Birth30「芽生える想い」




「ふぁあっ」

 圧迫感によって私の躯は仰け反ります。熱塊が花襞を割って入ってくる様子を、息を詰めて見遣っておりましたが、思っていた以上の重量感にされてしまいました。

「は…ぁっん……はぁ、あぁん…」

 昨夜よりも抵抗は少なく感じますが、それでも馴染むには時間を要します。まだ気持ちの方に抗いが残っているのかもしれません。とはいえ、打ち突く度に凄艶を深められる陛下のお姿を目にしてしまえば、躯中がカッと火照り、急速に馴染んでいきました。

 神秘的な美しさをもつ陛下の艶やかなお姿はどんな頑なな思いも婬情を抱かせます。言葉が過ぎますが、彼は心を惑わす淫魔にすら思えるのです。美しさだけで、ここまで人の気持ちを乱れさせてしまうのですから。

 徐々に膣内が解かされていき、苦も無く熱塊の抽挿を受け入れられるようになりますと、互いの潤い溢れる情液がグチュヌチュと粘着質な水音を響かせ、気持ちを昂らせていきます。

「はんっ…あんっ、はぁあ!」
「今日もしっかりと其方は絡み付いてくるのだな」

 陛下は厭らしい言い方をされますが、私は故意にしているのではありません。そう仕向けられているのか、陛下の独自の言葉責めなのか分かりませんが、行為中の私にはあれこれとする余裕はありません。

 呼吸が重くなり、息苦しさを感じる筈ですが、躯はすっかりと快美感を得ておりました。もっと快楽を得たいとすら貪欲に思えてしまう程です。どうしてこんなにも酔わされてしまうのでしょうか。もう思考すら奪われそうになった時です。

「はぅ…んっ」

 改めて目にしてみれば、私は夜着を身に纏ったまま挿入されています。秘部と胸といった恥ずかしい部分のみを露わにしたあられのない姿です。

―――これは半脱ぎプレイですか!

 男性は全裸よりも肌蹴たぐらいの方が萌えると聞いた事がありますが、陛下もその嗜好がおありなのでしょうか。突っ込みも束の間、両胸を陛下の大きな手で包み込まれ、勃起した胸の頂を中心に揉みしだかれます。より強い刺激に見舞われ、突っ込みなんぞ彼方へと飛んでいってしまいました。

「はんっ…あんっ、やぁあっ、はぁあ!」

 私の淫声が上がると、陛下の腰はパンパンと穿ち始めて情液を弾き、その生々しい音に堪え難い気持ちとなった私は陛下から顔を背きます。すると、陛下から思わぬ言葉が落とされました。

「沙都、こちらに顔を向け」
「え…」

 命令口調に驚愕しますが、反射的に私は言われた通りに顔を上げます。

―――ドクンッ。

 間近に陛下のお顔があり、そのたぎるような熱っぽいお姿に、結合部がまた一段と潤いを帯び、キュッと締まるのを感じました。そちらに一瞬、陛下のお顔が反応されたのを私は見逃しませんでした。

「口づけだ」

 耳の奥に絡み付くような甘い声で誘われ、私は自ら唇を近づけ、陛下の唇と重ね合いました。すぐに互いの舌が絡み回り、私の頭上には陛下の手が置かれ、私は自然と陛下の首に腕が回りました。

 抱き合うような体勢となりながら、貪るような口づけが繰り返されます。その間にもパンパンと陛下の腰使いは激しくなり、私の口元から甘さと難が入り混じった吐息と陛下の艶っぽい息とがぶつかり合います。

「んっ、んんっ、んぁっ、んっ!」

 上と下とどちらの口からも甘い蕩けそうな快感が迸り、満身に法悦が浸っておりました。求められるような濃厚な口づけと穿ちに、言葉で受け取らなくても、そこに愛があるように錯覚してしまうのは不遜な考えでしょうか。

 私の中で確実に新たな感情が芽生えておりました。「それ」はとても懐かしい気持ちでもありましたが、今のこの行為で追求する事が叶いません。いえ、何処かで追求してはならぬようにも思えました。

「はぁっ、あぁんっ、はぁんっ、んあっ!」

 さらに揺さぶりが激しくなると、おのずと唇は離れていき、陛下は上体を起こし、下肢一色に熱が集中します。身を焦がすような熱さに、互いが流汗淋漓りゅうかんりんりんとなって、快感を追い続けます。そして…。

「沙都、そろそろ…」

 絞り出すような掠れた陛下の声を耳にし、彼の絶頂が近い事を悟ります。そちらは私も同じでした。実は長い間、達しそうで達せられない状態が続いており、陛下が昇り詰めるのを待っておりました。

「は…いっ」

 声になったのか分からない、か細い返事をした私は頷くのがやっとでした。その答えに陛下からグイッと両脚を大きく広げられてしまい、ズンッと最奥に灼熱の塊が沈んできました。

「あっ…ぁあん!」

 腰をしっかりと押さえられ、今までとは比にならない程の雄の蠢きに、躯が壊れてしまうのでないかと戦慄を感じましたが、どんどんと高昇ってくる快楽の波に、頭の中が真っ白となり、

「…っ」
「んあぁぁああ――――っ」

 陛下の息を詰めた声と共に秘部が痙攣し、ドクンドクンッと吐精された欲望が私の中へと余すところなく注ぎ込まれておりました。二人同時に達したのが分かります。痙攣していた躯が急に弛緩された事によって、互いが脱力感に見舞われ、陛下は私へと躯を預けて来られました。

「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」」

 私達は繋がったまま、乱れている息を正常に戻そうとしておりました。

 …………………………。

「今日は意識が残っているようだな?」
「え?」

 ふと口元を綻ばせて問う陛下に、私は羞恥心が湧き起こります。昨夜はジワジワと追い詰められたり、性急を突かれたりと、久々の私には刺激が強かったのですよ? そちらを絶対に陛下は分かっておっしゃるのですから、たちの悪い方ですよね。

 私は言葉を返しませんでしたが、何か物言いたげな視線をぶつけます。それが陛下には思いのほか、面白く思われたのか、笑みを深められ…そちらがまた私に嫌な予感を過らせました。

「今日やっと其方の中で達せられたのだ。だが、昨夜は切なる思いをして私は眠りについた。まだ昨夜の分が満たされていないようでな、其方の余力が残っている内に満たしておかねば…」

―――なんて事でしょう…。

 私はポカンとしてしまいましたよ? どうやら私は昨日、陛下を生殺しにした罪をこれから償わなければならなくなったようです…。

◆+。・゜*:。+◆+。・゜*:。+◆

―――この感じは…?

 優しく包まれているような心地好い浮遊感に意識はあり、懐かしいとも言えるこのフワフワとした感じは昨日もありましたね。確かそうです。夢の中で映像を俯瞰ふかんしていた時です。という事は、私はまた夢の中にいるのでしょうか…。

―――あちらは…?

 昨日も目にしましたアトラクト陛下と艶やかな長い髪をもつ女性です。薄暗くはありますが、何故だか私にはお二人だと認識が出来たのです。格式のある煌びやかな礼服を身に纏うお二人は後ろ姿だけでも、絵になりますね。

 そしてアングルは右側に立っていらっしゃるアトラクト陛下のお顔を映し出し、そのお隣には漆黒の美しい髪を流した後ろ姿の女性が並んでおりました。お二人はバルコニーの手すりの前で寄り添うように肩を並べ、語り合っているご様子です。

 見るからに仲の良い恋人同志のように見えます。夜景をご覧になっているのでしょうか。それとも星空でしょうか。逢瀬を愉しんでいらっしゃるのでしょうね。この視点からですと、陛下のお顔しか分かりませんが、とても朗らかな笑みを見せていらっしゃいます。

 なんだか羨ましく思えますね。あのような笑みは相手に心を許し安心なさっているという事ですから。愛情の深さが窺えます。陛下をそのような笑みにさせる相手の女性は一体どのような方なのでしょうか…。





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