第一章

「嵐の前の平穏」




 ちゃっかりと私は服選びに慎重になっています。
 クローゼットの中からありったけの服をベットの上に並べ、立て鏡の前で合わせてはアレでもないコレでもないとコーディネートに時間がかかっております。

 まだサバイバーの彼に会える確証は何処にもないのですが、心なしか仄かに期待があるようで全くといって落ち着きません。
 服選びといってもデートで着るような可愛いお洋服を持ち合わせていないので、どの服を選んでも普段着には変わりないのですが。

 さっきから緊張の溜め息が止まらない。
 こんなに異性に対して意識した事がないから、このソワソワとした焦燥感とどう向かい合ったらいいのか分からない。

「はぁー」

 また溜め息をついてしまった。
 こういう落ち着きがない感情を世間一般ではなんというのでしょう。

 数時間にも及んでチョイスした服はクリーム色のワンピース。
 リボンやフリルなんて可愛いデザインのものではないけど、ヒラヒラのフレアスカートで敢えてこれが一番可愛いかな? あとは白いカーディガンを羽織ってと。
 カーディガンもなんの変哲もないシンプルなものだ。
 勝負服というものは用意しておくべきだと学んだ。

 あとは髪形だよね?
 私は普段腰まで伸びたぼったい黒髪を下ろしているけれど、この髪形で会うのは恥ずかしいな。
 せめて簡単にサイド一つに結いでおこう。
 確か花柄のシュシュがあったからそれを使って。

 あー美奈萌ちゃんだったら余裕なんだけどな。
 人を羨ましがっても変われるものでもないし、私は私!
 部屋に掛けてある花型時計を見たら、もうすぐ約束の20時になってしまう。私は慌てて支度をする事にした……。

※    ※    ※

 私は待ち合わせのファーストフード店前で待っている美奈萌ちゃんの姿を見つけると、あれ? 美奈萌ちゃんが二人の男の人と一緒にいる?
 知り合いかな? でも美奈萌ちゃんの顔が険しい。

 暫くすると美奈萌ちゃんが手を引かれてたり、腰に手を回されたりしている?
 彼女の顔が険しいを通り越して怒った表情へと変わり、相手の人達に足蹴りをした!
 相手はなにか文句のような言葉を飛ばして、その場から去って行った。

「美奈萌ちゃん! 大丈夫!? さっきの人達知り合いじゃないよね!?」
「違ううざいナンパ!」
「そうなの?」
「そう、聖羅待っている間の10分間で5組のウザイ奴等から声かけられて」
「す、すごいね、5組って。遅れて本当にゴメンね! 私が遅れたから嫌な思いさせちゃったね」

 私はシュンとして沈んだ表情をして謝る。

「遅れたっていってもたかが5分やそこらなんだから、そんなに謝らなくていいよ」

 彼女は本当に嫌がっている素振りも見せず本当に優しい。
 改めて美奈萌ちゃんの可愛さに恐れ入った。
 美奈萌ちゃんは露出度の多い服装をしているんだけど、変に厭らしがなく着こなしているのが凄い。でも女性としての色気があるから男の人を寄せてしまうんだろうな。

 だけど一途なコで彼氏さんオンリーみたい。
 世界各国を回って仕事をしている彼氏さんって一体どんな人なんだろう。
 実は私に恋愛経験がないから色恋沙汰の話ってしないんだよね。

「アルバイト後でお腹減ったよー」
「それなのに待たせちゃって本当にゴメンね」
「もう謝っちゃダメ」

 コツンと頭を軽く小突かれて、私は美奈萌ちゃんの後を追ってファーストフード店に入った。
 メニューから好きなサンドウィッチのセットを選んで商品が出ると美奈萌ちゃんと席を選ぶ。
 二人でこっそり話せるような丸テーブルの席を選んだ。

「聖羅はなに頼んだの?」
「照り焼きチキンのサンドウィッチにしたよ。美奈萌ちゃんは?」
「私はサーモンとアボガド」
「そっちも美味しそうだね」

 私達は早速頬張って食べる。
 サンドウィッチとリングオニオンポテト、ドリンクのついたお得なセット。
 美奈萌ちゃんもだけど、自分も相当お腹が減っていたんだって食べてから気付く。
 暫くモシャモシャと食べる事に集中していると、美奈萌ちゃんから話しかけてくれた。

「聖羅」
「なあに?」
「聖羅って好きな人いるの?」
「え?」

 突然なる質問に私はむせてしまう。

「ケホケホッ」
「ちょ、大丈夫? なんか今日は慌ただしいわね、アンタ」
「ご、ごめんね」

 私はドリンクを飲んでむせを直そうとする。
 私の状態が元に戻ると、美奈萌ちゃんが身を乗り出して再び突っ込んでくる。

「実はお付き合いしている人とかいたりする?」
「ど、どうしたの急に!?」

 今までそんな恋話の質問なんてされなかったし、いたら真っ先に美奈萌ちゃんに話しているって!

「いたら話しているよ」
「そっか」
「ついでに訊いちゃうけど、男の人とエッチした事ある!?」
「え?」

 私は絶句した。躯全体が固まって動きが固まる。
 彼女から言われた言葉の意味が把握出来なくて……。

「え? え? え? えぇええええ!? み、美奈萌ちゃん、な、なんて事訊いて来るの!」

 私の悲鳴に近い雄叫びに周りの人達が一斉にこちらへと向いた。
 思わず立ち上がって叫んじゃったよ~。

「そんなに驚く? その様子だとまだそうだよね」
「もうっ今までそういう話をしなかったのに急にどうして!」

 私は自分でもなに言っているのか分からないぐらいテンパって顔も真っ赤になっていた。

「困ったなー、基本肉食系だから心配」
「へ?」

 ボソッと美奈萌ちゃんから呟かれた言葉を私は見逃さなかった。





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