(?)が、大きな羽を広げて優雅に飛躍しているんだもの! まるで光の精霊のように美しい女性だけど、顔の中のパーツがない! なにあれは? なんなの!?
 私が固まっている間にも光の精霊は機敏な動きを見せながら上空を飛び回っていた。

 ――バサバサバサバサッ!

 さらには翼をバタつかせるような音が響いてきて?

「へ?」

 気が付いた時にはそれが目の前に現れていた。 さらに私は硬直したする。 だってさっきの光の精霊と並んで今度は黄色い半透明の光に包まれた鷹のような大鳥が飛躍してるんだもの。

「な、なん……なん」

 私はあまりの驚愕に声にならない言葉を洩らす

 ――カツン、カツン。

 靴音が聞えてハッと我に返る。
 見上げていた視線を音の先へと移すと真っ暗な光景の中から、ゆらりと何かが姿を現した。

(え?)

「わぉ、日本人の女の子コだ」

 私は瞠目する。 現れたのは男性だった。
 私と美奈萌ちゃんの姿を目にすると、恍惚とした瞳をさせながら感嘆の声を上げた。
 男性は金色の髪の毛をハーフアップにして、たくさんのピアスを付けていた。
 辺りが仄暗くハッキリとはわからないけれど、紫色の大きな瞳をしていて女性負けしそうな美しい顔立ちをしている。

 見た目の華やかさに思わず息を呑んだけど、なにより目を引いたのがこの真夏には不適切なショート丈の革ジャケットを羽織り、さらに革の手袋を嵌めてブーツまで穿いている。
 革のスラックの腰回りにはジャラジャラに貴金属の装飾もしている。
 極めつけは何故ロングショットガンを所持しているの?
 私はこの華やかなお兄さんを目にして口をポカンとしていたら、

「……日本の女のコ? 妖魔じゃないのか?」

(え?)

 新たにゆらりと動く一つの影。
 気が付いた時には金髪のお兄さんの隣りにまた別の男性が現れた!
 その男性はブラウン色の短い髪を逆立てにし、切れ長の瞳も髪と同じ色をしていた。
 眼鏡をかけていて知的で冷静沈着な雰囲気をもつお兄さんだ。

 このお兄さんもパーツも彫が深くて端正な顔立ちをしている。
 そして金髪のお兄さん同様、真夏にも関わらず、革の黒いロングコートを身に纏い、革の手袋を嵌めてブーツまで穿いている。
 やっぱロングショットガンが所持されているのはなんででしょう!
 私は目の前のお兄さん二人と暫し無言で視線を合わせていると、

「そんな筈ないだろ、あれは確かに妖魔の気だった」

(今の声って?)

 低く甘い痺れるような聞き覚えのあるバスヴォイスに私はある予感が横切る。
 ふらりと揺らぐ二つの影。
 最初に現れた影は昨日出会った半透明の真っ白なあの「ワンちゃん」だ。
 私は心がドックンドックンと速まり、もう一つの影に大きな期待を抱いた。

 現れたもう一つの影。
 現れた人物を目にした私は躯中が大きく痺れて熱が回る。
 その人物とは……。

「目の前のヤツが妖魔じゃ……って、オマエは……昨日の?」

 昨日私にキスをした、また強く会いたいと懇願をしていたグレイの髪色と瞳をもつ、あのサバイバーの「彼」だったのだ……。





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