第一章

「閉ざされた過去」




「美奈萌ちゃん、今すっごい事言ったよね?」

 私は恐る恐る彼女に訊いてみた。
 確か基本肉食系って? 肉食系ってなに?

「そんな事言ったけ?」

 キョトンとした表情でこちらを見ている美奈萌ちゃん。
 彼女のこの表情からして、すっ呆けている様子もなく無意識に呟いてしまったんだなーと思ったけど、すっごく気になるよ。
 言った事を覚えていない美奈萌ちゃんに追及してもな。
 また別の機会に訊いてみようと思った。

「聖羅」
「こ、今度はどんな質問? もう変な質問は受付ないからね」

 前もって釘を打っておく。
 さっきみたいな色気のある質問されたら、今度はシューってしぼんじゃうって!
 警戒心を抱きながら美奈萌ちゃんの言葉を待つ私。

「そんな怖い顔しないでよ。聖羅ってさ、どんな男性がタイプなの?」
「男性のタイプ? うーん優しい人かな?」
「女の子は好きだよね、優しい人。今まで好きになった人はどんな人だったの?」
「……実は私、まだ初恋すら経験した事がなくって」

 私は小声で答えた。

「えぇ――――そうなの!?」
「う、うん」

 美奈萌ちゃんはかなり驚愕をしていたが、やっぱこの年で初恋がまだなんておかしいよね?

「別に構わないんだけどさ。日本語話せる外国人とかも有りだったりする?」
「え?」

 み、美奈萌ちゃん、なんの話ですか? けっこう具体的じゃない? 今日の彼女の話の意図が見えな過ぎ。

「具体性があるけど、なんの話かな?」
「ほら外人苦手な人っているじゃない?」
「そうだね」
「聖羅はどうなのかなって思ってさ」
「私は別にそうでもないよ」

 サバイバーの彼も日本人離れした感じだったけど、カッコ良くて好きだけどな。
 ん? 今好きって言った? 自問自答をしていると向かいの美奈萌ちゃんがこう呟いた。

「聖羅は控えめなタイプだからグイグイ引っ張ってくれる人が合っているかもね」

※     ※    ※

 ファーストフード店で食事を終えた私達は昨日サバイバーの彼と出会ったビルの路地に出向いた。
 今日は夕方から晴れて夜も雲がなく月がクリアに出ていた。
 昨日と違い打って変わって平和そうな夜であるけど、果たしてサバイバーの彼に会う事は出来るのかな。

 昨日みたいな奇妙な空気が漂っている方が出会えそうな気がするけど、なんといっても羅刹事件が起きた日でもあるから、あんな奇妙な残酷な出来事はもう絶対に起きて欲しくない。昨日の事を思い出しただけで震えと鳥肌が立ってしまう。
 サバイバーの彼が落ちてきたドラム缶の前に美奈萌ちゃんと一緒に立っていた。

「ここにね、サバイバーの彼が落ちて来たの」

 思い出すと嘔吐してしまいそうだった。
 人が落下してきたなんてドラマの中の世界だけで実際に目の辺りにする事はないんだもん。

「そうなんだ。この高層ビルから落ちて来て、無傷に動くってやっぱただモンじゃないよね」
「う、うん。それに不思議な光の幻獣も一緒にいたよ」
「幻獣ね~本当にファンタジーの世界から飛び出したような人だねー!」

 美奈萌ちゃんは心底嬉しそう。
 確かに物語の世界のような人を実際にお目にかかれたら、これ程興奮する事はないだろうな。
 私もファンタジーは恋愛の次に大好きだし、あんなにカッコイイ人に会えたら、あまりの嬉しさに失神しちゃうかも。

「じゃぁ、早速その彼を呼んでみちゃおう」
「心の奥から願えばいいんだよね?」

 美奈萌ちゃんから言われた途端に緊張が高まって鼓動が速く感じる。

「そう、神経を心の奥に集中させて唱え続けるの。潜在意識に思いを通して彼をこちらに来るように念じてみて」
「やってみる」

 私は目を瞑り意識を心の中へと送り込む。
 普段意識する「顕在意識」を眠らせ「潜在意識」の暗い空間が見える。
 こんな意識は通常の人には見えないのだが、私はサイキックの為、見えてしまうのだ。

 ただ気を付けなければならないのが、意識の乱れでコントロールを誤り、物体を動かさない様にしないとならない。
 美奈萌ちゃんに見られてしまったら、彼女ともう友達ではいられなくなるだろう。

 「潜在意識」それは誰しも持っている人が普段「意識をしない意識」の事である。
 その意識は「願いを叶える力をもつ」と言われている。
 その説は初めアイルランド出身の宗教者「ジョセフ・マーフィー(Joseph Murphy)」の「潜在意識の法則」の考えからきていた。
 彼は「強く心から望んだ事は必ず実現する」と言い切っていたのだ。

 潜在意識と正しい祈り方を知る事によって思う様に自分の世界を操る事が出来るそうだ。
 宗教的で抵抗を感じる人もいるかと思う。
 私も無宗教で普通の人はそんな非科学的な論理を信じろと言われても信じない。
 でも私の場合はこの潜在意識を利用して物体を動かす事が出来るのだ。
 さすがにテレパシーやテレポートといったものは出来きないけれど。

 でもそういった能力はごく稀の人にしか使用出来ない。
 実際に私は自分以外のサイキックを見た事がない。
 そして家族の誰一人と、この能力を使える人はいない。
 この能力を認識するようになってから、無意識に感じる保身からか家族ですらこの能力を見せた事がなかった。
 けれど昔一度だけ人に見られてしまった事があった。

 子供の頃、近所で仲が良かった幼馴染の「ヒロくん」。
 笑顔が可愛いコで、とっても優しくて大好きな男のコだった。
 毎日ヒロくんと遊んでばかりいて、そんなある日の事だった。
 アレは小学校に上がる前の事だ。

 いつものようにヒロくんと公園で遊んでいた。
 お転婆だったヒロくんは私に木の上にいる小鳥を見せようと登っている途中、餌を小鳥に食べさせようと戻って来た親鳥に襲撃され、木の上から落下してしまった。
 その瞬間、私は無意識に手をかざし、ヒロくんを宙に浮かせて、ゆっくりと地に足を着かせた。
 あまりの突然の出来事に私も無意識に力を発動させてしまい、後悔の念の押されたがヒロくんは目を輝かせてお礼を言ってくれた。

 怖がらなかったヒロくんに安心と嬉しさでいっぱいだったけど、実は私の能力をヒロくんのお母さんにも目にされていて、それ以来ヒロくんとは接する事がなくなった。
 私は小学校に上がる前に転校する事となり、完全にヒロくんとは縁が切れてしまった。
 最後彼がこっそりと会いに来て教えてくれた事があった。

「ママが聖羅ちゃんは普通のコじゃないから二度と関わっちゃダメだって言われていたんだ。本当に本当にゴメンね」と。





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