Birth83「身も心も蕩かされ」




 笑みを深めたオールさんは私の唇をふわりと包み込みます。小鳥が啄むようなライトなキスです。優しい口づけを幾度か繰り返され、ジワジワと躯中に熱が帯びてきますが、逆に躯の力は少しずつ抜けていくように思えました。

 先程の情熱的な口づけが躯を強張らせておりましたが、今は触れられる度に互いの緊張の糸を解いているような感じです。触れ合う事によって躯が少しずつ彼との口づけに慣れを覚えてきたのでしょう。

 緊張の震えが緩和されていきますと、オールさんの舌が私の耳朶へと移って愛撫が行われます。やんわりと丁寧にくすぐられておりますが、刺激する水音は脳髄へじかに響き、私の躯を小刻みに震わせます。

「ふっ…あ、あぅっ」

 震える躯に合わせて私の口元からは切な気な吐息が洩れていました。口づけで気付きましたが、オールさんは一つ一つの愛撫がとても丹念です。彼のマメな性格がここでも表れているのでしょう。

 耳を離れてからは首筋、鎖骨、胸へと上から下に落ちていき、口づけられる場所すべてに熱が集約し、甘美な痺れが止まりません。時折、強めに吸い付かれますと、そこにほんのりとした赤みが帯び、愛の印を刻まれているように思えました。

「んっ…んんぅ」

 熱を噴き込まれる度に自分の零す吐息が淫らに変わり、無意識に息を押し殺してしまいます。

「お声を抑えず、自然のままでいて下さいませ」

 私の堪えている様子に気付いたオールさんは私の肌から舌を離し、お声を落とされました。

「抑えはお躯に力が入られます」
「か、感度は悪くなりますものね」

 口づけの時に言われたばかりです。こう何度も同じ事を言われては彼の気持ちが冷めてしまわないか心配が生じます。

「それもございますが、お声を出して下さる方が私の気持ちも昂りますので」
「え?」

 思わぬ言葉のお返しに、私は息を切りました。

「ですので、有りのままの貴女をお見せ下さい」

 わ、私なんかが洩らす喘ぎ声でオールさんが情欲されるのですか!先程から彼の言葉を官能的に受け止めてしまうのは既に私の気持ちが淫らになっているからなのでしょうか。

「は…ぃ」

 従順に返答をした時点で認めざるを得ません。そんな羞恥にあたふたする私を目にして綻びるオールさんからそっと唇を覆われ、そして私の胸元に大きな手が包み込みます。夜着越しから支えるように下から胸を持ち上げられます。

―――ドクンッ。

 一段と鼓動が跳ね上がりました。胸は中央に向かって円を描くように揉まれていきます。口づけによって視界は塞がれておりますが、伝わる触感から光景を想像してしまう自分がまた猥りがましく思え、それがまた劣情を煽っているのも確かです。

 胸元の手はぐ事なく、律動的に廻されておりました。揉むというよりは中央に寄せながら質量を感じているのではないでしょうか。私の胸は平均より少し大きいぐらいですので、それなりに質量感があります。

「あぅ…はぁっ…あんっ」

 与えられる刺激は強くなくとも、躯は小刻みに揺れ動きます。感触だけではなく、這う舌の水音や手の動きなど、聴覚や視覚から流れてくる刺激に躯が踊らされておりました。

 気を遣って下さるという事は分かっておりますが、焦らされているようにも捉えられる動きに躯の芯が訴えるように疼き始めます。それを感じ取られたのか、胸を翻弄していたオールさんの手が夜着の中へと滑り込み、じかに触れられます。

―――ビクンッ!

 当然の流れではありますが、私の躯は過剰に反応を示しました。その反応をオールさんに感じ取られ、私を宥めるように、やんわりと口づけを首筋から下へとゆっくりと落としていかれます。

 口づけが胸元近くまできますと、私はハッと息を呑みました。軽やかに私の胸は空気に晒され、桜色の蕾が姿を露わにしました。蕾には触れられていませんが、既に色づいて屹立しており、その姿をオールさんからしっかりと凝視されています。

 眼光鋭く人を射るような視線に、私は追い詰められた小動物のように竦んでおりましたが、オールさんはふと笑みを垣間見せ、綺麗に笑う彼の姿に思わず惚けてしまいます。

「お綺麗な胸でいらっしゃいますね」
「あ、有難うございます」

 突然のお褒めの言葉に面食らいましたが、素直にお礼を伝えます。これまで共に経験をした男性から必ず胸の大きさと形は褒められるんですよね。ちょっと自慢話になりますが。

 そして、あまりにもジッと胸を見つめられるものですから、思わず胸を隠したくなりましたが、熱を深めているオールさんの表情を目にして隠せなくなりました。様子を窺っておりますと、彼は屈んだ姿勢で片足を私の足の間へと挟み込みます。

「ふぁっ…」

 それから彼はすぐに躯を落とし、私の胸の愛撫を再開します。今度はじかに愛撫です。服越しの時とは明らかに熱の浸透が異なります。乳房を中央に引き寄せられ、指と舌を使っての愛撫です。

 女性は視覚的というよりは触感で快楽を得ると聞いた事がありますが、今のこの光景は視覚的から淫らな情を引き出されておりました。ずっと高嶺の花であったオールさんが手の届く位置で愛を放って下さっているのです。高揚せずにはいられません。

「はぁっん…んぁっ、あんっ」

 熱に浮かされ、淫猥な吐息が止まりません。愛撫はあくまでもフンワリ緩く乳輪の周りを責め、決して乳頭には触れません。オールさんの事ですので、欲を突っ張らずにいて下さるのだと思いますが、私はもどかしい気持ちになっておりました。

 いくら気持ちが高揚しているといえ、自ら強請る事は出来ません。それが切な気な吐息を生み、瞳は恍惚に潤い始め、まるでもどかしさを訴えているようでした。察しの良いオールさんには気付かれたようで、

「ひゃっ…ぁあん」

 刹那、私の躯に電流が駆け抜けます。蕾を優しく舌と指で弾かれただけですが、躯が仰け反りそうとなりました。まさかここまで敏感になっているとは思いもよりません。

「はぁ、あぅん、あんっ、」

 水気を帯びた熱い舌から転がされ、指では摘み上げられて摩られ、また指の腹で弾かれたりと、焦らされて我慢していた熱が爆発した私はよがり声を上げます。素直に感じるようになったからでしょうか、与えられる快感が強まっていきます。

 そして挟まれているオールさんの足が私の秘部へと押し付けるように圧迫され、さらに刺激するように微動されて、夜着越しではありますが立派な愛撫となっていました。直に触られていないのが、これまた焦らし効果を高めているのでしょうか。

 それからオールさんの固い太腿、加えて男性器が私の下肢に当たる事で肉体的に彼を感じ、何より普段クールな彼から想像もつかない色めくお姿がより私を興奮させ、より淫らに嬌声を上げさせます。

 揺れ踊らされた乳房はいつの間にかしっとりと淫らな形に歪まされ、蕾は艶気を帯びて屹立としておりました。背筋から脳へと急速に込み上げてくる波に、ゾクゾクと躯が戦慄きます。

―――も、もう…。

 全身が引き攣ったような感覚に襲われた時でした。

「ひゃっぁあん!」

 高々とした嬌声を弾いた私に世界がチカチカと閃きました。派手に絶頂を迎えてしまったのです。

「はぁ…はぁ…はぁ」

 私は体内に酸素が追い付かず、肩で息をしていました。胸だけで大げさに達してしまった羞恥に、まともにオールさんに目を向けられません。そんな私を見下ろす彼はから、

「大丈夫でしょうか、沙都様」

 とてもお優しい声色で様子を窺われます。

「…はい」

 まだまだ呼吸が整わず、逆上のぼせた躯が熱くはありますが、今オールさんが目の前に居て下さる事が心地良い快感でした。そのような甘い余韻に浸っておりますと…。

「沙都様は強めにされる方がお好きでしょうか?」
「!」

―――なんて事をお聞きになるのですか!

 オールさんから真顔でとんでもない質問が飛び、私は口がパクパクとしてしまいます!

「ご出産経験のあおりの方はその後、赤子に母乳を与える影響によって、強めを好まれる方が多いですので」

―――何故オールさんがそのような事をご存じで?

 鋭く突っ込みそうになりましたが、心の奥底へと沈めました。無粋な事を探れば妙な気持ちが湧き起こるだけです。彼は気を遣われただけかもしれませんし。だって今の彼は至極まっとうなご様子ですし。

 そういう事にしておきましょう。それに今は甘いひと時を過ごしたいですから。与えられたオールさんとの大切な時間です。初めての時間は甘美な思い出として残したいではありませんか。

「お、お聞きにならなくても、私の反応でお察し下さい」

 と、私は可愛げのない返答をしてしまいましたよ。私の言葉にオールさんはハッとした様子を見せられました。

「失礼を致しました。無粋な質問でしたね」
「す、済みません。そのように真面目にお詫びを言われるとは思わず」
「いいえ、私の不躾でした」
「もうお気になさらないで下さい」

 あぁ~、何故このような互いが謝り合っているんでしょうか。せっかくの甘美な時間が崩れてしまうではありませんか。私は眉根を下げてオールさんを見上げます。すると、彼も微かに眉根を寄せて私を見下ろしていました。

 …………………………。

 なにやら私達は同じ複雑な気持ちが沸いていたようですね。フッとどちらからともなく表情が綻びました。

「沙都様、続きを宜しいですか?」
「!……は、はい」

 そうでした。私達は色事をしている最中でしたね。少し意識がずれて気が抜けておりました。私の返事にオールさんは真摯な表情へと変わります。そして雰囲気を取り戻すように、甘い口づけを落とされました。

 暫く口づけに意識を奪われておりましたが、ふと感じたオールさんの思わぬ行動に私の躯が硬直となりました。夜着のスカートにオールさんの腕が滑り込み、伸びた手が私の秘部を擦られたからです。

「ふぁっ!」

 口元から呼吸が爆破したような声が洩れます。間もなくしてハラリと夜着のスカートを捲られ、私の下肢が空気に晒されました。それも束の間、すぐにショーツがスルリと軽やかに脱がされていったのです…。





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