第一章
「潜在意識の中に眠る不思議な力」
「え?」
私は突拍子もない声を上げてしまう。
「えっと会うっていってもどうやって?」
私の頭に再び「?」が浮かぶ。
「聖羅はまたその彼に会いたいって思う?」
「え?」
美奈萌ちゃんの言葉に私は声が詰まる。
答えは……。
「う、うん、また会えるなら会いたいな」
とっても素敵な人でファーストキスの相手の人だし、夢じゃないのであればまた会いたいな、なんて。
気持ちが高ぶって私は頬を紅潮させる。
「ねえ聖羅?」
「なあに?」
「人はみな不思議な能力を持っているのを知ってる? それは潜在意識の中に眠っているの」
「へ?」
美奈萌ちゃんの質問に私は心臓が飛び出そうなくらい驚いて叫んでしまった。
そんな反応は普通の人ならしないだろうけど、私の場合は違った。
美奈萌ちゃんの言う不思議な能力の事って、まさに私が持っているものだから。
美奈萌ちゃんには私の能力の事は話していないし、第一生まれてこのかた誰一人と話をしていない。
だから彼女が気付いているのかと思って動揺してしまった。
「潜在意識って人が普段気にとめない意識の事でしょ? その潜在意識は心から望む事を実現する力を持っているの。おまじないを成就する方法って、まさにこの潜在意識を上手くコントロールして願いを叶えると言われている。だから聖羅が彼に会いたいって想いを上手に潜在意識へ到達させて相手にビビッとコンタクトすれば現れてくれるんじゃないかな?」
「そ、そうだね」
普通に聞いていたら、そんなお願いぐらいでって思う事だと思う。
でも私はまさに「潜在意識」を利用して不思議な力を使う「サイッキク」なのだ。
もう今の私の慌てぶりは尋常ではないと思う。
動悸は乱れ、頭の中はグルグル、全身から汗が滲み出る感覚に意識を飛ばしそうになる
「ちょっ聖羅! アンタ大丈夫!? なんか顔色悪いよ!」
「だ、大丈夫……だよ」
美奈萌ちゃんが心配してくれて背中をさすってくれる。
「テストが終わって気が緩んで疲れがドッと来ちゃったのかもしれない。一過性だと思うから気にしないで」
私は自分でも訳の分からない無理矢理こじつけた理由で誤魔化した。
絶対にサイキックの事だけは知られたくない。
「普通」と違うって小説や映画の世界みたいに素敵な事ではないのだ。
それが如何に恐れられているか現実はシビアだ。
でも美奈萌ちゃんなら偏見なしに受け入れてくれるのではないかと心が緩んでしまう時もあるけど、それでも知られて万が一受け入れてもらえなかったらと思うと下手に話さない方がいい。
それになにより、こんな素敵な友達を失いたくない。
私にとってこんなデキが良くて可愛い友達はきっとこの先出来ないだろうから。
「本当に大丈夫?」
美奈萌ちゃんにもう一度背中をさすられるけど、私は視線を合わせる事が出来ない。
これ以上心配かけたくなくて、
「本当にごめんね。ありがとう」
こう答えるのがやっとだった。
※ ※ ※
申し遅れましたが私の名は雛菊 聖羅と言います。
春に誕生日を迎えて19歳になりましたS国立大学経済学部の一年生です。
青森から上京をしまして今都内にあるアパートで一人暮らしをしています。
本屋でアルバイトをしていますが、基本は親からの仕送りで生活をしています。
趣味は小説や映画を観るのが大好きです。
SF、ファンタジー、推理、歴史ものとジャンルに問わず大好きですが、やっぱり一番大好きなのは恋愛ものです。
私は極度の内気な性格な上、姉妹も姉が二人なので、このかた男の方と話すのが大の苦手なんです。
その為、高校も女子高へ行き、一安心ではあったのですが憧れていた恋愛には恵まれずでした。
恥ずかしながら初恋もまだなんです。
なので男の人とお付き合いもした事もありません。
さすがにこのままではマズイと思い、大学は共学を選んで思い切って上京までしてはみたのですが、夏となった今でも出会いがありません。
サークルが盛んな大学なので入会しようと思っていたのですが、収入重視という考えが勝り、アルバイトを優先としてしまったのも出会いを避けてしまった要因の一つでもあります。
アルバイト先も年上の既婚者の方しかいないので難しいです。
そんな厳しい現実もありまして私は恋愛ものが大好きなんです。
本の中のヒーローは本当にカッコイイですよね。
架空の人物だと分かっていても憧れてしまい、初めて恋をするなら、こんな人って勝手に思ってしまいます。
理想が高いとイイ恋愛には巡り会えないのは分かっておりますが。
カッコイイで思い出しましたが、昨日私は不思議な人と出会いました。
ビルの間の細い路地で突然に降って落ちてきた男性です。
普通に聞かれたら怖いですよね。
でも本当に落ちてきた人で、背が高くて顔も彫が深くて端正で日本人離れをしたエキゾチックな雰囲気をもった大人の男性。
でも真夏なのに何故か革のロングコートとロングショットガンを持った不思議な人。
それにお犬様のような幻獣を従えていて。
ファンタジーの中の人物と運命的な出会いをしたって思っています。
しかも彼から……その……ファーストキスも奪われました。
あれ? でも確か……恥ずかしがていて肝心な事を忘れてました。
確か彼は私の記憶を払拭すると言っていたような? 気絶した私は彼と出会った路地の上で目覚めて記憶は残っていた、なんでだろう?
確かに彼から得体の知れない「液体」を呑まされて、それが忘れ草だったのではないかと思っていたのですが。
それは考えても分からない事なので、さておき実は夜にアルバイトが終わった美奈萌ちゃんとランチの時に話をしていた「サバイバー」の彼に再び会おう大作戦をする予定となっています。
その際にどうか私の超能力がウッカリと発動しませんように……。