Birth48「情愛の花」




 私は驚き、フナのように口を開けたまま微動だにせずに、陛下を見つめておりました。

―――えっとですね、今陛下はなんと?

 この先の意味を把握しようとすれば、思考が切断されます。心の何処かで理解を拒んでいるのでしょうか。そんな行き悩む私ではありますが、陛下は綽然しゃくぜんとなさったご様子で、私を見つめ返しています。

「どうした?早く満たされたくはないのか?」
「…っ」

 促され私は言葉を返そうとしますが、言い淀みます。困惑し眉根を寄せる私を見つめる陛下の唇が三日月形に割れておられるではありませんか!その余裕綽々の姿に私はまたしてもヤラれたと思うわけですよ。

 こういった陛下の意地悪は日常茶飯事です。えぇ性行為の時限定ですけどね。それでは……と、行為を進める訳にも参りませんし、かといって進まずに終わりにも出来ません。躯は満たしたいと全身で訴えていますから。

 視線を落とせば、猛々しく聳えた陛下の楔が目に焼き付き、十分な熱と水気を帯びているようで、存在を主張アピールなさっています。この陛下の象徴を手にするのか、尻込みするのか決断に逡巡しゅんじゅんざるを得ません。

 白状してしまえば、今まで雄芯おしんを手にした事も、愛撫した事もありますが、一度も自分から挿入した事はありません。性交渉の時は陛下に主導権を握られていますからね。私は陛下のペースに合わせておりましたが、それをいきなり逆転しろと言われましても。

 …………………………。

 陛下から鋭い視線を縫い付けられ、私は全身がバラバラになりそうに鳴り打つ鼓動と向き合い、意を決します。恐る恐る陛下の性器へと手を触れます。ビクンッと手に痺れが走り、一瞬引きそうになりましたが、ジワッとした熱さとぬめり気が馴染むよう浸透していきました。

 楔はドクドクと心臓のように脈打ち、既に硬くなっています。私が雄芯を手にした時、陛下は後ろに手を立て上体を反らされました。私が行為し易いように気遣って下さったのでしょう。これから雄芯おしんを挿れるのですよね。

 自分から…。そう改めて思いますと、踏ん切りがつきません。しかし、視覚からくる淫猥な様子に下肢は疼いて蜜が滴り、満たされたいと胸が張り裂けそうになった私はとうとう雄芯を秘部へと宛てがいます。

 互いの性器に触れ合った瞬間、グヂュッと水気が摩擦する音に羞恥を覚え、私は動きを止めそうになりましたが、ジワジワと纏う甘美な快感が広がり、躊躇いが綺麗に霧散していきました。

「ふっ…ぁあっ」
「…っ」

 重圧と共に蕩けた声が零れ落ち、正直上手く挿入出来ないだろうと思っておりましたが、思いのほか秘肉を包む込む事が出来ました。これも毎夜の密事によって花襞が柔軟になったのでしょうか。

 胸に戸惑いと淡い喜びの入り混じった感情を抱き、私は陛下の肩に手を乗せ、腰をゆっくり上下に動かしていきます。心の早く達したいという気持ちに応えようと、躯が独りでに踊り出していました。

 拙い動きではありますが律動を刻んでいき、息を詰めては吐き出して、自分なりのリズムを生み出します。いつしかそれは快楽を生み、私を必死にさせます。

「はっ…あっ…はぁっ…はぁんっ」

 吐息はグヂュッ、ビヂュッと、淫猥な水音の摩擦と共に室内全体へと響き渡り、私は官能的な行為を視界に映すのが堪え難く、瞼を固く閉じておりました。それでも結合部から感じる肉圧は生々しく、跳ね上がる躯は止まりません。

「はぁっ…」

 目の前で切なげな声が聞こえ、薄っすらと瞼を開けてみます。陛下の熱に浮かされた艶やかな表情が目に入り、感じて下さっている、そう思うだけで胸と秘部の奥が熱く痺れ、堪らない気持ちがより愛欲を扇ぎ立てます。

 己の意のまま快楽を得て、さらに深まる陛下の熱っぽい表情に優越を感じ、一心不乱に躯を弾けておりました。躯中が快楽に憑りつかれ、我を忘れていたのです。このような淫らな事が出来るのも陛下の前だけです。

「はぁ…其方の自ら乱れる姿もそそられる。もっとその姿を見せてみよ」
「え?…あぁっ」

 陛下から熱い声がかかり、私は閉じていた瞼を開きます。すると上体を反らされ、陛下に胸の先端を吸い付かれます。

「はぁっ、んあっ、ふあぁっ…あんっ」

 止めどなく嬌声が零れ落ち、いつのまにか腰は前後へと揺さぶられ、主導権は陛下に変わっておりました。自分で動いていた時と比べものにはならない獰猛とした動きに、まだ気持ちが追いつけておりません。

 ですが、躯は厭らしい程に反応をし、溢れる快楽すべてを呑み込んでいました。胸の突起はどんなに貪られても、どんどん誘うように色づいた姿へと変わっていき、結合部は潤骨油で溢れ、貪欲に迫る肉杭をとどめる事なく、受け入れます。

 ここまでの躯になったのも陛下と躯を重ねてからです。人並みより性欲に欠けていた私でしたが、陛下がお相手になり、すべてが変わったように思えます。そこには陛下に対する情愛があるからでしょうか。

 私の心の底で眠っていた感情を再び芽吹かせたのは陛下です。最後の恋愛から数年以上が経ち、すっかり色恋沙汰から疎遠となり、新たに恋をする事ですら億劫に感じていた私ですが、陛下は特別な存在です。

 傍におりますと、何かとても懐かしい気持ちになって落ち着きます。長年一緒に過ごしてきたおしどり夫婦のような感じでしょうか。厚顔無恥な考えである事は重々に分かっておりますが、私にとって陛下の存在は当たり前になりつつありました。

「ふぁっんっ、はぁっ、あぁんっ」

 息の仕方も分からなくなる程の激しく波打つ水音と渦巻く快楽、陛下の達しが近いのでしょうか。腰の動きに拍車がかかり、同じく私も快楽の波が脳天へと湧き上がってきました。

「はぁあっ、あんっ…も…もうっ」

 キュゥッと膣の奥が収縮し、躯が小刻みに震え上がると、

「んあぁぁああ――――っ!」

 狂おしい嬌声と共に膣内に精液が注ぎ込まれ、私の全身が雷光に打たれたように戦慄き、陛下と一緒に頂点を迎えました…。

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―――あちらは?…アトラクト陛下?いえ、アティレル陛下でしょうか?

 アトラクト陛下との艶事の後、眠りについた私は決まって例の夢の中へと入ります。今、目の前に映っている男性は陛下ですね。未だにそれがアトラクト陛下なのか、600年ほど前のアティレル陛下なのか、見分けがつきません。

 アトラクト陛下には毎夜見る夢の話をしておりませんでした。漆黒の長い髪の女性と常にご一緒ですとお伝えするのが、どうもこそばゆいのです。勝手な思い込みではありますが、その女性が自分ではないかと思うと、言えないものです。

 今回も陛下はその女性とご一緒であり、女性は相変わらずこちらに背を向けております。お二人はベンチに腰を掛けているようです。ブロンズ像が立っているところをみますと、何処かの庭園でしょうか。

―――?

 私は目を見張ります。なにやら陛下が深刻そうな面持ちで、女性に話をなさっています。それに対し、心なしか女性がお顔を伏せているように見え、とても深刻な様子が伝わってきました。いつもはお二人の微笑ましい光景を目にしますが、今回はどうなさったのでしょうか。

 …………………………。

 暫くの間、陛下が一方的に話をなさっている様子でした。ところが、ふと陛下が女性から視線を逸らした瞬間、女性が何かに反応したように顔を上げ、陛下の腕を掴みます。言い合い?とまでは言いませんが、女性が必死になって何かを伝えているようでした。

 それに対し、陛下はお顔を横に振り、視線を女性へと戻されます。陛下の強い意志が宿った瞳に、再び私は瞠目としました。女性は身動みじろぎせず、陛下の瞳を見つめ返しています。

 …………………………。

 その内に陛下はそっと女性の左頬に手を添えられ、ゆっくりとした口の動きで何かを伝えていらっしゃいます。そちらのご様子がとても真剣で、見ているこちらまで緊張が走ります。

 一体、お二人に何があったのでしょうか。私には分かり兼ねますが、とても大事なお話である事は確かだと思います。この時からお二人に何かが変わってきたのだと思います。それはあながち間違った考えではありませんでした。

 何故ならこれを機に夢に大きな変化が訪れてきたからです。それは何を意味するのでしょうか?この時の私はあまり重要視してはおりませんでしたが、のちにとても重要な意味をもつ事であると、この時の私には当然知る由もありませんでした…。





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